俺のバナナ
深夜0時半に帰宅。疲れた……とにかく、疲れた。なんなんだ会社のやつらは。俺に恨みでもあるのかというぐらい、いろいろ無理難題を課してくる。そのせいで、もう身体は限界が近い。そして、この寒空に自転車通勤。もう、逆に疲れすぎてテンションが上がって、自転車乗りながら音楽を熱唱。たまに通行人に変な目で見られたりした。
しかし、もう我が家だ。
「ただいまー」
って誰も起きてるわけ――
「おかえり」
珍しく妻が起きていて、出迎えてくれた。
「里佳……お前、こんな時間まで」
疲労からだろうか、不意に涙腺が緩んでくる。
「なに言ってるの。仕事から帰ってきた夫を出迎えるのは、貞淑な妻の務めでしょう?」
「そ、そうか」
お前がいつなんじなんぷん貞淑だったのかは、全力で問いかけたいところではあるが、とにかく、ありがたい。
「ご飯できてるから」
「ん。ありがと」
そう言って、スーツを預けて冷蔵庫へ向かう。
とにかく、バナナ……バナナ……バナ……バ――
「バナナねーじゃねーか――――――――!!!」
どこやったんじゃ俺のバナナ――――――!
「えっ、嘘……まさか……凛!?」
「む、娘のせいにするとは親の風上にも置けない奴だな!」
「そうよね、私も娘じゃないって信じたい!」
そう言って俺の手をギュッと握る第一容疑者。
「というか……お前だろ!」
名前書いてあった……俺の名前をひらがなで書いてあったよな。
「食べてないよー」
「じゃあ、誰が食べたんだよ!?」
そう問い詰めると、凛は冷蔵庫を開けて、見渡す。
「タベテナイヨー」
じゃあ、なんでカタコトなんだよ!
「お前だろう!? いや、お前しかいない!」
「違うって……はっ!?」
「……どうした?」
自首するのか?
「ちょっと考えてみて。凛は、食べてないって。で、もちろん私も食べてない……ということは――」
「バナナが勝手に動き出していなくなったってのか! そんなわけないだろ!」
「だよね! 私もそう思う……ってことは……まさか……空き巣」
「じゃねーよ! バナナだけ食って帰る空き巣がどこにいる!?」
「だよね! 財布とか、貴重品とか確認するね!」
ど、どうしても空き巣のせいにしようとするのかこの馬鹿妻は。
・・・
10分後。
「隊長! ありませんでした」
「……そうか」
ま、まあよかったけども。
「ごくろうさまでした。お休みなさい。いやぁ、空き巣じゃなくてよかったー」
妻は、満足げに二階へ上がって行った。
・・・
俺のバナナは!?




