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ニンニン

【夫のターン】


 午後7時30分。


 トイレ掃除と共に、やっと、気持ちの整理がついた。


 数時間前、全力ダッシュで走り去っていく妻。呆然と見送る、俺。


 嘘……あの悲壮感がただの嘘だとわかり、決定。後で、グールグリの刑、決定。 


 だいたいあの女は普通に出かけられないのだろうか。買い物に行きたいなら行きたいで、別に行かせてやるのに……


 大きくため息をつきながら、積木で遊んでる凛の下へ向かった。


 娘はもうすぐ小学生になる。親バカかもしれないが頭もよく可愛い。外面がわが俺じゃなく、妻に似たことに心から安堵する。願わくば、性格だけは似てほしくない所だが。


「……ねえ、パパ。私、お外行きたい」


 外……か、まあいいかな。何より、抑圧させて外への興味を失わせたくない。好奇心のある年頃だ。夜の外も歩いてみたいのだろう。


「わかった、じゃあ行くか」


「やったぁー。じゃあ、パパ、お外行ってて」


 ふふ、可愛いな。無邪気に喜んでる。なにがあっても娘を悪魔つまの手から守ってやらないと。


 外へ出て、携帯を眺めた。あいつからの着信は無い……ご飯までに戻ってくるのか……それとも友達とご飯を食べてくるのか微妙なところだ。普段育児で疲れてるんだからこんな時ぐらい『ゆっくりしていけ』と連絡しようか――


 ガチャリ


 ……後ろから不穏な音。最初は何の音かわからなかったので、すぐにドアを開けようとすると、鍵が閉まっている。


 ま、まさか――すぐにドアホンを押した。


「り、凛ちゃーん。どういうつもりかな? 鍵かけちゃったら、パパ入れないんだけど」


「うん、入れないね。フフフ……」


 ……あーのー女ぁ! 娘にどーゆー教育してんだ!


「凛ちゃん、怒らないから開けないさい。あのおん……ママの真似しちゃメッだよ」


 怒りで声が震える。もちろん、凛に対してじゃなく、ろくな教育を施していないあの女にだ。


「パパ、私ねアイスクリームが食べたい」


 性格もしっかり母親似になった娘の衝撃的一言。わかった、待っていろ。アイスクリームにつられて開けたが最後、グーリグリの刑だ。


            ・・・


 コンビニに到着。えっと……凜の好きなピーチ味のアイスクリームに……俺の好きなつまみとビール買って……で……ハーゲンダッツ……かぁ。


 理佳はハーゲンダッツが好きだ。食べていると高級感に浸れるらしい。


 元々、妻はいいとこの御嬢さんだ。よく、何の変哲もないど平民の俺のところへ嫁いでくれたと思う。こんな時も、あいつの好物が頭に浮かぶなんて惚れた男の弱みだろうか。


 ――いや、何言ってんだ! 買う訳ないだろ。あいつに俺がどんな目に遭わされてると思ってんだ。


 その場のハーゲンダッツを戻して、レジへ直行する。


「いらっしゃいませ……」


 店員が愛想よく、手際よく商品のQRリーダーを読ませていく……


 待っている間、初めてあいつが美味しそうにアイスを食べている光景が浮かんできた。『なんて可愛く食べる子なんだろう』と衝撃を受けた。その頃はもう俺がべた惚れで、正直結婚できるなんて思ってもみなかったな……


「……すいません! ちょっと待って下さい」


 店員を止めてハーゲンダッツの下へ走る……しょうがない。惚れた男が負けなんだ。すぐに店員の下へ戻り、ハーゲンダッツをレジ前に置く。


「864円になります」


 財布を確認すると、小銭は無かった。すぐにお札を取り出して、置いた。


「あの……お客様、これは……」


 店員の戸惑った表情。その視線の先にはお札が――


 ……なんじゃこりゃあ!


 明らかな偽札。夏目漱石が手書きで書かれている……あっ右下に文字が――


『凛と一緒に作りました♪ お札は貰っていくぞ、ニンニン』




 ……あーのーおんなー、離婚だ! 絶対に離婚してやる!

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