京都旅行(3)
【妻のターン】
謎の外国人と別れた後行った後、坂本龍馬の墓がある京都霊山護國神社に到着。
坂本龍馬。夫が大ファンで、たまに寝言で『世界の海援隊にでもなろうかの』とか、口走ってるぐらいだ。さっき、謎の外国人と池田家に行って、『ここで、龍馬先生が……』と、しみじみと柱に語り掛けていた。
詳しくは知らないが、おりょうという超美人の妻がいて、新婚旅行を初めて行った人だそうだ。
「ここに……坂本龍馬先生が……」
本日2度目のつぶやき。
その後も、ブツブツと感慨深げに山道を進んでいく修ちゃん。娘が疲れて足を止めるが、見向きもせずに進んでいく。
仕方なく、私が娘をおぶって歩く。
龍馬の墓に到着。
「ここに……坂本龍馬先生が……」
「……」
なんかい言うんだよ、こいつ。
そんな心のツッコミを全く気付かずに拝む夫。
「ママー、お腹減ったー」
「……凛、我慢なさい」
夫曰く、『男の趣味は、ロマンだ』とのこと。
貞淑で献身的な妻としては、ロマンな夫を全力でサポートさせていただきたいところだ。
その代わり、後でマカロンを食べたい。
「里佳……」
「はい」
「俺は……坂本龍馬のようになりたい……」
「……」
いつもなら、からかって、小馬鹿にして、怒らせているところだが、夫の目がマジである。
「じゃあ、私は『おりょう』だね」
「……ふざけんな」
冷静にツッコまれる。
「凛、坂本龍馬はな……北辰一刀流という剣術でも凄い腕前でな、片手上段というこんな感じの構えで、バッタバッタ凄腕の剣士を倒していったんだ。あの、桂小五郎もそれはそれは凄い剣豪だったんだけど――」
娘を抱きかかえながら、キラキラした瞳で語り掛ける父。
そんな父親を、生ごみを見るかのように見下す娘。
どうやら、興味がないようだ。
全然のようだ。
我が娘ながら、なんと恐ろしいほど冷たい視線で人をみるものだ。
将来が末恐ろしい。
「でな、桂小五郎に龍馬は言ったんだよ! 『薩摩じゃ長州じゃといつまでそんな小さなことにこだわっとる! これは、薩長のためじゃのうて日本のための同盟じゃ』と……」
なおも、娘が生ごみを見るかのように、父親を見る。
さっきまで天使のような微笑みを浮かべていた少女が。
興味のない話をされた途端、そんな冷徹な瞳で。
私たちはとんでもないモンスターを生み出してしまったのかも――
「ちょっと里佳! お前、ちゃんと聞いてるか?」
「は、はい」
「それでな……坂本龍馬は思ったわけだ。このまま薩長と幕府がぶつかって日本の国力を――」
「……」
30分間、母娘、生ごみを見るような瞳で、夫を見続けた。