父
【夫のターン】
両親離婚の危機。妹にもそれとなく探ってみたが、そもそも両親が喧嘩をしている事実を知らないらしかった。こっちも詳しくは知らないので、むやみに心配させぬよう、妹には伏せる。
母は妻に任せて、俺は父親に事情を聞くことにした。
そして、実家に到着。
今まで、両親が離婚だのなんだの言ってきたことはない。俺も妹も、どこかで両親が離婚するはずなんてないって思っていた。
でも、この年になってわかった。当り前だと思っていたことが、実は全然当り前じゃなかったことに。どれだけ、父と母が努力して、円満な家庭を築きあげてくれていたことに。
インターホンを鳴らすと、「はーい」と低い声が出る。
「親父……俺だけど」
「おお、修か。久しぶりだな」
「う、うん。実はおふくろが……」
「そっか。お前の所に行ったか」
心なしか少し沈んだ声。やはり、なにかがあったのだと、直感的に感じる。母親が離婚だと叫ぶほどの重大な事態が。
家の中に入ると、家はいつも通り綺麗になっていた。それは、几帳面な親父が掃除するからで、それを大雑把な母親が汚すというのが日常であった。それでも、親父はなんら怒ることなく黙々と掃除する。その背中を、中高生の頃は酷く情けなく思い、今では偉大な父だと思う。
リビングに入ると、いつも通り父親はギターを弾いていた。休日に弾く趣味のギター。「音が聞こえないじゃない!」と後からテレビをつけて怒るジャイアンのような母親の怒号が……今日は聞こえない。
「おう、修」
「うん」
「……」
「……」
ベンベンベベベン♪ ベンベン♪
下手なギターがしばらく続く。
俺は、その音を、しばらく聞いていた。
かつて、学生運動に参加していたという……父。
大学に7年間在籍し、ひたすら哲学を勉強していたという……父。
今では想像もできないほど、若く、短気で、血気盛んであったという……父。
そして……おふくろと結婚して、哲学書をタンスにしまい、ひたすら家族のために働いた……父。
・・・
なんか、さまざまな気持ちが溢れ出てくる。
両親が離婚の危機になるってことは、どうやら大人になって子どもを持つ身になっても、それなりにショックらしい。
「……ふぅ」
父親のため息が深くリビングに、響く。
「親父……なにがあったか……聞いていいか?」
「……ああ」
「いったい……なにが?」
「……」
「……」
「嵐の……桜井君いるだろ?」
「……うん?」
「これ……サイン入りのコップ」
……割れている。
えっ理由これ!?




