会話時間
「ただいま」
強は玄関に靴を脱ぎ捨てると足早に自分の部屋に向かった。
階段を登ろうとすると、居間の方から未希の声がした。
「お兄♪お帰り♪おやつにシュークリームあるよ♪」
「後で食べるよ!」
「え〜!今一緒に食べようよ…あっ、そうだ…今日のお弁当どうだった?」
「美味しかったよ♪ご馳走さま…ただ…」
「ただ…?」
「だし巻き卵が…少し味濃かったかな…」
「そう…」
未希は少し落ち込んで見せた。
「いや、いや、とっても美味しかったよ!うん」
「そう、良かった…今度はだし巻き卵もお兄好みに作るからね♪」
「お、おう、楽しみにしてるよ」
「楽しみにしててね♪」
強は自分の部屋に向かっていった。
「三分四十秒か…」
未希はデジタルの腕時計を見ながら、そう呟いた。
ポケットから小さなメモ帳を取り出すと、あり得ないくらい小さな字で数字を書き込んだ。
それは、未希が最近始めた、強との会話時間の記録だった。
電話営業での会話時間が、購買率に比例しているらしい、という眉唾物の情報を鵜呑みにして、お兄の自分に対する興味の度合いを測ろうと考えたものだった。
「落ち込んだふりしたら、心配そうな顔して…少しはお兄の気を惹けたかなぁ?」
天井を見上げ未希が呟いた。
「理想のお嫁さんがこんなに近くにいるのに…気付いてくれるかなぁ…イタッ」
未希は突然頭痛に襲われ、目の前が暗くなるのを感じた。