娘とは……
【妻のターン】
土曜日。5時。
「起きろ―――――――っ!!!」
娘がベッドで爆睡してる夫に馬乗り。耳元で爆音を響かせる。
「……」
さ、さすがに起きないな。昨日帰ってきたの、深夜1時過ぎ。
「遊ぼー! 遊ぼー!」
そう言いながら、殴る殴る……夫の腹をバンバンバババン。
お、恐ろしい……我が子ながらその容赦のなさ……幼いとは、なんと残酷なことか。
「……遊ばない」
あっ、拗ねた。
「遊ぼー遊ぼー遊ぼー遊ぼー!」
髪の毛をギュンギュン。問答無用で引っ張り続ける娘。
「……ふははははは、こちょこちょこちょ」
「きゃああああはははははははっ」
睡眠をあきらめて、秘技『くすぐり攻撃』で応戦。娘の体力を奪いに行く夫。
・・・
2時間後
「……」
「遊ぼー遊ぼー遊ぼー遊ぼー!」
グロッキー。幼い子どものエネルギーを甘くみて逆にやられるおっさん。
「……里佳さん、どうか、助けてはいただけませんか?」
死にそうな声で、手をこちらに差し伸べる。その背中には、漏れなく娘が馬乗りになった状態で髪の毛をギュンギュン。
「馬―! 走れ馬―!」
両足で夫の脇腹をバンバン。
普段、世知辛い世の中を必死に渡っている企業戦士に対し、平気でむごい仕打ちができる娘は、残念ながら、私似だ。
「……」
まるで、私のお父さんをみているようだった。
「助けてくれー! もーいやだぁ」
「きゃははは。きゃはははは……」
もがけばもがくほど喜ぶ娘。
間違いない、この子は相当な、どSに育つ。
「……」
こうして振り返ってみると、お父さんは大変だったんだろうなぁ。
だから、バレエ、ピアノ、習字とあらゆるものを習わせてなんとかエネルギーを発散させようとしていたと、お母さんから話を聞いた……結局、続いたのはバレエだけだっが。
その後、私は日々のたゆまぬ努力と美貌で――
「お前全然助けんなぁ! さっきから、全然」
「ああ、ごめんなさい。ちょっと、いろいろ思い出してて。で、なんだったけ?」
「助けてくれよ! 眠いんだよ!」
「あっ、ごめん。これから町内会の用事あるから」
バタン……
帰ったとき、夫はリビングの隅で、朽ち果てていた。




