誰かのため
「ミアビです。よろしくお願いします」
その美少女を見た、あたしを含む全員がハッと息を呑んだ。
人間離れの美しさに誰もが目を奪われた。
* * *
昼休み、仲良しの2人とご飯中。
「あの転校生、すっごい美少女だねー」
「うんうん!なんだろうね、あの人間離れの美しさってやつ?」
「このわたしより美しい人がいたなんて……」
楽しそうに話すあたしとテイルの横に座っているレイラはすごく悔しがっている。
まぁ無理もない。
彼女が来るまでこの学校ではレイラがずば抜けて美しいという言葉に値する人物だったから。
「でもレイラも美少女なんだからいいじゃん」
と、すかさずフォローするテイル。
あたしもそ──
「わたしもそう思います」
言おうと思ってたことを後ろから聞こえた凛とした声の誰かに言われた。
その声の主は……
「ミアビちゃん…」
「覚えててくれたんですね。嬉しいです。わたしもご一緒させてもらっていいですか?リリカさん、レイラさん、テイルさん」
あれ?
あたし達まだ自己紹介してないのになんで分かったの?
「もちろんです」
まぁ細かいことは気にしない。
あたし達が仲良くなるのに時間はかからなかった。
* * *
「そういえばリリカの祖父母って偉大な魔術師なんでしょ?」
ドキッ
あまり言いたくない祖父母の話…
ミアビによって引き出された嫌な記憶、過去……
「しっ!ミアビ!それは……!」
「大丈夫だよテイル。ミアビは何も知らないから仕方ないよ……」
「えっ……?ごめん……!もしかして聞いちゃいけないことだった?!」
「ちょっとはね…でもいいよ。今度話すから。ただ、このことは秘密ね。学校側にも言われてるから……」
「うん、分かった…それじゃ、わたしはこっちだから…また明日」
『バイバーイ』
ミアビと別れ、3人であたしの家へ向かう。
「やっぱミアビっていろいろと人間離れしたところ多いよねー」
「実は人間じゃなかったりして……」
『やめてよレイラ!怖いから!』
「そんなの冗談だって!」
「冗談キツいわ!」
テイルはレイラに対抗。
またいつもの口ゲンカが始まった…
でも一瞬、レイラの言ったことが本当かも、なんて思ったりした。
* * *
1人の少女が人目のつかない場所で誰かと会話中。
「ボス、見つけたわ、彼らのこと」
《そうか、収穫は?》
「いえ、まだです。ただ、彼らはやっぱりこの地にいました。彼らの血を引く者を確認。術を見つけ次第報告します」
《あぁ、分かった。お前をその地に送って正解だったよ、ミア》
そこで会話が切れた。
「これからもしっかり偵察します。ボス、愛してます。ボスの為ならなんでもします」
あとは彼らのことについて“リリカ”から聞けばいい。
その為にわたしは彼女達を調べ、彼女達に近づいたのだから。
* * *
今日は年に一度の魔法コンテスト。
3~4人でチームを作り、魔法を上手く使えるのかテストも兼ねてるらしい。
あたしのチームはあたし、レイラ、テイル、ミアビの4人。
「すごいねーまた圧勝じゃん!」
「いつものことじゃん」
「だから先輩に目つけられるのよ」
『うっ……』
ホント、レイラはいつも痛いとこつくんだから…
少しは喜びなよ……
「みんなっていつもこんな感じなの?」
「うん!最近では優勝候補なんて言われてるの!」
「へぇーすごいね」
《次のバトルはリリカチームとナノハチーム!!》
「あたしらの番か…サクッと勝とうじゃない!」
「リリカったら超乗り気!じゃあ行ってくるね、テイル、ミアビ」
「行ってらっしゃーい!」
テイルは笑顔であたし達を見送る。
そして、あたしとレイラはステージに上がった。
* * *
「な、なんなの…貴方達は……!?」
逃げたいのに逃げられない。
囲まれた……!
黒い服を着て、黒い布で鼻から下を覆っている5人組。
全く正体が分からない……!
ふと相手があたしに掌を向けると、掌から光の渦が出来た。
そしてその光が一斉にあたしに突き刺さった。
「き、きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
急所は外したものの身体に力が入らない。
その場に倒れてしまった。
ポタポタとあたしから流れる血の滴は地面に赤黒い水玉を作る。
こんな攻撃魔法…あったの…?
「ちょっと何してるの?」
誰かの声がする…
助かった…!
「ダメじゃない。やり過ぎよ。もう少し手を抜くべきよ。ただ傷つければよかったのに…」
えっ!?
「だって“テイル”は“リリカ”を誘き出す為の人質なんだから……」
この声ってもしかして……!
「と言うわけでしばらく眠ってもらうわ」
彼女はあたしの目の上に手を被せた。
すると急に激しい眠気に襲われて……
「リリ……カ………」
助けて……
そこであたしの意識は途絶えた。
* * *
「フフ…眠ったわね」
結構あっさり捕まって…つまらないわ。
「隊長、その女は……」
「とりあえず鎖で繋いでおいて。ちゃんと魔法除けの鎖で」
「はい」
「A、B、Cはまた隙をついてもう1人を傷つけて。D、Eはその女を運んで」
『はい』
わたしは何が何でもリリカから“彼ら”のことを聞き出さなければならない。
ボスの為にも…
その為なら友情ごっこしてるあの3人を裏切り、傷つけても構わない。
* * *
「勝者、リリカチーム!リリカチームは準決勝進出決定!」
「やったー!」
「やっぱり圧勝なのね…」
レイラは苦笑い気味で言った。
だって相手チーム弱かったし…
「リリカ!レイラ!」
ステージを降りるとミアビが怖い顔をして走ってきた。
「どうしたの?ミアビ」
「そんな怖い顔して…美人が台無しじゃない」
焦ってるミアビとは対照的に皮肉っぽく言うレイラ。
「大変なの…!テ、テイルが行方不明に……」
『えっ!?』
「ごめん…疲れてちょっとテイルから離れたら…いつの間にかいなくなってて!必死で捜しても見つからないの…」
「ミアビったら大袈裟だよーテイルはよくブラブラするし」
「一応呼び出してみるね」
テイルの頭の中に送るイメージで。
空中に円を書き、円の中に“呼”と書く。
「コーリングユー!コーリンユー!テイルを呼んでー!」
……ッ─────
「あれ?繋がらない…」
「電波が悪いところにいるのかな…?」
いや、魔法電話に電波なんて関係ない。
直接頭の中に声を送り込むんだから電波や相手との距離なんて関係ない…
電話が通じないのは“相手が意識を失ってる”時のみ。
ということは……
「レイラ、ミアビの言ってることはホントだよ…テイルは行方不明」
「えっ!?嘘でしょ!?」
「3人で手分けして捜そうよ!」『うん!』
丁度今から敗者復活戦。
あたしらは関係ないから思う存分捜せる!
「じゃあ1時間後にここに集合しよう。テイルを見つけたら連絡して」
『了解』
レイラとミアビはテレポートで移動した。
「あたしも捜さないと……!」
* * *
「なんだ…これ……」
テイルの軌跡を辿って着いたのは試合会場とは真逆の位置。
あたしはほとんど使われてない旧校舎付近に広がる赤黒い染みを見つけた。
空中に円を書き、円の中に“呼”と書く。
「コーリングユー!コーリンユー!リリカを呼んでー!」
………プッ
《レイラ?テイルみつかった!?》
「テイルは見つからない。けど、旧校舎付近で赤黒い染みを見つけたわ」
《赤黒い染み…?それってもしかして……!》
「まだ断定出来ないわ。でもあたしとリリカの予想が正しかったらテイルは……」
相当な怪我を負っている……
あたしもリリカもそれからあとは言えなかった。
「とりあえずまだ時間あるから調べてみる。またあとでね」
そう言ってあたしは強引に電話を切った。
「ちょっと待てよ…仮にこの血がテイルのだとして…どうしてテイルが?一体誰がこんなことを……」
すると後ろから幽かだが物音がした。
ヒュッ
来た!
風を切る音が聞こえると同時に木の枝に飛び上がった。
少し離れた所に全身黒ずくめの5人組。
たった5人なら上級攻撃魔法で倒せる……!
「お前達…何者だ!?」
5人が一斉に上を見上げた。
目以外隠れてる…
相手の掌に光の渦が出来る。
あんな魔法、あった…?
そして光の渦が鋭い光の矢に変わり、あたしめがけて飛んできた。
「ちっ…やる気かよ…」
地面に降りて魔法陣を書こうとしたら急に身体が動かなくなった。
「えっ…!?なに!?」
丁度あたしの足の下には陣の中に入った者を動かなくさせる魔法陣があったみたいだ。
あいつら…それを狙って…
そしてその隙に5人組の放った光の矢があたしに突き刺さった。
「っ…ああぁぁぁぁぁ!!」
急所は外してあるが、身体の力が抜け、地面に倒れた。
もしかしたらテイルもこんな風に…
だとしたら…リリカに伝えないと……!
あたしの身体から流れ出る血を使ってリリカを呼んだ。
《なにか発見した?》
声を出す力がほとんどないため直接意思を伝えた。
「ごめん、リリカ…全身黒ずくめの5人組に攻撃されちゃった…そろそろ意識が危ない…」
《そんな!今何処にいる!?》
「だめ…来たらこ……ろさ…れ……る……」
ヤバい…もうダメみたい……
目の前が真っ暗になった。
* * *
「レイラ!レイラ!」
《…………プッ》
電話が切れた。
レイラが意識を失ったみたい…
「何処にいるの…レイラ……!」
あたしはレイラの軌跡を辿ることにした。
* * *
「またそんな激しく…まぁ彼女は強いから大丈夫かしらね」
倒れてるレイラの側に行ってみる。
意識を失ってる。
「今の内に運んで。さっきの女みたいに魔法除けの鎖繋いでおくのよ」
『はい』
そしてふと目についた血で書かれた円の中に“呼”と言うマーク。
まさか……!
リリカにこのことを……!?
……今更悔やんでも仕方ない。
まず今やるべきことを済ませないと……
* * *
「はぁ…はぁ……!レイラ…テイル…何処?」
力を使いすぎた…
2人の軌跡を辿れない。
「はぁ…はぁ…もうダメ……力が…!」
走る足が止まった。
2人共…何処にいるの……?
「リリカ!」
ミアビが怖い顔をして走ってきた。
「大変なの!あっちで赤黒い染みが……!」
「えっ!?」
まさか……!
「レイラ…!」
さっきまで動かなかった足が動き出した。
力が溢れてきた。
「あっ……」
地面に2人の足跡。
2人の軌跡を辿れる……
気がついたら軌跡を辿り、走ってた。
* * *
「リリカ!」
リリカは旧校舎へ向かった。
「フフ……アハハハハ!」
リリカ、早くそっちに行きなさい…
罠が…貴方を待ってるわ……
「さぁ、お客様のおもてなしをしなくては」
パチンと指を鳴らし、制服からいつもの服装へ。
そして旧校舎へテレポートした。
* * *
「ここって……」
2人の軌跡を辿って着いた場所、それは旧校舎だった。
そして赤黒い染みを見つけた。
2人はここに来たんだ…
「あら、意外と早いご到着ですこと」
何処からか声が聞こえた。
「誰!?」
「フフ…お忘れかしら?わたしよ、リリカ」
「!?」
この声…さっき聞いたばかり……
まさか……
「ミア…ビ……?」
「フフ……」
声の主が何処からともなく現れた。
「正解。どうやってここに辿り着いたの?生徒はあまり来ない場所なのに……」
「レイラとテイルの軌跡を辿ったのよ。2人は何処にいるか知ってるの!?」
「知ってるもなにも…2人はわたしが預かってるからここにいますよ。ほら…」
ゾクッ
ミアビの冷たい笑顔を見たあたしは背筋が凍る感覚に陥った。
そしてミアビの後ろに見えるレイラとテイル。
血まみれの状態で木に鎖で繋がれていた……
「レイラッ!テイルッ!」
思わず2人に駆け寄ったが、鎖に弾き飛ばされた。
「っ……!」
「おバカさんね。魔法使いを拘束してるのよ?魔法除けの鎖を使ってるに決まってるじゃない」
「ミアビ……貴方の目的はなに…?」
するとミアビは口元に笑みを浮かべ、あたしに言った。
「貴方の祖父母のことよ。リリカ」
「あたしの……祖父母のこと?」
そういえば…前にミアビは祖父母のことを聞いてきた……
「えぇ。偉大な魔術師である彼らについて。そして秘伝の術を聞き出す為」
秘伝の術。
それは祖父母があたし達に残した対悪魔用の術のこと。
「……それを聞いて一体どうするつもりなの…?」
「秘伝の術をこの世から消し去るの」
にっこり笑って言うミアビの顔は嘘をついてるようには見えなかった。
「そんな……!」
そんなことをしたら悪魔に好き勝手されてしまい、悪魔にこの世界を支配されてしまう。
「だから…もしリリカが教えてくれないなら……」
突然声のトーンが変わったと思ったらミアビの掌に光の渦が出来ていた。
「消えてちょうだい!」
そして光の矢が一斉にあたしの方へ。
「ディフェンシングユー!ディフェンシンユー!攻撃を防げ!」
急いで円を書き、その中に“守”と書いた。
バリンバリンという音がする。
「わたしは……ボスの為にこの仕事を終わらせなきゃいけないの…!死にたくないなら教えなさい!」
「ミアビは……ミアビは“ボス”の為なら友人を殺せるの!?」
「えぇ。殺せるわ。ボスの為ならね!」
ミアビの目は本気だった。
その目からは殺気すら感じられる。
「それに…わたしは貴方達を友人だなんて思ってもいないのだから」
「えっ…!?」
じゃあ今までは一体……
「隙あり!」
ミアビの叫び声と同時にあたしは光の壁に包まれた。
「えっ!?なにこれ…!?」
叩いてもびくともしない。
「さぁ、教えてもらうわよ。早くしないと貴方だけじゃなくレイラとテイルも傷つくわ」
「それは……!」
でもあの術を教えるわけにはいかない…!
祖父母から受け継いだあの術を……
「……仕方ないなぁ…それならあの2人を──」
「何故あの術を消し去りたいの?貴方は何者なの…?」
「フフ…知りたいなら教えてあげる。わたしはミア。魔王であるボスに仕える堕天使。まぁ悪魔みたいなものかな…」
「堕天使…?悪魔……?」
そんな…ミアビが……?
「だから対悪魔用の術を消し去らなきゃいけないの。ボスがこの世界を支配するために…だから大人しく教えなさい!」
ミアビは本気だ…
「……あたしが教えればレイラとテイルを助けてくれるのね…?」
「えぇ。リリカも救うわ」
だったらここは2人の安全を……
「リリカ…ダメッ……」
「えっ…!?」
鎖で繋がれていてさっきまで意識を失ってたレイラが目を覚まし、あたしに向かって言った。
「その術は…祖父母から伝わってるのよ…?やすやすと……教えちゃ…ダメ……!」
「レイラ……」
「ごちゃごちゃうるさいよ。もう一度意識を飛ばしてあげましょうか?」
でもレイラ……
あたし、術よりレイラとテイルを守りたい!
「術が書かれた書物を渡すわ。レイラとテイルから離れて」
「渡してくれる気になったんだ」
ミアビがレイラとテイルから離れてあたしの方へ向かってくる。
「それじゃあ渡してくれる?」
「えぇ…」
両手を少し前に出して呪文を唱える。
「我、ジェル・ナイトの血を引く者。秘伝の術よ、書物となり我が前に姿を現せ」
すると両手から光が真上に放たれたと思えば、その光の道から古い書物が現れた。
「これが……」
「対悪魔用の術……それを早く──」
「先に2人の鎖を外して。あたし達は外せないから」
「仕方ないわね…」
ミアビはレイラとテイルを繋いでいた鎖を外した。
2人はその場に倒れ込む。
「レイラ!テイル!」
あたしは術の書物をその場に置いて2人の元へ駆け寄った。
「それじゃあこれはもらうわ。リリカ」
書物を手に入れたミアビはワープ魔法を使い、この場を去った。
* * *
「ん……リリ…カ?」
「テイル!よかった…!やっと目を覚ましてくれた!」
思わず涙がこぼれ落ちる。
2人が無事でホントよかった……
「リリカ…ありがとう……わたし達の為に術を手放してしまったけど…」
「あたしは…レイラとテイルが無事ならそれでいい。きっと祖父母も許してくれるわ」
あたし達3人はみんなの無事を喜び、抱き合った。
* * *
それから数日後、傷が癒えてやっと学校に通えるようになった。
そして知った事実。
「ミアビ、転校したみたいだね…」
「うん…さっき先生から聞いた…」
身体の傷は癒えても心の傷はまだ癒えていない。
ミアビに裏切られ、傷つけられた心の傷。
あたし達3人、ミアビのことを友達だと思っていたのに…
ミアビ……
貴方は何処にいるの?
もう、友達には戻れないの?
もう、貴方に会えないの?
「でもホントにごめんね…!あたしのせいでこんな……」
「テイルのせいじゃないから!それを言うならあたしだってそうよ!あたしがドジったせいで……」
「もういいじゃない。2人とも。それに……」
カバンの中から一冊の古い本を取り出す。
「えっ……これって……!?」
「そう、秘伝の術よ。実はミアビが持って行ったのはあたしが作り出した偽物なの。多分今頃、消えてなくなってるはずだけど」
「そっか……秘伝の術、無事でよかったね…!」
「うん!」
「よし、今からみんなでショッピングにでも行こう!」
『おぉー!』
とにかく、これで日常の生活に戻れた。
2人が無事でホントによかった……!
「そう言えば…あたし達って魔法コンテスト失格扱いになったみたい」
『えぇ!?』
めでたし、めでたし。