聖魔法騎士団の入団試験 3
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わたしがランデンベルグ国に戻って来て一か月が経った。
今日は聖魔法騎士団の入団試験の日だ。
ちなみに、お金儲けのためのアイディアグッズ制作の第一段目は、木があれば作れる孫の手にしておいた。孫の手をそのまま商品名にしてもこの世界で理解されるかはわからなかったので、商品名は「猫の手」にしようと思っている。
その猫の手は、現在お父様がせっせと作っては試行錯誤を重ねていた。お父様は能天気だが、昔から手先は器用なので、ああいった細かい作業に向いている。
ちなみに試作一号はお母様が気に入って愛用していた。
これ、気持ちいいわね~なんて言っていたから、完成すればたぶん売れる……はずだ。
適当なものを作って評判が悪かったりしたら次が売り出しにくくなるので、お父様には納得のいくクオリティに仕上げてもらうように伝えてある。
だが、いくら商売をはじめたところですぐに上向くとは思っていないし、苦戦する可能性だった充分にある。
そのため、生活費は別で確保しておかなくてはならないため、今日の聖魔法騎士団の入団試験には、絶対に落ちるわけにはいかなかった。
……一年間しっかりコーフェルト聖国で勉強したし、成績も上位だったんだもの。大丈夫だって思いたい。
試験は実技と筆記の二種類だ。
まずは筆記試験でふるいにかけられ、合格点に達したものが実技試験に臨める。
筆記は聖魔法に関する基礎知識と法律だ。騎士も聖魔法騎士も前世で言うところの公務員のようなものなので、必要な法律を知らない人間はもちろん弾かれる。
筆記試験は難なくパスできたので、今日の実技試験に合格できれば、わたしは晴れて聖魔法騎士団に仲間入りだ。
……落ち着け、落ち着け~。
憧れの聖魔法騎士団。さらには、現在家族の生活も背負っているわたしとしては何が何でも合格を勝ち取らなければならないので、プレッシャーが半端ない。
「なんだ、お前も受けに来たのか」
両手を握り締めて深呼吸をしていたわたしは、ふと、聞き覚えのある声に振り向いた。
青みがかった灰色の髪に、グレーの瞳の、ひょろりと痩せ型の男が立っていて、わたしは思わずぐっと奥歯を噛んだ。
ヨアヒム・アンデルス。
わたしが留学している間にいつの間にか婚約が解消されていた、元婚約者。
そして、お父様が借金を作った、アンデルス伯爵家の嫡男。
ヨアヒムの父親のアンデルス伯爵とわたしのお父様は昔から知己の間柄だ。アンデルス伯爵はお父様の性格を知っているため、投資に手を出しても失敗する可能性が高かったことくらいわかっていたはずである。
それなのに、能天気でお人よしのお父様に対して金を貸してやるなんて甘い言葉をささやいて、その借金の型に領地を没収した。
もちろん、借金を作ったのはお父様だし、投資に失敗したのもお父様だ。
恨むのは筋違いだとわかっているが、何故一言、やめておけと止めてくれなかったのか。
そう思わずにはいられない。
ヨアヒムもヨアヒムだ。
お父様が投資をはじめようとしたときはまだわたしと婚約関係にあったのだから、未来の義父の愚行を諫めるくらいしてくれてもよかったはずなのに。
……って、これじゃあ八つ当たりかしら。
何故と思う気持ちはあるけれど、お父様の行動が招いた結果なのだから、これでは逆恨みだろう。
わたしは深呼吸して気持ちを落ち着けると、ヨアヒムに向き直る。
「ええ。留学から帰って来たから。あなたも受けに来たのね」
ヨアヒムは二十歳。騎士団、聖魔法騎士団問わずに、入団試験を受ける人間の平均年齢は十七歳から十九歳であるため、受けるにしては少しばかり遅いような気もする。
それに、ヨアヒムは聖魔法は得意ではなかったはずだ。
わたしが国費留学の選考試験を受けた時にヨアヒムも受けていたが、彼は不合格だった。
……あの時は散々八つ当たりをされたものね。女のくせにとか、可愛げがないとか。選考試験に合格することと可愛さの何に関係があるのかわからないけど。
過去を思い出してちょっと苛立ちを覚えていると、ヨアヒムがはんっと鼻で嗤った。
「女の、しかも家が没落した人間が、聖魔法騎士団に入れると思っているのか? お前みたいなのがいたら騎士団の品格が落ちる。邪魔だ。とっとと帰れよ」
……なんですと?
こいつはもともと性格が悪かったが、今のはかなりカチンときた。
聖魔法騎士団だけではなく剣や魔法で戦う騎士団にも女性は一定数いるし、試験に身分の垣根はない。平民でも、才能があれば聖魔法騎士団や騎士団の入団試験を受けることが可能だ。
そして、合格すれば身分に関係なく準騎士の称号がもらえる。
準騎士や騎士の称号はすなわち、準騎士爵、騎士爵という爵位で、その爵位は一代限りと言う制限はあるが、つまりは平民でも貴族の仲間入りができる数少ないチャンスであるため、受験者の中には平民も多く混じっていた。ただし、教育にかけらえれる金額の差から、最初の筆記試験で大半が落とされ、実技に残れる平民はほとんどいないけれど。
……筆記の合格点が足りていなくても実技では充分に合格点が叩き出せる人もいるんでしょうに。もったいない。
前世と違って、ここは身分社会だ。
まあ、前世でも身分階級が残っている国もあったし、身分がなくとも格差社会だったため、平等とはいいがたい世界だったので、身分差によって悔しい思いをする人が出ることは、悲しいとは思うけれど仕方がないとも思っている。
全部が全部綺麗に平等である社会を作るのは、とても大変なことだから。
そしてそんな社会は競争を阻むので、成長しなくなる。
どっいがいいのかはわからないけれど、全部が丸く収まる方法がないのだけは確かだ。
わたしは腕を組むと、じろりとヨアヒムを見上げた。
ヨアヒムは特別背が高い方ではないが、わたしと比べると十センチかそこらは高いので、目を睨みつけてやろうと思うと視線を上げることになる。
「試験の申し込みをした時に拒否されなかったわたしが、どうしてあなたの言うことを聞いて帰らないといけないわけ?」
「なんだと? 俺はお前のために言ってやってるんだぞ。聖魔法騎士団はエリート集団だ。お前みたいな落ちぶれた人間が受かるはずがないんだよ。恥をかきたくないだろう?」
……恥と言うなら、あんたがさっきから大声で「没落」だの「落ちぶれた」だの言ってくれるおかげでもうすでにかいているけどね‼ むしろあんたの存在が恥よ‼
試験会場で喧嘩を吹っ掛けるような男が知り合いだと思うと恥ずかしくて仕方がない。
さっきから注目を集めているみたいで、視線が痛いし。
わたしは早々に、この恥ずかしい男から離れることを決断した。
「ご忠告どうも。でもわたしには必要ないわ。じゃあね」
おしゃべりをしていたら試験官に睨まれるかもしれないし、こいつの側にいたらイライラするし、わたしはすたすたと試験グループが書かれている紙が張り出されている掲示板へ向かう。
……ほうほう。留学組は別枠なのか。
コーフェルト聖国に留学した人たちは聖魔法の基礎試験が免除されているため、ヨアヒムとはグループも試験内容も違うらしい。これであいつに煩わされなくてすむ。
わたしに遅れて掲示板にやってきたヨアヒムが、グループ分けを確かめて、それからわたしをじろりと睨んできたが、もちろん無視だ。
……あんたに睨まれても痛くもかゆくもないわよ。というか、あんたと結婚しなくてすむと思うと、お父様が投資に失敗してよかったとすら思えちゃうから不思議だわ。
ヨアヒムとの婚約を望んだ今は亡きおじい様には悪いけど、おじい様のお友達のヨアヒムの祖父がいい人だったからって、孫がそうだとは限らないのだ。
わたしはヨアヒムに背を向けて、留学組が集まっている場所へ向かって歩き出した。







