母の私情調査
大変長らくお待たせしました。
ゆっくりではありますが、すこしづつ書き進めたいと思っています。
今年もよろしくお願いいたします。
「うぉりゃ!」
綺麗にジャーマンスープレックスホールドが決まる。
私たちは久し振りに正志さんの試合を観戦していた。
『ワン!ツー!…スリー!』
試合終了のゴングの後に雄叫びを上げる。
そして、インタビューのマイクを奪い…いつものパフォーマンスを始める。
『かかってくる奴は、俺のジャーマンスープレックスホールドで鎮めてやるぜ!』
「やっぱり…格好いいわね…惚れ直すわ…」
私はニマニマしながら夫の勇姿に見とれていた。
斜め前には強と未希が座っている。
子供たちと夫の仕事を堂々と観ることが出来るのは、有り難いことだ思いながら、何気に自分も仕事をしていたりするのだが…
私の仕事はマーケティングリサーチ、俗にいう市場調査を主に行っている。
今回は、子供たちの動向を探るべく、正志さんの試合観戦と試合観戦後に外食をしながら、二人の私情調査を行う予定だ。
市場と私情で多少の差違は発生すると思われるが、どちらも人の興味や欲しいものを調べると言う点に関しては同様だと思われる。
実際は、アンケート調査とか出来ると有りがたいのだが、まぁ、無理だろうから、家族団らんを装った、面談若しくは、尋問を予定していたりする。
『それにしても、試合以上に面白いかも…』
子供たちの奇妙な行動を見ながら、私はそんな事を思っていた。
ジッと、兄を見詰める妹、それに気付かないのか、気付いているのか、試合をジッと観る兄…
妹の眼を気にしながら、妹の横顔を見ようとして、しかし、妹と目が合い顔の向きを変える兄…
ガムを手渡し、ついでに、兄の手をしっかり掴む妹…
極めつけは、正志さんが試合に勝った瞬間、二人して歓びあって、兄に抱きつく妹と、トーテンポールの様に直立不動になる、兄の姿だった。
しかも、抱きつく未希の目付きは、蕩けるようにトロトロで…そして、一瞬、獣のように鋭くもあった。
対する強は、顔が此方に向かなかったので表情は解らなかったが、耳が赤くなっているのが見えたから、大体の想像がついた。
確かに、お互いに好意を寄せていると見て間違いはなかった。