キラキラネーム【男の子編3】
【妻のターン】
午前6時。大分議論も白熱してきた。そして、あと30分で目的を達しつつある。
そう、暇つぶしという目的を。
早く起きすぎて二度寝したら確実に朝ご飯を作れない。私という最後の砦が寝坊してしまっては、修ちゃんは会社に遅刻し、凜は幼稚園に遅刻してしまう。それは、イケない。
ああ、なんという献身的な妻なんだろう、私って奴は。
「……さっきからなにを考えているんだ?」
「ん? 私っていい妻だな―って」
「……ああそうか、お前の自己評価は狂っているんだったな」
「じゃあ、次の名前行くね……空と書いてスカイは?」
「ああ、前でた奴か。こうして考えてみると、悪くないな。他には」
「別空」
「前にも言ったけどアホか!」
「別次元」
「漢字の問題じゃない!」
「別事件」
「すでに意味が遠のいている!?」
「女子に人気なんだよ!」
「最後のはいじめられるぞ!」
はぁ……はぁ……
「じゃあ、小五郎は?」
「ちょ、ちょっと古風なんじゃないか? 明智小五郎とか、名探偵が好きな人は良く考えると思うけど」
「大丈夫。コナンと書いて小五郎だから」
「当て字はなにをやってもいいということじゃないぞ!」
「えっ……ダメなの? 名探偵つながりで……」
「せめて、アニメにそうなら新一と書いてコナンだろ……お前のやつだとオッサンとコナンが合体してるぞ」
「じゃあ新一」
「ダメに決まってるんだろ!」
「なんでよ! 言う通りにしたじゃない!」
「自分で考えろバカ!」
はぁ……はぁ……
「やっぱり決まんないね」
「ほぼ、わかってきたがお前が全然真面目に決める気がないからな」
よ、読まれている。
「んー? パパ―、ママーなにやってるの?」
その時、凜ちゃんがネムネム顔で起きてきた。
「おはよー、凜ちゃん。生まれてくる弟の名前を考えてるんだよ!」
修ちゃんが抱っこして、高い高いしながら娘に言う。娘にデレデレ。この男は『目に入れても、痛くない』という痛い夫だ。
「で、私の名前の意味は?」
ひ、ひいいいいいいいっ!
「「あは、あははははははは」」
夫婦ともども苦笑い。
一年前のことを未だ根に持つ記憶力抜群幼稚園児。
そんな私たちを、娘は、生ごみを見るかのように見つめる。
「リ、里佳! 今日の朝ご飯はな、なんだったっけ?」
「え、ええっと……う、ウインナー! 凜の大好きなタコさんウインナーだよ!」
「ええっ! わーい! わーい! タコさんタコさーん」
嬉しいの舞をしながら、凜はリビングへと駆けて行った。
「里佳……ナイスプレー」
「修ちゃんこそ」
ガッチリ握手をして試合終了。
「……ねえ、修ちゃん。タコは――」
「寿司屋か!」
名前論争は一日では終わりそうもない。




