センター試練
軽快なステップを踏み、DVDのコンサートを再現する様に熱唱する未希、そしてラストの曲が流れる。
『今日は本当にありがとう♪ラストいくよ♪』
スローテンポな曲が流れ出す。
♪こんなに近くにいるのに♪
♪こんなに遠くに感じる♪
♪僕の隣を歩く君の瞳に♪
♪僕が写っていたとしても♪
♪触れられない手のひら♪
♪伝えられない思いがある♪
♪触れたくても触れられない♪
♪絶対不可侵の一センチ♪
♪このまま友達で終わりたくない♪
♪思いがある…思いgirl♪
♪僕のハートを染め上げたい♪
♪君のハートを染め上げたい
♪私、貴方に思いgirl♪
ラストの曲を歌い上げると未希は力尽きたようにその場に倒れ込んだ。
「未希!」
強は画面に向かって叫ぶと、立ち上がり妹の部屋に駆け出していった。
「未希!」
強は声を掛けるのと同時に勢いよく扉を開けた。
そこには未希がハート形のラグの上で意識を無くし倒れこんでいた。
「おい!未希!」
強は彼女の隣にしゃがみ込み、声を掛けるが反応が無かった。
咄嗟に未希の口に手をかざした。
「息はしてるみたいだ…」
強は軽く頬を叩きながら、しっかりとした口調で声をかけた。
「未希!未希!起きろ!未希!」
首の辺りに粘りけのある汗が流れる。
「おい!…未」
「う〜ん」
「未希!」
「えっ?お兄…」
「未希!良かった…」
強は未希を抱きしめた。
「ちょっ!お兄、いきなり何?…いくらお兄でも妹の部屋に入ってきて…ハグとか…嬉しいけど…結果も大事だけど…その経緯というか、順番も大切かな…」
「はぁ!?…覚えてないのか?」
「何の事?」
「だって、歌って踊って…倒れて」
「倒れた?誰が?」
「未希が…」
「私が?…何処で?」
「未希の部屋で」
「えっ?お兄覗いたの?」
「いや…覗いてないぞ!」
「だって今!私が私の部屋で倒れていたって?」
「だから、DVDを見てたら未希が部屋で歌って…倒れて…」
「?私、歌ってなんかいないよ?」
「だってDVDに…」
「私がDVDに?」
「DVD?…そもそもなんで未希がDVDに出てるんだ?」
「お兄、夢でも見てたんじゃないの?」
「和人に借りたDVD見てたら、未希が現れたんだけど、未希が悪戯ですり替えたのか?…」
「いくら私でもそこまでしないよ!」
「だよなぁ…」
「もし、私がDVDすり替えたとしても、お兄の見ている前で倒れるなんて…そんな失態、絶対しないわ」
「お、おうぅ」
未希の強い眼差しに強はただ意味もなく頷くしかなかった。