そうだ、旅行に行こう(4)
【妻のターン】
目的地である道後温泉に到着。ここは、漱石さんがこよなく愛したと言われる名泉だ。
「いい街並みだね」
「ああ……ちょっとそこで写真とるか」
修ちゃんの機嫌も目的地へ到着してスッカリ直った。引きずらない性格の夫でよかった。
「はい、チーズ」
「……なんで、俺が撮る側なんだよ。すいませーん、写真撮ってもらえますか?」
すかさず、ツッコミを入れてくれる夫は、やはり優しいと思う。
「「はい、チーズ」」
パシャ
「……もう、一枚撮りましょうか?」
通行人の方が提案してくれる。
「んー、どう修ちゃん? 私はいいと思うんだけど」
「……ええっ、まあよく撮れてるんならーーってお前の手で俺の顔隠れてんじゃねーか! せっかく時間割いて好意で撮ってくださってるんだ。時間取らせず、真面目にな」
と、ガチ説教くらう。そんな極めて常識人の夫が大好きだ。
「はーい、ごめんなさい」
通行人の方に深々とお辞儀。
「いえ、楽しそうでうらやましいです」
そう笑ってくれる、いい通行人キャラの通行人の方だった。
気を取り直して散策再開。
「たまには、こんなのもいーなー」
「そーだねー」
子供ができてからは、そういえば2人きりの旅行はなかったかなぁ。こうして歩いていると、少し昔のことを思い出してしまう。
「そう言えば、この時期、富士山登ったよね」
「ああ……懐かしいよな。サプライズで急だったから俺だけサンダル、半袖で登らされたっけな」
「……と、鳥取砂丘も行ったよね」
「砂漠で取り残された時は、死ぬかと思ったな」
「石見銀山……」
「本格的に迷子にさせられて、行方不明になって、ニュースに載ったときは、マジブン殴ろうと思ったけど」
ごめんー! 今、考えると非常にごめんー!
「フッ……認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを」
「……謝れ、シャア=アズナブルに土下座しろ」
夫の目は、マジである。
・・・
旅館へ到着。築50年以上経っただろう風情ある建物。
「……なかなか趣があるな」
「も、もうこのレベルはボロボロと言ってもいいんじゃ……」
そう言いながら2人で中に入ると、鬼婆みたいな女将さんが来た。
「ようこそ、一刻館へ」
しょえ―――――、怖い―――。
「え、ええ。こんばんは。よろしくお願いします」
夫も心なしか、少しおびえた様子。
「な、なんか。おばけでそうだね」
部屋への案内中、夫に囁くと掌をギュッと握ってくれる。
……こーゆーとき、カッコいいんだよなー。
部屋に入ると、ゾワリと悪寒が。なかなか雰囲気漂った感じだ。
「では、ごきげんよう」
そんな怖すぎる一言を残して、退出する鬼婆女将。
はわわわっ、どうしよ……怖い、怖すぎる……
なんとか、安心しなくては……
「ちょっと待って……修ちゃん」
「ん? どうした?」
肩を、サッサ
「……これでよし」
「えっ、どゆこと? 今……え?」
慌てふためく夫。当然、霊感などない。
でも……そんな怖がってる夫を見てると……安心する悪いわ・た・し。