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ちょっと留守にしていたら家が没落していました  作者: 狭山ひびき


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聖魔法騎士団の入団試験 2

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「で、何があったわけ?」


 野菜の苗を植え終わるころには、エッケハルトとお母様が戻ってきていた。

 野菜と肉を買って、それから数個の飴も買ってもらったらしいエッケハルトがにこにこ笑っている。甘いものは久しぶりらしい。……うぅ、わたしの可愛い弟が。


 土いじりをしてお父様もわたしも服が汚れたために着替えてきて、わたしたち家族はダイニングに集まっていた。

 サロン? この家にそんな洒落たものはない。

 お母様が「お茶を入れるわ~」と言ったので待っていたら、出されたのは白湯だった。


「……お茶?」

「ティーカップに入っていたらお茶でしょ~?」


 なるほど、茶葉を買う余分なお金はなかったのね。理解した。でもねお母様、ティーカップに入っていても、白湯は所詮白湯よ。勝手に紅茶に進化したりしないの。


 先ほどわたしの手持ちのお金は渡したけど、この一年ですっかり節約が身についたお母様は茶葉なんて買わなかったらしい。それよりも食べ物を優先したのだろう。

 エッケハルトは、白湯には興味がないようで、買ってもらった飴を一つ口に入れて嬉しそうだ。


「パパも飴ちゃん食べたいな~」「パパはだ~め」と呑気にやり取りしている両親に、わたしはこめかみに手をやった。頭痛が……。


「そうそう、何があったかだったねえ」


 お父様が白湯を一口飲んで、「せめて砂糖とレモンがあればいいのにねえ」なんてこぼしつつ、事情を説明してくれる。


「ええっとね、実はパパ、投資に失敗しちゃってねえ」


 投下された言葉の爆弾にわたしは目を剥いた。


「は⁉ 投資⁉」


 ハインツェル伯爵領は目立った特産品はなかったが、困窮するほど貧乏な領地ではなかった。お父様も母も大金を欲しがるような性格ではなかったため、これまで投資なんてしたことがなかったはずだ。


「ほら、いつまでも領地だけの収益だといつか没落するかもしれないだろう? パパの友達もそれで没落しちゃったし、今はいいけどエッケハルトの代まで安全かどうかはわからないから、パパも頑張ってみようと思ったんだよね」

「……そして、失敗したのね」

「うんそうなんだよね~!」


 あはは~と笑っているが笑いごとではなかった。

 だが、投資に失敗したのはわかるが、どうして邸を二つとも手放す羽目になっているのだろう。


 ……というか、投資に回すほどの貯蓄ってうちにあったかしら?


 あやしい……。

 これはまだ何かありそうだなと思ってじとーっとお父様を見つめていると、うっと言葉に詰まったお父様がぼそぼそと付け加えた。指をもじもじしているけど全然可愛くないからね。


「ええっと、投資しようと決めたんだけど、投資に回すだけの蓄えがなかったからね、アンデルス伯爵家にね、借りたんだよね。ヨアヒム君が貸してあげるって言ってくれたから。だけど失敗してお金が無くなっただろう? 返せなくなったから、邸と領地を取り上げられちゃって……」

「ちょ、ちょっと待って‼ 邸だけじゃなくて領地まで取り上げられたの⁉」

「しゃ、借金する時の担保ってやつでね……。あっ、でも、借金を完済したら返してくれるって言ってたよ‼」


 ……毎日ふかし芋で、茶葉も買えないような状況だったのに、借金を完済する目途が立っているとは思えないけど?


 借金を返したら戻って来ると能天気なことを言っているが、返す目途も経っていなければ方法もないのにどうして能天気でいられるのだろう。


 ……もう信じられない、この昼行燈‼


 とうとう両手で頭を抱えると、お父様はちょっと言いにくそうに、「でね~」と続けた。


「領地はね、借金を完済したら返してもらえるんだけど、その、マルガレーテとヨアヒム君の婚約がね、今回の件で白紙に戻っちゃって……」

「ああそんなことは今はどうでもいいわ」


 貴族令嬢として、婚約が破談になるのは問題と言えば問題だが、ヨアヒムよりもこの状況の方が何倍も深刻だ。というかヨアヒムのことは別に好きでなかったのでショックも何も受けていない。住む場所も領地も取り上げられた伯爵令嬢をもらってくれる物好きなんて、そもそもいやしないだろうし、この際破談の傷なんて些細なものだ。


 ……ああでも、エッケハルトのために何とかしないと!


 両親はのほほんとしているから危機感ゼロだが、このままだとエッケハルトが苦労をしょい込むことになる。

 考えなしのお父様はそのうち領地を取り戻せるつもりでいるのかもしれないが、はっきり言おう。今のままだったら千年かかっても無理である。


「ちなみに借金っていかほど……?」

「えっと、金貨一万枚?」


 ……つまり十億円ですね‼


 この馬鹿父‼ と怒鳴りたくなるのをぐっと我慢する。

 とんでもないことをしでかしてくれたお父様だが、エッケハルトのために父親らしいことをしようとがんばったのだ。空回りどころかそれ以下だが、その気持ちは汲んでやらねばなるまい。


 ……しかし、金貨一万枚の完済か。領地からの収入なしで、どうやって返せと?


 借金を返済したら領地を返してくれると言っているが、わたしからすればどうあっても返す気はないように思えるけど。

 いやでも、領地を奪われたままではいられない。何とかして返済しなくては。

 わたしはキッとお父様を睨んだ。


「お父様、借金返済のためには、お金を稼がなくてはダメなのよ」

「私もそう思ったんだけどね~」

「パパってば商売の才能がないのよ~。逆に損をしちゃったから、もうやめたら~って言ったの」


 ……なるほど、すでに挑戦して損を出したと。


 お母様のドレスは宝飾品などもあったはずだから、いくら借金を作って領地と邸を没収されたからと言っても、一年でこんなに困窮しているのはおかしいと思っていたけど、どうやらそう言うことですか。商売に失敗して、それらを売ったお金まで消し飛ばしちゃったんですね。

 でも、お金を稼がないことにははじまらない。

 わたしは来月の聖魔法騎士団の入団試験を受けるけど、その給料だけじゃあ金貨一万枚を返済するのは到底不可能だ。


 ……くぅ! こんなことなら、前世で異世界転生物の小説や漫画を読み漁っておけばよかった!


 友達に勧められて、一部が無料で読める電子書籍サイトで少しは読んだけど、主人公たちは異世界で生き抜くために何をしていたっけ?

 必死になって遠い昔のことのように思える前世の記憶を手繰ったわたしは、ハッとした。


 ……そうだ! 前世にあったものを異世界にあるもので再現して売りさばいて大儲けする物語があったわ!


 これだ、とわたしは拳を握り締める。

 そして、宣言した。


「お父様、わたしがアイディアグッズの案を出すから、みんなでそれを作って! そして、頑張ってお金を稼いで領地を取り戻すわよ!」


 わたしは入団試験に合格して聖魔法騎士団に入団する予定なのでずっとはついていられないが、王都にいれば休みの日には帰って来られる。

 何とかお金儲けの手段を見つけなくてはと言ったわたしに、父たちは首をひねった。


「あいでぃあぐっずって、何だい?」


 ……確かにこの世界にそんな単語はなかったわね。


 逆を言えば、主婦の知恵的なアイディアグッズは誰も作っていないと言うことよ。


 わたしはお父様たちに「アイディアグッズ」を説明しながら、最初は元手がかからずに簡単にできるものがいいわよねと、考えを巡らせた。




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挿絵(By みてみん)

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