作りました
【夫のターン】
「ねえ、時代はうんこドリル。絶対に、うんこドリルだって」
妻がグイグイ迫ってくる。
「……そんな時代は、ない」
「子どもの学力向上のために、なにとぞ購入の検討を!」
「駄目ったら駄目だ」
「……」
悲劇は、こんな何気ない会話のやり取りから始まった。
*
日曜日。妻は、友達の家に行って不在。そして、いつもは積み木をしている娘が珍しくリビングの食卓で机に向かっている。
「凜ちゃーん、なにしてるのかなー」
最初はお絵かきだと思った。
「うんこドリル―」
「なっ……買ってもらったの?」
娘に優しく尋ねながら、勝手に買った妻への怒りを抑える。
「ううん。作ってもらったー」
「作って……ちょっと見せて!」
そう言って、娘のノートを手に取ってみる。
そこには、妻の字で作られたドリルがあった。
*
『夫がうんこドリルを○ってくれない……うんこである』
……あ、あの女。
『そこでうんこをしているのは誰ですが? ○○〇です』
もう完全に俺のことじゃねぇか!
『夫がうんこを漏らしました……ああ、もう60〇《さい》か……』
あ、哀愁が漂いすぎだろ。幼稚園児になにやらせてんだあいつは。
『夫は知らない……〇《かげ》でうんこマンと呼ばれてること』
……嘘だよな。ただの例文だよな!?
『夫がうんこマンです。私の夫は橋場修です。さて、うんこマンは誰でしょう?』
なぞなぞー!? なぞなぞ形式でIQ向上狙ってんじゃねぇよ!
『夫の給料は、うんこである。これを、〇○という』
お前……いい加減にしろよ。
『そんなうんこマンを、私は〇《あい》してしまっている』
里佳……なんだかんだ俺のことを――ってなるか!
*
「ただいまー、あっ修ちゃん。どう、それ作ったんだー」
な、なんでそんな可愛い顔で笑える。なんでそんなかわいい顔で笑えるんだよ!
「買ってやる……うんこドリル買ってやるから」
「別にいいよー。作ったもん」
「……買わせてください! 好きなバッグ買ってやるからっ!」
「エヘヘ、しょうがないなぁ。ありがと、うんこマン」
「やかましい!」




