囚われの少女1
ジンノ達が捕まった後、すぐのことであった。
機械仕掛けで作られた飛行船に、一人の少女、伊砂も潜入していた。
じいさんからの特別任務の一つを幼いながら、伊砂に託されていた。
敵に見つからずに、潜入することは伊砂にとっては初めてのことではなかった。
一部の隙間から天井裏への通路に忍び込む。
轟音と共に伊砂は身体が浮くような感覚を覚える。
暗闇の機械じかけの構造は大人では通ること出来なく、伊砂の体型からはちょうどよく快適に通れるスペースでもある。
細い通路をたどると一本の歯車が付いた場所、迂回すれば別のルート繋がる。
好奇心旺盛な、伊砂は歯車も回すことを選択。
扉の取って付けが外から入る風圧が押さえつけて、風圧だけで扉が開き、内から外に引っ張られる風圧で扉ごと吹き飛ぶ伊砂も巻き込まれて外に旅出しそうになる。
上空何mもある空の大海原に投げ出されたら確実に落下死は待逃れだろう。
「ちょっと、何これ、聞いてないよ――。」
ぶら下りながらも伊砂は煽られ続けなけばならない。
伊砂は外から内に流れ込む、風圧を狙って待つ。
風の流れが変わったところでタイミングを合わせて飛び込む。
うまく着地すると額にびっしょりの汗を拭きとる。
「あぶなかったけど、別のルートを探さないと……。」
再び、闇の奥に消えてゆく伊砂であった。
†
霧姫の向こう側に豪華な部屋が映り込む。
ソファの前に座る少年は金髪の髪色、白のカッターシャツのブラウス、裾がするぐらいまで丈長いのズボン、左手の中指にドクロの指、薬指には王冠と国旗のような紋章
、顔立ちは優しそうに見える。
少年は腰掛けるとすぐに横になり、天井のシャンデリアに手を掲げる。
指輪のドクロを輝かせながら、手を反回転させ戻しての繰り返し。
「まずは、ロストハートの奪還……いや、僕の妹をと言うべきか――」
「君の働きには感謝してるよ。 霧……夜叉ちゃーん。」
「あはははは。」
歯を食いしばりながらも返事をする。
「はい――」
少年は立ちがると手を叩く、にっこりと怖いぐらいの作り笑顔で、両手を広げる。
「そうだ、霧夜叉、君がこの任務を成功させた暁には、ご褒美をあげないとね。君の大切な……彼、君に返してあげてもいいよ。」
「はい……」
また、ソファに腰をかける少年は手を組むと、凍り付くような眼で、霧姫を畏怖させる。
「霧夜叉、こんな言葉を知ってるかい? 遠足も帰るまでが遠足って――」
表情を変えて、笑顔で今度は手を振る。
「僕は君の帰りを楽しみに待ってるよ。久々の妹の顔もみたいしね。」
モニターに映し出された。少年の姿が消える。
霧姫は荒れるように身近なものに蹴りを入れる。
「あれが、君主だと思うと反吐が、でそうですわ。」
すぐさま、頭を切り替え、指示をする。
「今すぐ、エリサ様を見張りの強化をさせなさい。艦内と言えども油断できませんわ。」
天井裏でその一部始終を目撃していた少女は『これは思っていたより、でかい話かも・・・あの指輪の男どこかで見たような・・・』
『こうしちゃ居られない、早くエリサ達を見つけないと!』
†
美しく広がる田園風景の中、ジンノは風車の下で一人弁当を取る。
パンにレタス、ベーコン、卵がサンドされており、一口、二口と、目の前に広がる風景をおかずに食べる。
ジンノの腰に細く腰回りに届きそうで届かない手が巻き付く。
背中に息が当たる、腰回りにあった小さな手はジンノの視界を塞ぐように被さる。
「だれだぁ――?」
小さく、暖かなぬくもり、この幸せは続けばいいとジンノは思う。
「うーん、パパにはわからないなぁ? パパにヒントをくれないか?」
細く透き通るような、少女のような声は。
「1、パパがよく知ってる子、2、パパの大好きな女の子、3、パパと結婚したい女の子 どれでしょう。パパにわかるかな?」
ジンノは少し、考える素振りをして間を置いてから答える。
「うーん、パパの大好きなミライさん」
そっと、小さな手を取り、振り返るとほっぺを膨らませて、怒った表情のミライがジンノを睨みつける。
頭を撫でると、抱きあげて、ジンノの膝の上にミライを座らせる。
「そう怒るな、ミライ、今度、ミライの欲しがってた。えーと、アクセサリー買ってあげるからな。それで許してくれ、ミライ。」
顎に指を当てて、首を左右に振るミライ。
「どうしようかな・・・・? ミライね……」
「おいおい、どこでそんなこと覚えた……」
麦藁帽子ですらっと高く、ワンピースにバスケットを両手に持つ女性がジンノ目に飛び込む。
「なんだ、ナーシャ、お前も来たのか――」
「ええ、あなた」
ジンノの膝から急いで飛び降りるとナーシャの服を掴む。
「パパがね、ミライに、いじわるするの、ママからもパパに何か言って。」
ゆっくりとナーシャはミライの目線まで下げるとにっこりとミライにほほ笑む。
「後でママがきつーく、きつーく言っておきますから、ミライは遊んでらっしゃい。」
納得したように、ミライは大きくうなづくと勢いよく、田園風景が広がる方に走りだす。
ナーシャの最後の人声も聞こえずただもくもくと遠のくだけだった。