そうだ、旅行に行こう(2)
【妻のターン】
「んーっ! よく寝た」
「……だろうな。ずっと寝てたもんなお前……最初の10分以外ずっと」
気のせいだろうか……夫が怒っているような気がする、いや気のせいであろう。
「そろそろ……養老サービスエリアかぁ。ねえここ『たません』が有名なんだってー」
「ふーん」
不機嫌そうな反応。
「えっ、修ちゃん怒ってんの?」
ツンツン。
「怒ってないよ、別に」
「そう。でさあ、フワッフワなんだってその『たません』。ねえ、買っちゃお?」
「……買えば」
ま、間違いない。これは、怒ってますアピール。
「ねえ、修ちゃん怒ってんの?」
ツンツン。
「……別に」
「ねえ」
ツンツン。
「ねえねえ」
ツンツン。
「……あー! 怒ってるよ滅茶滅茶不機嫌だよ! なんで、出発10分で熟睡? どんだけ寝つきいいんだお前ってやつは!?」
「昨日が……楽しみ過ぎて眠れなかったの」
「嘘つけバカ! 俺が帰ってきたら、もうすでにベッドでご就寝だっただろ」
「で、でも……帰ってきたの23時でしょ? 普通寝てるって」
「俺は寝たの、0時なの! 仕事だったの!」
「私も寝たの22時59分だから、似たようなものじゃない」
「嘘つけ! いや、いいよ。寝るのはいい。むしろ、助手席には『寝てもいいよ』と積極的に言うタイプだよ俺は。でも、もう少し……出発10分で寝るって! 2曲しか歌ってないじゃん! 俺だって眠いのに……いや、俺の方が眠いのに!」
要するに、もっと楽しみたかった、ということですか。
「はぁ……しょうがないな。じゃあ、サービスエリア入ったら、ギューってしてあげるね」
「な、なんなんだそれは。俺はそう言うことを言ってるんじゃなく――」
そう言いながら少しトーンが落ちる夫を可愛いと思う。
「してほしくないの?」
「……いや、してほしくないかどうかで言ったら……してほしいけど」
「じゃあ、するね!」
「……お、おぅ」
ああ……なんて、素直な、夫だろうか。
・・・
養老サービスエリアに到着。
「じゃ、じゃあ……」
待ち構える夫。
「その前に、たませんたませんー」
「……俺、買ってやろうか?」
や、優しい。優しくてアホ。
・・・
「じゃ、じゃあ……」
「うん、わかった。するねっ!」
えいっ!
「痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛っ! な、なにすんだ!?」
「えっ? 雑巾絞り。目覚めたでしょ?」
「……ああ、覚めた」
「よかったぁ! じゃあ、気を取り直して、出発進行ー」
「お前にもやってやるよ」
「えっ……いや、私は……ちょ……」
痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛痛――――っ!
出発後、2人の腕はパンパンだった。




