どうして?
【妻のターン】
「ねえ、どうして?」
でた、娘の『どうしてどうして』攻撃。小さい子には、どうもそういう時期があるらしく朝から晩まで繰り返しだ。
「どうして地球は丸いの?」
そ、壮大。
「ええっと……サッカーボールって丸いでしょ?」
「うん」
「神様が蹴って遊ぶため!」
「阿呆か」
後ろからスパン。修ちゃんからぶたれる。
「いったぁー、なにすんのよ」
「適当なこと教えるなよ。こういう質問は誠実に、真摯的に答えるのが子どもの教育ってもんだろう?」
「……じゃあ、修ちゃん答えてみてよ」
そんなに言うなら、やってみせてごらんくださいな。
「パパー、ねえ、どうして?」
「なにがだい?」
「どうして、凛が生まれたの?」
「……」
夫は、1000ダメージを、喰らった。
「修ちゃん、私もそれ聞きたい。なにがどうして、こーんないい子が生まれたのか。なにが、どうして?」
「き……貴様っ」
「ねえ、どうして?」
迫る、娘。たちろぐ、夫。
「……パパとママが愛し合ったからだよ」
顔を真っ赤にしながら、答える。
「なるほどねぇ」
にやにや。
「……」
ツンツン。
「……やめろ、バカ」
「愛し合うって?」
さらに踏み込む娘。さすがは、私の娘。
「愛し合うって?」
「い、一緒になって尋ねてくるんじゃねぇよ」
「ねえ、パパ。愛し合うって?」
再び迫る、娘。もはや、逃亡寸前の夫。
さあ、どうする? 4歳の子にどう説明するの?
「……セッ……コウノトリが凛を運んできてくれたんだ」
揺れている……真実とメルヘンの間で揺れ動く夫。
「セッコウノトリって?」
「……ブフッ」
「お前……笑ってんじゃねぇよ」
「し、失礼しました。で、修ちゃん。セッコウノトリって? どんな鳥なの? 図鑑には載ってないみたいだけど」
「き……貴様っ」
「ねえ、セッコウノトリって?」
娘の追及は止まらない。とどまることを知らない。
「……ふふっ、凛ちゃん。聞き違いだなぁ。パパはコウノトリって言ったんだよ。コウノトリはね――」
「ううん。言った。パパ、セッコウノトリって、言ったもん」
頑固な娘。『真実はいつもひとつ』的なアニメを毎週見ている影響だろうか。
「私も聞いた。セッコウノトリって聞いた」
「フォローしろよ! なんで、そっち側だお前は」
「面白いから!」
「ぶん殴るぞ、お前」
「ねえ、パパ。セッコウノトリって?」
「……凛ちゃん、犬にもいろんな犬種がいるだろう? トイプードル、とか柴犬とかセントバーナードとか。コウノトリにもいろんな種類がいて、セッコウノトリは……そんな感じ」
「ふーん」
答えに満足したのか、もう飽きたのか、小悪魔(娘)は去っていった。
「……」
「……なんだよ」
「いやぁ、勉強になりましたわー。そんな風に答えればよかったんですねぇ」
ツンツン。
「非常に《《誠実で真摯的な》》回答でした。私も見習うことにしますね。いやぁ、セッコウノトリはコウノトリの一種かぁ……」
ツンツン。
「……俺が悪かったです。ごめんなさい」
深々と頭を下げる夫であった。




