聖魔法騎士団の入団試験 4
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※ちなみに、あとがきに載せている漫画の切り抜きは、漫画1話につき1ページまでの紹介の許可が出ているので、毎回載せられなくてすみません(^_^;)
はれよし先生の遊び心が詰まった、脳内マルガレーテの叫びとかも、タイミングが合えば入れたいなぁ〜(ꈍᴗꈍ)
基礎試験が免除されている留学組の試験は、病院で実際に病気や怪我に苦しむ人に聖魔法をかけ治癒を施すというものである。
この世界は、魔法なんてものがあるせいか、正直言って、医学はちっとも進歩していない。
いや、ある意味では、「魔法」によりものすごく進歩しているともいえるのか。
まず、病気や怪我は聖魔法、もしくは聖魔法の使い手が作ったポーションという薬で癒すのが基本だ。
化学薬品なんてものはないし、手術もない。
科学的に病気を分類するようなことはしないし、そのための研究機関もない。
全部魔法頼み。そしてそれですべて事足りる。さすがは異世界という感じだった。
ゆえに、今から向かう病院は、ポーションで怪我や病気が治癒できない人たちが、聖魔法の使い手に魔法をかけてもらうのを待機する場所である。
病気や怪我でほとんど動けない状態だったりすると家で面倒を見られないので、病院に入院させてお世話をしてもらったりする。これは、前世の介護に近い。
そして、痛み止めのポーションを飲みながら、聖魔法をかけてもらえる順番を待っているのだ。
ちなみに、聖魔法騎士団は、慰問という形で定期的に病院を訪れたりはするけれど、彼らの任務は病人や怪我人を治癒して回ることではなく国のために働くことなので、その頻度は少ない。
病院に入院する患者を癒すのは、主にその病院に勤めている聖魔法使いだ。そんな病院勤めの聖魔法使いを、この世界では「医者」と呼ぶのである。
聖魔法は普通の魔法よりも魔力消費量が多いため、一日に使える回数も限られている。だから治療は順番待ちになるわけだが、治療の順番を待っている患者にしてみたら、年に一度行われる聖魔法騎士団の入団試験日は、そんな順番を無視して怪我や病気を治してもらえるかもしれない最大のチャンスでもあった。
留学組のグループは、わたしを含めて五人。
そのうち三人がわたしと同時期に留学していた人たちで、顔見知りだ。
お互いに「がんばろうね~」と励まし合っていると、残りの二人にじろりと睨まれた。たぶんこの二人は、去年の入団試験で落ちたのだと思う。留学していても必ず受かるとは言えないのだ。
……聖魔法騎士団って、百人受けて一人か二人受かればいい方だとか言われてるくらいだもんね。
本当に狭き門なのである。そして、ヨアヒムの言葉を借りるのは癪だが、とってもエリートな集団なのだ。
……でも、家族の生活がかかっているから、わたしは落ちるわけにはいかないの。すーはーすーはー、落ち着けわたし。大丈夫、たくさん努力してきたんだから!
病院の玄関に到着したわたしは、その場でしばらく待機しているように言われた。
きっと試験監督の聖魔法騎士が来るのだろう。
聖魔法騎士団は、一から五の団に分かれている。
その中で第一聖魔法騎士団は別格扱いで、その団の団長は「総帥」と呼ばれ、全部の団を監督する立場にあった。つまり、聖魔法騎士団の中で一番偉い人だ。
そして、現第一聖魔法騎士団の団長で総帥であるのが、わたしの憧れのフリードリヒ・シュベンクフェルト様である。
フリードリヒ様は騎士団総帥でシュベンクフェルト公爵であると同時に、王弟殿下でもあった。
御年、二十九歳。
十九歳の時に第三聖魔法騎士団の団長になり、とんとん拍子で総帥の地位まで上り詰めたエリート中のエリートである。
ちなみに、私生活ではバツイチ独身、子供なし、だ。
フリードリヒ様は一度結婚したのだけど、妻が浮気して、そしてその浮気相手と蒸発してしまったという、苦い過去を持つ方だった。
その経験から女性不審になってしまっているという噂もある。
……うぅ、可哀想……! でも好きぃ!
実はわたし、フリードリヒ様とは一度会ったことがあるのだ。
フリードリヒ様は覚えていないだろうが、わたしはしっかり覚えている。
あれは、わたしが七歳の時のことだ。
当時、お母様はエッケハルトを妊娠中で、つわりがひどかったため、わたしの遊び相手はもっぱら父だった。
そんなお父様と領地を散歩していたときに、わたしはうっかり溝にはまって怪我をしてしまった。
顔面からべしゃっと転んだわたしは額を切ってしまい、その傷からはだらだらと血が溢れた。おでこって、それほど大きくない怪我でも、びっくりするほど血が出るのよね~。
お父様は血を流すわたしに滅茶苦茶大慌てをして、ぎゃーぎゃー叫んで、わたしを抱きかかえると、近くの町の病院まで急いだ。
わたし、実は前世で看護学校に通っていた学生だったから、傷の手当の方法くらいわかるんだけど、さすがに怪我をしたばかりで痛くてそれどころじゃなくて、痛みを我慢しているうちに慌てまくったお父様に運ばれてあっという間に病院に到着した。
でも、運が悪いことにその日の病院は通院者でごった返していて、すぐに治療を受けられるような状況ではなかったのだ。
お父様が半泣き状態で「娘が! 娘があ!」と叫んでいるのをやれやれと思いながら見やりつつ、「これ、前世だったら縫うレベルの怪我かなあ。針と糸を煮沸消毒したら、自分で縫えるかなあ」なんて、ちょっと冷静になったわたしが考えていたときだった。
「血だらけだな」
大騒ぎしているお父様を眺めていたわたしの背後からそんな声がした。
見上げると、長い銀髪を首の後ろで一つに束ねた、藍色の瞳の背の高い青年が立っていた。
銀糸の刺繍の入った真っ白い詰襟の制服は知っている。聖魔法騎士団の制服だ。
……わっ、めっちゃイケメン! お父様も顔だけイケメンだけど、この人の方がカッコイイかも!
お父様は顔がよくても中身が残念過ぎるので、どうもイケメンだと思えない。
じっとこちらを見下ろしている藍色の瞳を見つめ返してぽーっとなっていると、彼はわたしの側に膝をついた。
「ああ、ひどく切ったな。可愛そうに。待っていなさい」
「フリードリヒ様、今日はもう……」
「この程度の怪我を癒すくらいなら、まだ魔力は残っている」
側にいた部下の人をそう言って制して、イケメン――フリードリヒ様がわたしの傷に手をかざす。
傷跡がふわりと温かくなって、瞬きを一度する間に痛みが消え、傷が塞がっていた。
「これでよさそうだな。だが、血が多く出ていたようだから、今日は一日おとなしくしておきなさい」
ぽん、とわたしの頭に手を置いて、フリードリヒ様がうっすらと微笑んだ。
……わーわーわああああああ! カッコイイ‼
ぽーっとなるわたしを置いて、フリードリヒ様はすぐにいなくなってしまったので、まともにお礼も言えなかったことだけが心残りだ。
受付に向かって騒いでいたお父様が戻って来て、怪我が癒えていたわたしに驚いていたが、お父様に説明する心の余裕もなかった。
……あんな人、いるんだ……。
あとから知った話だが、ちょうどあの日、フリードリヒ様たち聖魔法騎士がうちのハインツェル伯爵領に慰問に来ていたらしい。
どうやらそのせいで、いつもより病院は人が多かったみたいだ。
聖魔法騎士たちは慰問に来てもわざわざ領主に挨拶したりしないから、お父様も知らなかったようで、運がよかったなあと泣いて喜んでいた。
ちなみに、お父様は名前も名乗らずに病院の受付で騒いでいたらしく、あとからお父様が領主だと知った病院の院長が血相を変えて我が家に謝罪に来たのを見たときにはあきれてしまったわね。
……お父様、本当に迷惑をかけて。
うちのお父様は権力を振りかざすようなことはしないけど、院長からすれば領主を無下に扱ったと血の気が引く思いだったに違いない。
平身低頭謝罪する院長に、子供心に胸が痛んだものである。父よ、もう少し考えろ? うちの子の怪我は治ったから気にしてませんよ~ははは~じゃないからね。
わたしがそんな昔の思い出に思いをはせていると、病院の玄関に六人の聖魔法騎士が到着した。
サッと礼を取ったわたしは、顔を上げるように言われて息を呑む。
……ひえええええええ⁉
目の前に、憧れのフリードリヒ・シュベンクフェルト様がいた。







