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LOST EYE  作者: くろろのーむ
1章 茨の世界
4/6

古の森、森を守る里3

 男は夢中でにげて、仲間たちの合図とともに足を止める。

 追い詰めたグラリスは男を捕まえようとする。 左右同時に、グラリスの身体は拘束される。


「なんだこれは、ふん、こんなもので俺の身体を縛り上げたつもりか?」


 鍛え上げられた筋肉に力を入れ、瞬時に膨張させる。 

 巻きつけられた糸のようなものはぶちぶちと音を立て千切れ。


 「こいつ、化け物か、我々一族の特殊繊維で編み込まれた糸の簡単に引き裂くとは。」


 グラリスは首を捻るように傾け首の音を鳴らす。


 「さぁてと、雑魚が増えた。退屈はしなさそうにすむな。」


 3人から5人に増えて再び、グラリスを拘束しようとするもの、圧倒的な力の前では数が増えようが

 肉塊に変わるのも時間の問題であった。

 次々と倒れゆく中、一振りの太刀筋がグラリスの身を切る。


 「たっくいてぇじゃねぇか ざっ……。」


 相手の目を見た瞬間、力量を感じ取ったグラリスは凍り付く。

 身に覚えがあるその眼光は、グラリスも知る人物にもよく似ていた。

 姿は違えど昔、対峙した時のある霧姫と重なって見えたのであった。

 動きの止まったグラリスの前では一振りかざされる。

 割って入るように霧姫が太刀筋を受け止め。


 「任務中によそ見など、あなたらしくないわ。」


 「ここは私に任せて、下がりなさい。」


 「そうよ、わたちと霧ちゃんに任せて。」


 力押しで、霧姫は押し戻される。

 隙をついて、グラリスを狙う刀身、男の放つ剣技も僭越された速さでグラリスを仕留める。


 「グラリス……」


 「主らは我の同朋の血を流させすぎた。我も里を守る者としてこれ以上の無益な殺戮は許すわけにいかん」



 一呼吸するとすっとした、太刀筋でまるで隙のない一点の剣は二人に向けられる。



 「グラリスくんは……わたちのわがままにも付き合ってくれた……これでもわたちを子供扱いもせず……。」


 「少女、主も戦士であると言うなら我にその2本の短刀を付きつけてみろ。」



 ヘルムの零れおちる涙は止まり、2本の短刀を握ると重苦しく空気が張り詰めてゆくようだった。


 やがて、ヘルムも幼子の表情から無表情の貌の変わる。



 「ねねーねねー霧、僕がもらっても文句いわないでよ。」



 ふらふらとヘルムは立ち上がると、奇妙に身体を左右に揺らす。

 動きが止まりかけると一瞬にして無表情のヘルムが詰め寄る。

 短刀が男の脇腹をえぐるように肉が切れる。

 男の死角へと消えて、首元を狙うように短剣が寄ってくる。

 剣をさばいて短刀の角度をづらす。

 ヘルムの姿を捉えて、一振りする。 

 男の残像を追うようにヘルムの影ばかりを空を切る。

 刀身が突きに変わると縦横無人にヘルムに襲いかかる。

 手数は負けるもの、急所を突くように男の動きは鈍くなる。 

 男が動けなくなった所を圧し倒すようにして、ヘルムは男の上に乗り、短刀を喉元に突きつける。


 「もう、おしまい? 僕はまだまだ、遊び足りないよ。」


 「主らはなんだ。なぜ、我らの里を襲う?」


 「答えはノーよって言いたいけど、今の僕は気分がいいから教えてあげる。ロストハート様がここいる情報が入ったからよ」


 「主の言うロストハートっていったいどう……」


 短刀が、喉元目掛けて、勢いよく振り下ろす。


 「はい、終わり。僕がそれ以上教えると思う? もう返事をすることもできないなかったね」


 無表情で残忍な性格だったヘルムは幼子の表情に戻る。


 「霧ちゃん、片付いたよ」


 「ヘルム、あなたがそこまで本気になるなんて思っていませんでしたわ」


 笑顔に見える、ヘルムの目から一粒の涙はこぼれ落ちる。


 「私もあなたのように感情的になれればいいのでしょうけど、ここは戦場の中、仕掛けたの私達である以上、この先なにが起ころうと任務を貫き通すことがグラリスのためにもなりますわ」


 霧姫は刀を構えると襲いかかる火の粉振り払う。彼女なりのグラリスへの弔いでもあるかのように思えた。


                              †


 「じいさん、教えくれ。あんたたちはなんだ?」


 庵を囲んで火箸で炭を転がす。


 「事態は悪化したようじゃ。お主らにも話した方がよいじゃろ」


 「わしらはこの茨の森を守る古の一族じゃこの森は茨の森呼ばれており古くから不思議な力も隠されている。やつらもそれが狙いじゃろ。」


 「なぜ、俺達はここに連れてこられた。」


 「それは、主らは森に選ばれたじゃ。」


 「話はここまでのようじゃ。」


 鋭い視線ような殺気が木の扉越しに伝わる。

 扉に切り筋が無数に入り、音を立てて崩れ落ち、長い髪の軍服の女が入ってきた。 

 凍り付くような視線はじいさんとジンノに向けられる。


 「私は()十字架(クロス)艦隊所属 霧夜叉 あなたが角間っていると思われる ロストハートの差出の要求をしますわ。」


 「ロストハートとはなんじゃ? わしらは知らん もうここから出って行ってはくれんか?」


 刀身がじいさんの首の前に止まる。 

 冷酷に見下ろす霧姫の目は後のないことを物語っていた。


 「私があなたの首を飛ばすことなど、造作もないことですわ。私の手元が狂わないうちにロストハートを差し出しなさい。」


 じいさんの袖に忍ばせた小刀を霧姫に向かって投げる。

 意表を突かれた霧姫は頬をかすめ間一髪のとこをかわす。


 「ジンノ殿、エリサ殿と逃げるのじゃ わしがなんとかする。」


 「エリサ……。」


 霧姫はじいさんの腕を切りつけ、素早く、ジンノに獲物を付き付ける。


 「さて、これで、私が有利になりましたわ。聞こえていますわね? エリサ様、あなたの大切なお方がどうなるか……」


 奥の扉から、隠れていたはずのエリサが姿を現す。

 冷徹な表情から作り笑いがこぼれる。


 「お久しぶりですわ。エリサ様、霧に付いてきてくれますわね?もちろん、そちらの方も投降してもらいますわ」


 「ごめんなさい、おじいさん――。」


 ジンノとエリサは捕えられ、幾人かの死者の出たものの、茨の森の秘密は守られ、再び、森の平和は保たれてゆくのだった。


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