いちゃつきノーコンテクスト
カレシが照れた時に、恥ずかしそうにしながら、ふにゃって笑う顔が好きだから、手当たり次第『かわいい』と『かっこいい』を連呼していたら、だんだんその表情をしてくれなくなった。
付き合って一ヶ月のことだった。
「解せない」
「明白だろ」
カレシの脚の間にすっぽり収まってるわたしは、唇を尖らせながら上目遣いに、目を見つめる。
今は彼が自主的に座椅子になってくれたから、頭はカレシの胸にぶつけ気味になるわけだ。
「慣れたんだよ、いい加減」
「え?」
頭を少し傾けて、カレシの胸に耳を当てる。トクトクトクと鳴る鼓動は、たぶん普通よりもやや速いリズムを刻んでいた。
「えー?」
「俺の血圧は200あるんだよ」
「川の向かい側に、亡くなったおじいちゃんの姿が見えてくるレベルじゃん」
「俺の爺ちゃんはどっちも元気にしてる」
「わたしの」
「どういう理屈でお前のじいちゃんが、俺を迎えに来るんだよ……」
わたしのおじいちゃんは、とてつもない親バカだったので、結婚のあいさつに行った当時はまだ恋人だったわたしのお父さんを、猟銃2丁で出迎えた人なのだ。ちなみに、結婚式にはバレないように鉈を持参したらしい。
駐在さんとは幼なじみで仲良しだったから、ギリ逮捕されなかったそうだ。
「で、わたしは初孫で、顔はおじいちゃんの娘、ようするにお母さん似なんだけど」
「昭和のエピソードって、たまにえぐいよな」
昭和生まれのお父さんが、全力で首を横に振りそうな偏見。
でも、そんなことよりも。
「おじいちゃんが迎えに来る理由分かった?」
「迎えに来てるって言うより、道連れにされるんじゃねえかな」
「正解。ご褒美に、金でできた六文銭か、銀でできた六文銭あげるね」
「三途の川に女神っているのか」
わたしは自分を指さした。鼻で笑う音が頭の上から聞こえてくる。鼻で笑われるのが、しゃくに障ったので、頭をあごにぶつけにいった。
上から押さえつけられて、顎がわたしの脳天にささる。ちょっと痛い。
「三途の川に女神がいるわけないだろうが。仏教ベースなんだから」
「そっちでわたしは嘲笑われてたの!?」
あと、なんでちょっと詳しいのか。
義務教育だ、と言われる。そんなずはない。非難の意を伝えがてら、じとーっと目を見つめる。
耐えかねたのか、ちょっと目をそらしながらへにょんってカレシの口が綻んだ。わたしの好きな表情だった。
「慣れたんじゃないの?」
「慣れたよ」
「照れてるじゃん」
「うっさい」
でこぴんされた。




