ありのままで
【妻のターン】
凛が幼稚園の送迎バスから降りてくる。
「ありのーままでー、家に帰るのよー♪」
嬉しそうに歌いながらこっちに駆け寄る愛娘。
「ありのーままでー、迎えに―来たわー♪」
笑顔で出迎えて、凛を抱いてくるくる回る。
・・・
こ、腰痛っ……こ、子供のテンション、疲れる。
昨日、凛を映画館に連れて行ったところ、すっかり『ありのままで』がキャッチフレーズの映画にハマってしまったらしい。本当は私はありのままなんて駄目だと思っている。ありのままで通用するのは、小学校低学年までだ。努力するんだよ。手に血豆ができるくらい努力しろ。そう嗜めようとすると、夫にこれ以上ないくらい怒られた。
「頼む! 頼むから、夢見させてくれ。娘のこんな可愛いところ見るの夢だったんだ、夢だったんだ!」
これ以上ないくらい力説されたので、渋々引き下がることにした。
テメー、責任取れよ。娘がありのままで不良になった時、ありのままでできちゃった結婚した時、この時の事をフラッシュバックして悔いるがいい。そんな風に思いながら2,3日は我慢してやることにした。
・・・
「ただいまー」
あっ、夫が帰ってきた。定時か、いつもより早いご帰還。
「お帰りー」
すぐに迎えに行くと、夫が不審な顔をしてきた。
「あれ、凛は?」
この時間帯だったら、いつも一番に夫を迎えに行くのは凛の役目だ。どうやら、迎えに来ないのを不審に思っているらしい。
「……まあ、見てみれば?」
そう言ってリビングに2人して入ると、凛が積木をしながら遊んでいた。
「凛ちゃーん、帰って来たよー」
「……」
む、無視。酷い……酷いけどなんか笑える。ただ、明日からも頑張って貰わなければいけないので、膝から崩れ落ちてひれ伏している夫の肩を叩いた。
「いや、ミュージカル調じゃないと、答えてくんないのよ」
そう説明すると、夫がパアっと明るくなった。
「なんだ、そんなんでいいのか。凛! ありのーままでー帰ってーきーたよー」
「……」
アレ……反応しない。
「お、おい話違うじゃないか。ちゃんと歌ったぞ! ありのーままでー帰って―きたーんだーよー」
「……」
凛は一向に反応しない。
「ねーぇ♪ な・ん・で、凛ちゃんはー♪ パパには答えないのー♪」
「パパはー♪ オーンーチー♪」
その後、私が爆笑したのは言うまでもない。




