風邪(2日目)
【夫のターン】
風邪が治らなかった。というか、治るわけがない。一日中あのバカにからかわれ続けたわけだから。ベッドの上で寝転びながら、なんでこんな奴と結婚してしまったのだろうとシミジミと考える。
ガチャ。
「修ちゃん、大丈夫?」
「き、貴様……ゴホッ、ゴホッ」
いけしゃあしゃあと。
誰のせいだと思ってるんだ。
こっちは仕事休んでるんだよ。
「でも、ゆっくりできていいね」
「俺の会社の同僚たちに謝れ!」
「まあまあ、おじや食べる?」
「自分で作るわど阿呆!」
甘くないやつをな!
「なんか……怒ってる?」
「自分の胸に手を当てて考えてみろ!」
「……」
里佳が神妙な面持ちで胸に手を当てるが、どうやら思い当るふしは無かったようだ。我妻ながら、まあまあヤバい奴だと思う。
「凜ちゃんは?」
「実家。ここは病原菌が舞ってるから」
「ば……ばい菌扱いすんじゃねえよ」
はぁ……会いたい。
会って、タカイタカイしてスリスリしてナデナデしたい。
娘に会えない一日とは、こんなに辛いものなのか。
ポン。
妻が俺の肩を叩く。
「寂しがらないで。私がその分頑張るから」
「……お前はもうなにもするな」
頼むから。
死んでしまうから。
「まあ、でも昨日よりは顔色いいじゃん。せっかくだから、休みを楽しんだら? ゆっくりテレビでも見て」
「……はぁ、まあそうだな」
会社のみんなには悪いけど、ゆっくり休んで元気になって。その分、残業は……やらないかもしれないけど。
「ねえ、なに見るなに見る?」
お……お前は働けよ。
・・・
結局、二人して並んでテレビを見る。
なんなんだ、お前は。
そんな中、里佳の頭がコテッと俺の肩に乗る。
「エヘヘ……久しぶりだね」
……シャ……シャンシャン級に可愛い。
そう言えば最近遅くまで仕事ばっかだった。帰ってきても会話もせずに、すぐに寝ちゃってたし。休日はどうしたって娘中心になっちゃうし……
もしかしたら、随分妻に寂しい思いを――
♪♪♪
「あっ、ちょっとゴメン……あっ、真奈? うん、大丈夫だよ……えっ? ああ、夫の看病中。献身的な妻でしょ?」
……お前がいつなんじなんぷん献身的な妻だったというのだろうか。
「えっ……食べ放題? いやいや、何言ってんの? 私は夫の看病という使命が……えっ、焼肉おごり……修ちゃん、ちょっと待っててね!」
そう言って、妻がいそいそと部屋を出て行く。
戻ってきたのは、4時間後だった。




