大木圭介⑥
「明後日、お待ちしてます」
再び夏が来て、コンビニでの立ち話はまだ続いている。
というより、週に一度、どちらかの部屋で夕飯を作ってもらって食べることが恒例化している。
どうしても材料費などを受け取ってくれない彼女に、お返しとして月に一度、外でごちそうするのも恒例になってきた。
正直、ぐいぐいとこちらに食い込んでくるのを抑えられないでいる状態だ。
仕事での接点は既になく、個人的な知り合いとして、ぐいぐい迫られているという、世間の若い男性諸君に呪われそうな状況だ。
こんなおじさんの何がいいのか知らないが、彼女が向けてくる好意はまっすぐで眩しい。
少なくとも俺自身、彼女に美奈の面影を見るようなこともなくなった。
年齢こそ美奈と一緒だが、彼女は娘ではなく別の女性なのだと、肌で感じている。
一緒にいて安らげているのも事実だ。
やがて彼女が年相応の恋人を作る日まで、このままで。
そう思ってきたのも本心ではあるのだが。
「少し、遠出をしないか」
「遠出って?」
「そうだね、蔵王とか」
「私、スキーとかしたことありませんけど」
「いや、単に観光だよ。
この季節なら景色がいいし、あそこなら日帰りもできる」
言うと、彼女は頬をふくらませた。
こういう表情を自然に見せてくれるようになったな。
「ねえ、せっかくだから泊まりがけで行きませんか?」
「さすがに泊まりがけはね。
そういうのは、籍を入れてからだな」
上目遣いで泊まりがけをねだる彼女に言うと、目を輝かせた。
「大木さん!」
「こんなバツイチおじさんで、後悔しないかい?」
「しません!」
彼女が飛びついてくる。
「間違いなく君より先にじいさんになるんだが」
「構いません」
「子供ができたとして、成人する頃には俺は60だよ。
子供だって、父親が年寄りで嫌な思いするんじゃないのかな」
「子供は…いなくてもいいです。
欲しくないわけじゃありませんけど、私は、大木さんと結婚できるならそれで」
「それじゃあ、俺の奥さんになってくれるかな」
「はい! なります!」
彼女は、涙をこぼして喜んでいた。
「こういうのを虚仮の一念って言うんですよね。
あの、末永くお願いします、圭介さん」
「よろしくお願いします……南」
「泊まりがけで旅行、できますね」
婚姻届を出したのは、それから半月後だった。
南は、本当に母親達と距離を置いていたらしく、養子縁組は短大時代に解消していたらしい。
その時点で、アパートの保証人以外の繋がりがなくなっていたそうだ。
結婚することも一切教える気はないそうだし、当然、俺は南の家族には会っていない。
「母とはどうしても縁が切れませんが、二度と会わないつもりです。
相続放棄もしてありますし、お通夜とかも呼ばれないはずです」
生い立ちに色々抱えているのを知っているだけに、そこは口を出さないことにしている。
俺は再婚だし、南もこんな状況だから、式や披露宴はしないことにして、2人で記念写真を撮るだけにした。
せめてウェディングドレスくらいは着せてやりたい。
アパートは、少し広いところに引っ越した。
これは、2人になるし、3人になるかもしれないからだが、南のアパートを引き払うことで、養父と完全に切れるという理由もあった。
まさか40過ぎて21の嫁さんもらうことになるとは思わなかった。
だが、今更南のいない生活は考えられない。
自分自身、そういう気持ちになるとは思っていなかった。
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2年ほどで娘が生まれ、再び娘のおむつを換えるようになった。
南は、育休を経て仕事に復帰し、二人三脚で子育てをしている。
3歳になった娘の奈菜美が「ナナちゃん、大きくなったらパパのお嫁さんになるの」と言うと、南が「残念、パパのお嫁さんはママなんだな~」と笑っている。
「ママずる~い、ナナちゃんがお嫁さん!」
「ママの方が早かったんだな~、早い者勝ちなんだな~」
「ずるいずるい、ナナちゃんがお嫁さんなの!」
とじゃれ合っている。
南、3歳の子と張り合うのはやめた方がよくないか。
あと、「パパはママのことが大好きだもんね~」と振ってくるのはやめてくれ。
これで本編は終了です。
圭介は、流されながらも幸せな再婚をしました。
流れが悪くなるので書いていませんが、南は、無事奨学金を完済しています。
今作では、全キャラの名前を左右対称で統一しています。
気が付いていただけました?
明日朝7時に別視点を入れて完結となります。




