ボードゲーム
【妻のターン】
実家恒例ボードゲーム。娘の世話を義父さん、義母さんに任せ、私は毎年、義妹の美幸ちゃんと、夫とやる。
はっきり言って、私は、このボードゲームに命をかけている。
異常なほど、ボードゲームに白熱する女、それが私。
「いや、いいからルーレット回せよ」
「相変わらず、里佳ちゃんはボードゲームになるとテンションおかしいよね」
夫と美幸ちゃんはあくまで冷静を保っている。しかし、そのポーカーフェイスを、今日は崩してみせる!
ボードゲームを楽しむなら、少なくとも3人。4人がベストである。
『エリザベスの夢』
主人公のエリザベスがこの世知辛い世の中を暮らしながらも貴族になって栄華を極めたり、没落したりしていくゲーム。
「私の評価だと、これこそがボードゲーム オブ ボードゲ―ム」
この日のために、購入。おこずかいをコツコツ貯めて買った秘密兵器だ。
「……どうでもいいから、早くやろうぜ」
ため息をつきながら、夫がゲームのお金を配る。
「ルールはわかる?」
「わかんない。でも、いい」
そう言って夫はお金を配る。毎年毎年の恒例行事なので完全に飽きている夫。これ以上ボードゲームのことはなにも聞きたくない感じだ。
でも、私が、絶対に熱血させてみせる。
さあ、記念すべき、第一投!
カラララララッ……
「……6。6か。なかなか、悪くない数字ねーー」
!?
『ふりだしに戻る』
「……ぐぐぐっ」
悔しい。悔しい。思わず瞳から溢れてくる涙を目一杯こらえる。
「ま、まだ始まったばかりだから」
美幸ちゃんが優しい言葉をかけてくれる。
でも……その優しさが、ボードゲームには命取りなのよ!
「じゃあ、私、回すわ」
そう言って美幸ちゃんがルーレットを回す。数は8。
『結婚する。ご祝儀に2000ガルドみんなからもらう』
「よし。結婚結婚ー」
現在絶賛独身中の美幸ちゃんにとって、結婚は望めぬ夢である。それがボード上であっても叶うのは私としても、嬉しい。嬉しいよ、美幸ちゃん。
「次は俺、行きまーす」
夫がルーレットを回すと……5。
『財布を落とす。500ガルドを支払う』
「えー、ついてないなー」
そう笑いながら、お金を支払う。
なにを笑ってるのかしらこの男は。その500ガルドが命取りにならなければいいわね。
「はい! はい! 今度私ねっ!」
「……わかったよ」
な……むさん!
勢いよく、ルーレットを回す。
カラララララッ……6。
『ふりだしに戻る』
・・・
う、嘘でしょ。
「げ、元気出してよ。まだ、始まったばかりじゃない」
美幸ちゃんが崩れ落ちた私をイイコイイコ。
その後、夫と、美幸ちゃんはルーレットを回してそれぞれ駒を進めていく。
ワイワイ。
ガヤガヤ。
一方、私。
6
6
6
『ふりだしに戻る』
『ふりだしに戻る』
『ふりだしに戻る』
「なんで……なんでよー! 神様! 私、こんなにいい子なのに!?」
「……お前がいつ何時何分いい子だったんだ言ってみろ」
夫の冷静なツッコミを完全に無視してひざまずく。
私、こんなにも、いい子なのに。
「でも、なんで6しか出ないんだろうね」
美幸ちゃんが引き気味に言うが、それをこちらが聞きたいとは、私の方だ。4回連続『6』。番号は1~10。確立としては、1万分の1。奇跡的に運が悪い。
「次は! 次は絶対! 絶対に6はない。さすがに10万分の1はあり得ない。俺を信じろ」
ガッチリ夫が両肩を掴んで励ます。
さすがに私の落胆ぶりをかわいそうだと思ったんだろうか。
・・・
6
『ふりだしに戻る』
「嘘つき―! 嘘つき嘘つき嘘つき――!」
「……」
絶句。全力で顔を背ける夫。
「り、里佳ちゃん。もう一回振っていいよ。ねえ、修にい」
「あ、ああ。回せよ」
「……ヒック……ヒック……2人とも、ありがとー!」
完全に嘘泣きの泣き落としが決まったー!
「じゃ、じゃあ……行きます!」
カラララララッ……
2
「やった――――! やったやったやったー!」
『全力で走って4進む』
『ふりだしに戻る』
・・・
そのあと、とりあえずお風呂はいってきた。




