出会い
「……」
俺はそれを見て腕組みをして考えていた。
俺は川で釣りをしていた。
しかし大きい魚が一匹も釣れなかった。
小魚なら数えるほどだが釣れた。
確かに「大きい魚」は一匹も釣れなかったがある意味凄い大物を釣ってしまった。
「おかしい……川で釣りをすると釣れる物だったかな~?」
その大物とは……。
「女の子って釣れたっけか?」
▼ ▼ ▼
俺は高校2年生の井坂勝二。
今日は久しぶりに時間が空いたので家から30分ちょいの所にある川に釣りに来ていた。
そして日が暮れてきて少々魚がつれたのでそろそろ帰ろうかと思った所でこの女の子が釣れたのである。
竿が大きく弧の字に曲がっていてやっと大物が釣れたと喜んでいると少女の服に糸が引っかかり川の表面に浮いてきたので見た瞬間心臓が止まりそうになった。
「しっかし……なんで川なんかに……」
仰向けに寝かせて様子を見ていた。
その子は綺麗な長い黒髪で顔立ちは整っており綺麗な細身で誰がどう見ても美少女だった。
服は真っ白なワンピースを着ていてどこかのお嬢様のようなオーラが漂っていた。
その子は時々「うあっ!」とか「う~ん……」とうなされていた。
「この子をこれからどうしようか……」
この子を警察に連れて行って「川で釣れました」なんて言っても信じてもらえなそうだし。
「とりあえず起こすか……」
俺は少女の肩を揺すってみる。
「お~い……お~い……起きろ~」
「う、う~ん……」
少女は少し唸って上半身を起こした。
「お~い……大丈夫か?」
少女は寝ぼけたように目を擦っていた。
「ん……ここは……?貴方は誰?」
少女はこちらを向き不思議そうに首を傾げながら訊ねてきた。
「ここは三郷って所だよ。それで俺は井坂勝二」
「そう……」
少女はあっけなく俺の自己紹介をスルーして立ち上がった。
そうして大きく深呼吸をする。
「ここは……なかなかいいところね」
少女は一目眺めただけでそう言った。
「ああ、ここはとてもいいところさ」
少女の顔は僅かだが満足そうに微笑んでいたようにも見えた。
「良かったらこの町を案内しようか?」
「あら?いいの?それじゃあお願いします」
少女は楽しそうに鼻歌を歌いながら歩き始めた。
俺は何かが起こりそうな予感がしてならなかった。
まあ釣りをしていたら女の子が釣れたからそのせいだと思うが……。
「そういえば君の名前は?」
少女は微笑みながら言った。
「紫穂、柳紫穂」
「紫穂さん……いい名前だね」
俺も紫穂を追って歩き出した。
空の夕日を見ると俺を哀れむかの如く美しく綺麗なオレンジ色に染まっていた……。