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幸福な休日

作者: 汐路 凛

 扉を開けてベランダへ出ると、くたびれた雑巾みたいな色の空が一面に広がっていた。


 凛、と冴えた冬の空気と雨の匂い。

 私はベンチに座って煙草に火を点け、深々と煙を吐きだした。どんよりとした空からそのまま視線を下へ辿る。

 傘をさしながら買い物袋を抱えて歩く主婦、憂鬱そうにバス停に佇むサラリーマン、信号待ちの車の列……。

 日曜でも街は動いているんだな、そんなことをぼんやりと考えながら、前夜の錯乱した自分を思い返す。


 思い通りにいかない恋愛。

 ふいに痛み出した左足。

 まるで今日の空みたいに靄がかかって何も見えない将来。


 ゆらゆらとさざ波のように揺れていた不安は、やがて高波のように押し寄せ、ついに防波堤を崩してしまった。


 癇癪を起こして物を投げるとか、お酒を呑んで酔い潰れるとかする代わりに、私はノートを広げて、どろどろの感情を思うままに書きなぐった。



 結局、そのままふて腐れて、いつの間にか眠ってしまっていた。


 バスが発車する音が下界から聞こえてくる。

 私はフィルターぎりぎりまで吸っていた煙草を消してリビングへ戻った。


 今日は日曜日。


 家族はまだ起きてこない。母とふたり、テーブルを囲んでのんびりと遅めの朝食を摂る。

 バターをのせたきつね色のトースト。 煎れたてのコーヒーの匂いが鼻孔をくすぐった。


 こんな何気ないひとときこそが、幸福だと実感する。


 たとえまたすぐ不安の波が押し寄せるとしても。


 なんてことない。


 私は幸福なのだから。




批評・感想頂ければ幸いですm(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 一ヶ月前に作品のご紹介をいただき、やって来ましたチルハです。対応が遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。 さっそくですが、感想を書かせていただこうと思います。稚拙な感想でお恥ずかしい部…
2008/10/22 02:35 退会済み
管理
[一言] どうもっ!はじめまして、GUCCHONと申します。読ませていただきました。 短い文章ですが、凄く比喩表現が多く、詩的な作品だと感じました。何か知性を感じます。きっと作者様は素敵な方なのだろう…
[一言] はじめまして、青柳朔と申します。 短い文章の中にもとても上手い比喩がたくさんこめられていて、分かりやすい表現だなぁ、と参考にさせていただきました。 共感できることも多くて、短い物語の中にす…
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