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ラグナロク  作者: 藍上央理
第4章 ミトゥー
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 ラグナロクは顔を真赤にして叫んだ。

「ね、ね、寝る!? あ、あ、あれですか!? でも、あれは神聖な儀式で……! 男性と女性の神聖な儀式ですよ!! それを男性とだなんて! 商売って! 信じられない!!」

 ラズーがうんざりした顔をした。

「神聖な儀式ねぇ……あんた、ずいぶん古い考えなんだな。今まで修道院にでもはいってたんか? 大声で怒鳴らなくったっていいじゃないか」

「いいえっ! 実に不愉快です! こんなところにわたしのローバーがいるはずがありません!」

 ラグナロクは憤慨して叫んだ。

「ローバー? なんか男見てぇな名前だな。なんだ、おまえだって男の恋人がいるんじゃねぇか」

 彼女ははっとして口を押さえた。仕方なく、説明した。

「ええ、その通り、男性です。でも、ローバーはその男性の名前ではなくて、呼び方なんです。『運命の片割れ人』という意味なんです。

 わたしは彼に会うためにラスグーから来たのです」

「運命の片割れ人っつーと、永遠の恋人っつーわけだな。それでも男同士にゃ変わりないじゃねぇか」

「はあ……分かりました……」

 ラグナロクは静かにそう言うとターバンを取った。

 月の光が雫のようにハラハラと彼女の肩に舞い落ちた。誇りをかぶった姿であれ、まばゆいばかりの豊かな銀髪で、彼女の本来の美しさがかいま見える。

 彼女に気づいた周囲の男女がため息を漏らした。

「おまえ、女だったんか……」

 ラグナロクはターバンで顔を拭い、汚れをとった。

「わたしはこのように目立ちます。このままだと、わたしの目的を邪魔されてしまいます。

 わたしが何者かは秘密です。なにかあっても保証できませんよ」

「こええな……

 帰って、アスランになんて言おうかね……わしゃ、とんでもないことに関わっちまったみてぇだ。うーむ、困った」

「あなたが困ってどうします?

 ほんとうに困ってるのはわたしの方です。

 マルロスにミトゥーへいけと言われましたが、こんなところでわたしのローバーが見つかるかどうか……」

 と言った痕、彼女ははっとなった。黒の王の命令……あれは多分ルナスを通してラヌーンに報告されてしまっているはず……。ラヌーンはきっと命令を実行する。

「ほんとうに困ったことはこれからなのに、自分のことばかりにかまけていました……。

 驚かずに聞いてください。

 黒の王の命令が下ってしまったはずです……。

 ホスマークのアスランをすべて捕らえろ、と――」

 ラグナロクはそれだけ言うと、俯いた。

「黒の王が……またか!」

 話を聞いていた老女が立ち上がる。

「なんて、酷いことを……!」

 周囲の者達がざわめきだした。なかには走って店を出たものもいた。

「まったくロレンス王はなにをなさってるんだ! 黒の王の侵略をなぜ止めないんだ」

 ラグナロクはいたたまれなくなった。アスランとのやり取りを、黒の王に漏らさなければ……、と胸が傷んだ。

「ラズーさん、あなたの息子さんもアスランというのでしょう? 帰って知らせたほうがいいです」

 難しい顔をしているラズーに言った。

「心配しなくていいさ。わしんとこのアスランは、名前が言いにくいから縮めてるだけさね。本当はアシュトルーンちゅうんだ」

「アシュトルーン……初級魔道師の意味ですね。じゃあ、……魔法を使うのですか?」

「そりゃヒデェくらいの悪戯ものだ。人様からの預かりもんだから下手に扱えねぇし……。近所のねぇちゃんからは迷惑がられるし。困ったやつなんだ」

「若い子なのね。こういう街ではみんな体を売らないと行きていけないの?」

 ラズーが苦虫を噛んだような顔をした。

「すまねぇな、さっきは……。体をうあらなくても生きてけるさ。ほとんどのやつは騙されて売られるんだ」

「それではわたしのこともだますつもりだったんですか?」

 ラグナロクは睨みつけた。

「いや、わしはちゃんと説明したろ? だますつもりなんてつゆほどもなかったぞ。だから、そんなに睨まねぇでくれよ」

 彼女はため息を漏らし笑った。

「さぁ、あなたのアシュトルーンがアスランと間違われて字は困ります。帰らないと。あの、ついでなんですが、わたしもご一緒してもいいですか?」

「いいけどよ……、あんたはそのローとか何とか言うのを探すんだろ?」

 ラグナロクは眉をひそめた。

「いいえ……、おそらくラヌーンは町中のアスランを捕らえるはずです。

 それに、わたしが探しているローバーはアスランという名です。

 マルロスはここにアスランがいると言いました。わたしはそれを信じています。

 このミトゥーにいるアスランを捕らえるというならば、わたしはそれに賭けます。危険に飛び込んでみるのもいいことでしょう。

 わたしも一介の魔道師です。逃げることも逃すことも容易です。

 それに捕らえられた少年たちはすぐに処刑されたりはしません。彼らは二日後まで生かされるでしょう」

 ラグナロクはターバンを巻き直し、ラズーと一緒に店を出た。


 サルバナ通りはいつもどおり活気に満ちている。

 ラヌーンの部下、ルナスはまだミトゥーに乗り込んでいないのか……。

 ラグナロクは不用意に自分の足跡を残していた。

 彼女はそれに気づかず、この後、タンタロス横丁のアシュトルーンのもとに向かうのだった――。

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