聖魔法騎士団の入団試験 5
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わたしたちの試験監督は第一聖魔法騎士団が受け持つそうだ。
受験生一人に試験監督が一人つき、フリードリヒ様は全体の監督者として同行したらしい。
……な、なんてラッキーな‼
二十九歳のフリードリヒ様は、渋さが増してイケメン度合いに磨きがかかっていた。
わずかに眉の寄ったちょっと厳しい表情もまたたまらない。
……ああ、素敵。
昔は長かった銀髪は、今は肩をいくらか過ぎたくらいの長さになっている。
フリードリヒ様はわたしたち受験生五人を順番に見やってから、試験の説明と注意事項を述べた。
試験は、この病院内の患者を癒すこと。
治療の難易度、人数については各自で判断し治療にあたること。
ただし、力の使い過ぎには注意すること。
「己の力量もわからず力を使いすぎて倒れるような団員は不要だ。聖魔法騎士団は騎士団の魔物討伐にも同行することになる。その際、魔力の使い過ぎで倒れるようなことがあれば足手まといになり、最悪の場合は見捨てられる。心せよ」
つまりは、魔力を使いすぎて倒れたらその時点で不合格ってことでいいのよね?
手を抜くのはもちろんダメだけど、無茶をしてもだめ。多少の余力を残しつつ、どれだけの治療を行えるのか、それを見られているってことね。
わたしの担当はミヒャエラさんという三十歳くらいの女性聖魔法騎士だった。
「マルガレーテ・ハインツェルです。どうぞよろしくお願いいたします」
「留学していたコーフェルト聖国の学園でも優秀な成績を収めた人ね。楽しみにしているわ」
ミヒャエラさんがにこりと微笑む。
国費留学生の成績は国に報告される。その情報が聖魔法騎士団にも共有されているのだろう。
「それで、まずはどこに行くのかしら?」
誰を治療するのかも、何人治療するのかも、受験生にゆだねられている。
わたしは配られていた名簿を確かめた。
……差別するわけじゃないけど、重傷者やお年寄り、もしくは子供を優先したいわよね。
重傷者は、それだけ切迫している。治療の順番が間に合わず命を落とすことだってあり得るから、できれば優先的に診たい。
また、お年寄りや子供は体力的な問題もあるから、長く病気や怪我で苦しませたくなかった。
「まずは、重症患者がいる四階に向かいたいです」
「わかったわ」
わたしと同じ考えなのか、同じく四階に上がる受験者が二人いた。
ただし、四階にも何部屋もあるため、同じ部屋には入らない。
わたしが入った部屋には四人の患者が寝ていた。
わたしと試験監督であるミヒャエラさんが入室すると、患者たちの視線が一様にこちらに向く。誰もが期待した目でこちらを見ていた。
……病気や怪我で長く苦しみたい人なんていないもんね。
「まずはこの部屋にします」
わたしが宣言すると、部屋の中にいた人たちがホッと笑ったのがわかる。
わたしはさらに安心させるように、「全員、順番に診ますから」と伝えてから、入り口に一番近いところに寝ていた三十半ばほどの男性に近づいた。
「失礼しますね」
配られたリストにはどのくらい入院しているのか、どんな症状があるのかが書かれていたが、なんでも魔法で治すこの世界では詳しい病状までは書いていない。
というか、レントゲンも血液検査もないから、具体的に特定できないと言った方が正解だ。
……黄疸が出てるわね。
肝炎か、もしくは、肝臓癌やすい臓癌って可能性もあるかもしれない。
前世でいくら看護学校の学生だったからといって、実践を積んだわけではないので素人同然だ。決めつけるのはよくない。
……でも、多少場所を絞った方が効率がいいし、効きもいい。
わたしは臓器の場所を特定せず、内臓全体に聖魔法をかけることにした。
特定の箇所に聖魔法をかけるやり方はわたし独自のやり方といってもいい。
目に見える怪我ならともかく、病気が相手ならば、聖魔法使いは全身に聖魔法をかけるのだ。それが正しいやり方だと言われている。
確かに、全体にかけてしまえば見落としはない。
だが、効率がすこぶる悪い。何故ならその分、多くの魔力を使うので、一度にたくさんの人を癒せなくなるからだ。
少なくともこの部屋の四人は全員治してあげたいので、わたしは効率を重視することにした。
「マルガレーテ、その患者は怪我ではありませんよ」
「はい。承知しています」
わたしが患者の腹部に手を当てたからだろう、ミヒャエラさんが不思議そうな顔をする。病人の場合は手を握って全体に聖魔術をかけるのが普通だからだろう。
ミヒャエラさんはそれ以上は何も言わず、じっとわたしのやり方を見ていた。これも試験なので、あまり口を出してはいけないようだ。
わたしはゆっくりと、腹部全体に聖魔法をかけていく。
内臓疾患が消え、内臓機能が戻れば、やがて黄疸も消えるはずだ。
治癒を終えると、男性患者がお腹の当たりを撫でて笑った。
「ああ、痛くなくなったよ。ありがとう」
「よかったです。数日様子を見て、あとは先生の指示に従ってくださいね」
わたしは次に、その患者の隣のベッドへ向かった。
そこに寝ていたのは六十歳前後ほどの男性だ。
息をするたびにひゅーひゅーと音がして、熱もあるため、肺炎が疑われる。
……まずは肺に癒しをかけ、あとはポーションを飲みながらウイルスを殺せば大丈夫ね。
自作であれば、試験にポーションを持参していいことになっている。
聖魔法で治癒するか、それともポーションを使うかの判断ができることも試験の重要な要素だからだ。
ポーションには種類があり、中にはその聖魔法使いしか知らないような秘伝のレシピもあったりする。どの薬草をどのくらい組み合わせるかによって効果が変わるため、聖魔法使いは独自にアレンジを加えたりするのだ。
かくいうわたしも、研究に研究を重ねて独自のレシピを持っている。今日はその独自のレシピで作ったポーションを数種類、二十本ほど持ってきていた。
わたしはまず男性の肺に聖魔法をかけ、そのあとで鞄から体内のウイルスを殺すことに重点を置いたポーションを取り出した。
「息苦しさは消えましたか?」
「ああ。よくなったよ。ありがとう」
「よかったです。ただ、体の中にはまだ悪い菌……ええっと、病気の卵のようなものが残っているため、このポーションを飲んでください。一本でも効くと思いますが、念のためもう一本渡しておきますので、これは明日飲んでくださいね」
患者にポーションを二本渡して、わたしは自分の手のひらを見つめる。
……うん。まだ全然余裕ね。
こうして自分の魔力残量を把握するのも重要なことだ。
これならこの部屋の患者を全員癒した後で、他の部屋にも迎えるだろうと思ってホッとしてしたわたしは、部屋の入り口にもたれかかるようにディートリヒ様が立っていることに気が付いて目を見開く。
目が合うと、ディートリヒ様が藍色の瞳をわずかに細める。
「私のことは気にしなくていい。続けなさい」
「は、はい……!」
見られていたなんて、とドキドキしたけれど、これは試験なのだ。試験監督であるディートリヒ様が見に来たって何ら不思議ではないのである。
わたしはディートリヒ様の視線に緊張しながら、次の患者へ移った。







