表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/86

イタズラ


【夫のターン】


 妊娠してからというもの、妻のイライラが増えた。と、言ってもヒステリックになるとか、物を投げたりとか、そんなにわかりやすくはない。ゲリラ的に、女神のような微笑みを魅せながらイタズラを仕掛けてくるという意味不明な行動でイライラを表現する。


「んーねえ、修ちゃん」


 そのニコニコ笑顔に、数歩後ずさる。


「……今度はなにを企んでいる」


「なんにも」


 なんにものはずは、ない。なんにも企んでいないはずはないのだ。


「その手は食わん。もう、お前の手には踊らされない」


 じりじりと距離を取る、俺。


「……妻を警戒するなんて、どんな夫ですか?」


「こっちのセリフだ。夫に警戒させるとは、どんな妻だ?」


「はいはい、もうあきらめました」


 ガッカリしながら、里佳は台所へ向かった。


 ふっ……俺だって伊達にイタズラれ経験百戦錬磨ではない。あんな可愛い時の妻は、近づくには及ばないのだ。


              ・・・


「修ちゃーん、ご飯だから、凛呼んできてー」


「へーい……」


 すぐにソファから立ち上がり、おもちゃの人体模型の臓器の位置を難しそうに悩む娘を抱っこし、食卓に座らせる。興味があるからって買い与えたが、この子の将来がリアルに恐ろしくなってきている今日この頃。


「「いただきまーす」」


 ん……ちょっと待て。


 ご飯と味噌汁ひじきとサラダ、そしてハンバーグを妻のと入れ替える。


「な、なんて疑い深い……修ちゃん! 結婚生活とは信頼関係があってからでしょう!」


「……とりあえず、かつておにぎりを砂糖で握った事実を思い出せ」


「もうあの時とは違うよ! 夫婦は成長しレベルアップしたよ!」


「その口を閉ざして、全て一口毒見してみるがいい」


「……凛、このハンバーグ食べる?」


「ほら見ろ!」


「じょ、冗談だって。ほらっ、この通り」


 パクッ……


 妻がハンバーグをモグモグ。


 特段、変わった様子はない。


「ひじき、ご飯、サラダ、味噌汁も」


「どれだけ疑り深いんですか……まあ、いいけど」


 パクッ……パクッ……パクッ……ゴクッ……


 特段変化はない。


「……取り越し苦労か」


「だから言ったじゃん!」


 妻が唇をとんがらせて不満を言う。


「いや、すまなかった。つい、疑心暗鬼になってて……」


 さあ、ご飯だ……うん、うまい。


 モグモグ


 むしゃむしゃ


 ゴグッ……


「ぐあああああああああああああっ」


 水がぁ! 水がぁ―――――――――!


「ふっ……」


「な、なんだこの水は!? すっぱー―――――――――――!」


「クエン酸にしてみました!」








 ――ました、じゃねぇよ。



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ