怪しい投資話 2
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第一聖魔法騎士団の団長室に向かって、契約書を見せて事情を説明すると、フリードリヒ様はすぐさまマクシム様を呼んでくれた。
「確かに怪しいが、妙だな」
マクシム様は契約書に目を通して、うーんと唸る。
「同じ人間を二回狙うか? しかも、こういっちゃなんだが、ハインツェル伯爵家は借金を抱えていて、金なんてなさそうだろ。ハインツェル伯爵家が開発した商品が売れてるから、その売り上げを狙ったのか? だとしてもなあ……」
「まだこれが詐欺と決まったわけではないが、その場合、一度騙せたので騙しやすいと判断したとも考えられるな」
「なるほどなあ……」
マクシム様は、ホルガーという行商人が詐欺師の場合、お父様を二回も狙ってきたのが解せないようだ。
確かに、うちには投資に回すお金なんてない。
住んでいる家も貴族が住むにはボロすぎる家で、利に敏い商人ならば門構えを見ただけで相手にしないだろうと思われた。
「理由なんて今考えたって仕方がない。問題はこれが詐欺なのかそうでないのかを確かめる方が先決だろう。一連の投資詐欺の件との関連も調べた方がいい」
「あの……」
口を挟むのはよくないかなとは思ったが、どうしても気になって、わたしは二人の話に割って入る。
「その投資詐欺について、教えてもらってもいいですか?」
「うん? ああ……、どうすっかな……」
「マクシム、彼女とその一家は被害者である可能性がある。伝えてもいいんじゃないか?」
「まだいうほど証拠が集まってるわけじゃねーんだけどなぁ……、ま、いっか。お嬢ちゃんなら吹聴して回らねーだろうし」
マクシム様はがしがしと頭をかいた。
「いくつかパターンはあるんだがな、外国の宝石だとか金の買い付けの事業への投資話を持ち掛けて、船が沈没しただの採掘現場が事故っただので会社が倒産。負債を抱えたために投資金を返還できないって言うのが、一連の投資詐欺の大筋だ。ただ、投資話を持って行ったやつが、毎回違う名前なんだよ。名前を変えているのか本当に違う人間なのかもわからねえ。いくつか契約書は手に入れられたが、この手の投資に細かい規定法なんてねーから、これだけじゃあ難しいのなんの。せめて投資先の会社が架空のものだとか、何か情報が入れば動きやすいんだが」
「相手の会社の所在地が国外だからな。さすがに他国に協力要請できるほど証拠がそろっているわけではない」
「つーわけだよ」
つまり、ホルガーという男が持って来た怪しげな投資の契約書は、確かに怪しいが、投資の契約に対して細かい国の規定はないからこれだけでは罪にはならないらしい。
「それで、お嬢ちゃんの家に来たホルガーって男は、どんな格好をしていたんだ?」
「わたしは直接見ていませんけど、父が言うには、三十代半ばほどの外見で、黒髪で、身長は男性の平均身長くらい。目は細くて、痩せ型だそうです」
「それだけじゃあ特定しにくいが、他の被害者の報告と一致する部分はある、か」
「同一人物が名前を変えている線が濃厚かもしれないな。グループ犯じゃなければこちらとしてはありがたい。その男を何らかの形で捕らえられれば、尋問して吐かせればいいだけだ」
「問題は、どうやって捕らえるかだよ。捕らえるにしても何らかの罪が必要だろう?」
確かに、何もない人間を捕縛することはできないだろう。ホルガーという男が詐欺師かどうかの証拠もない。勘違いだったら大変なことだ。
……何かないかしら。ホルガーが詐欺師かどうかを判断する材料……。
もし、ホルガーが相手によって名前を変えて投資話を持って行っていたのならば、それだけでも充分怪しい証拠になるはずだ。
せめて、契約書が手に入れば――、あ。
「あの、契約書って、二通ありますよね。本人控えと、相手が持つものと」
「ああ、そう……なるほどな! ホルガーの家を調べりゃ、契約書が出てくるかもしれねーってわけか!」
相手によって名前を変えて契約書を交わしていたのならば、その違う名前で執り行った契約書をすべてホルガーが所有していたらおかしい。
もしそれが見つかれば、それを元にホルガーを捕縛し尋問にかけられる。
「だがなあ、どうやってそのホルガーの家から、その契約書を探すのかって話だ。いきなり押し入るわけにもいかないだろう?」
「投資について質問があればいつでも来いと、ホルガーという人が言っていたそうです。わたしの家族であれば怪しまれずにその家に行くことができます」
「そして隙を見て家の中を漁るのか? 危険すぎる」
フリードリヒ様が眉を寄せて首を横に振った。
「でも、家に押し入れないならこれしかないと思います」
「もしそれで、君や君の家族に危険が迫ったらどうするつもりだ」
「うちの父は、能天気ですがあれでなかなか優秀な魔法使いです。わたしも、聖魔法以外にも多少の魔法が使えます。何かあっても自分の身くらい自分で守れます」
「そういう問題では――」
「まあ待て待て二人とも! お前たちで言い争ってどうする」
フリードリヒ様と言い合いになりそうになったところで、マクシム様が止めに入った。
……つ、つい熱くなっちゃったわ。
ホルガーが詐欺師なら、何としても捕まえてやりたいという気持ちが先走ってしまった。
「すみません、つい……」
「いや、私も悪かった。だが、危険なのは本当だ。君や君たち家族は被害者かもしれないが、捕縛者ではない。本来この手の取り締まりは騎士団の管轄だ。聖魔法騎士である君の仕事ではないし、もっと言えば君の家族の仕事でもない」
「そう、かもしれませんけど……」
ホルガーの近辺を探れるチャンスがあるのに、それをみすみす逃すのはもったいないとは思わないのだろうか。
手をこまねいていて、ホルガーに、それこそ他国にでも逃げられたら大変だと思う。
わたしとしては、何が何でもホルガーを探って、詐欺師かどうかを確かめたいのだ。
けれども、フリードリヒ様がダメと言うのに、勝手な真似はできない。
わたしが勝手に動いたことでフリードリヒ様たちが捜査しにくくなる可能性もあるのだ。わたしの行動が結果的に二人の邪魔をしてしまうかもしれない。
何もできない自分が悔しくて唇を噛んでいると、マクシム様ががしがしと頭をかいた。
「あー……、フリードリヒ、お嬢ちゃんの案は、それほど悪いもんじゃないと思うぞ。もちろん、お嬢ちゃんたちだけを行かせるのは危険だが、こちらがすぐに動ける用意をしておけば、万が一ということもないだろうし」
「マクシム!」
「お前がお嬢ちゃんが心配なのはわかるがなあ、お嬢ちゃんの気持ちも考えてやれ。……家族が詐欺にあったのなら、その詐欺師を自分の手で取っ捕まえたいと思うのは、何もおかしなことじゃないだろう? お前だって、似たような思いをしたことがあるだろうが」
フリードリヒ様はマクシム様をじろりと睨んで、それからはあ、と息を吐いた。
「……少し考えさせてくれ」
「はいよ。じゃあ、お嬢ちゃんとも腹を割って話をするんだな。俺は仕事の途中だから戻る。決まったら教えてくれ」
じゃーなー、と手を振って、マクシム様が団長室から出て行った。
フリードリヒ様はそのまま黙り込んでしまったので、お邪魔だろうかとわたしが退出と腰を浮かせかけると、フリードリヒ様が顔を上げる。
「少し散歩に付き合ってくれ。……頭を冷やしたい」
日が落ちかけているとはいえ、外はまだ暑いので到底頭は冷えない気がしたが、わたしも少し歩きたい気分だった。
座っていると、そわそわして落ち着かないからだ。
今日、お茶会の席から連れ出してくれた時のように、「行こう」と手を差し出されて、わたしは反射的に彼の手を握る。
そう言えば、少し前に病院視察に行ったときにフリードリヒ様の腕をつかんでしまったときは、「私には無暗に触れるな」って言われたんだけど、もう大丈夫になったのかな?
こうして、当たり前のように手を繋がれたのを不思議に思いながら、わたしはフリードリヒ様と聖魔法騎士団の棟の裏手の庭へ向かった。
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