表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/86

実家

【妻のターン】


 午後9時30分。最寄駅からタクシーを拾って家に向かう。随分と遅くなってしまった。気づけば、忍法すり替えの術で、すり替えた分も全部使ってしまっている。また、修ちゃんは子供みたいにプンすか怒るのだろうか。


 『午後7時以降は、帰りはタクシーで』修ちゃんが私に課した法律だ。以前、『もったいないから』と歩いて帰ったらめっちゃ叱られた。


 そんなところに、夫の愛情を感じてしまうのは私だけだろうか。


 家の近くまで来ると、タクシーのライトに修ちゃんが照らされた。


 あっ……やべっ。めちゃ怒ってる。


「運転手さん、このまま通り過ぎちゃってください」


「えっ、いいんですか? なんか男の人が待ってますけど」


 チラッと携帯を見ると、知らぬうちに30件。メールの文面には罵詈雑言の嵐。いわゆる相当なお冠状態。


 ああ、よかった。携帯の電源切っといて。


「いいんです! 実家に泊まるから、いいんです!」


「あの……全力で追ってきてますけど」


「いいんです! 引き離しちゃっていいんです!」


 結局、メールを入れることにした。


『怒っているようなので実家に泊まりますm(_ _)m』


「ただいまー、おかぁさん」


 そう言いながら実家の玄関へと入る。


「あらぁ、里佳さん。どうしたの、こんな夜に1人で」


 せわしそうに、しかし嬉しそうに出迎えてくれた。


「エへへ……今日だけ泊めてもらえるとありがたいんですが」


「なに、喧嘩でもしたの?」


 お母さんは怪訝な顔をする。


「実は……今日、友達とディナーに行ったんですけど……《《半年ぶり》》に。それで修ちゃん怒っちゃって」


 半年ぶり、を強調しつつ先ほど送られた携帯のメール本文を見せる。もちろん改ざん済みである。


「……なんて甲斐性の無い夫なんでしょ。いいわ、ちょっと携帯貸して」


 お母さんはそう言って、私の携帯を取って電話をかける。面白そうなので『スピーカーモード』にして私にも聞こえるようにしてもらった。


              ♪♪♪


「もしもし……ああおふくろどうしたんだよ?」


「修! 友達とご飯食べに行くくらいでこんなメール書くなんて最低だよ! 私はあんたをそんな甲斐性なしの息子に育てた覚えはないよ!」


「なっ……ちょ……ええええっ! なんでおふくろがそんな事……」


「なんでもなにも里佳さんが来てくれたんだ。ああ、可哀想に。こんなに目を腫らして。なんで、こんな可愛い妻に対してこんな所業ができるんだいこの悪魔!」


 当然、私の目は一向に腫れていない。お母さんは少し……いやかなり大げさに言ってくれた。


「あーのー女! 『実家に帰る』って俺の実家か! おふくろ聞いてくれ、あんた騙されてんだよ、その女に。とにかくちょっと代わってくれ」


「あのおん……妻に対してあの女って……どうしてこんなろくでなしに育ったか! いい、あんたが反省するまで里佳さんはうちで預かる。いい、それまで育児も家事も全部やりんさい! じゃあね」


「ちょ、おふくろ、まっ――」


 修ちゃんが話し終わる前に、携帯がきれた。


「さっ、これでいい。あっ、ミカン食べる? 徳島から甘いの送ってくれたんだ」


 そう言いながら笑顔で私の手をひくお母さん。


 ――よかった……私の実家じゃ本性ばれてるからこうはいかない。お母さん、私実家大好きです。


「修ちゃんの面白動画見ます? 最近いいの取れたんです」


 神様、こんなに面白い夫と家族をくださってありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 夫の実家! 面白すぎます! 義母まで手懐けて! かなりのやり手ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ