王妃のお茶会とフリードリヒの元妻の噂 4
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書類仕事をしていたフリードリヒは、時計を確認すると、急いで聖魔法騎士団の制服を脱ぎ去った。
茶会に顔を出してすぐに帰るとはいえ、制服姿のままで向かうのは礼儀に反すると思ったからだ。
団長室の中にある小さなクローゼットを開けたフリードリヒは、今日のために持って来ていた藍色のシャツを手に取った。
(……ドレスを贈ったんだから、色をあわせるのは礼儀だしな)
この藍色のシャツは、マルガレーテに贈ったドレスと同じ色だ。
マルガレーテの採寸を終えた後でやってきた仕立て屋に色を訊かれて、つい、「藍色」と自分の瞳と同じ色を答えていた。
マクシムが知ったら、独占欲かと揶揄われそうだ。
(くそ、あいつが余計なことを言うからだ)
マクシムとバーで話してからというもの、妙にマルガレーテを意識して困る。
マクシムのいう通り、マルガレーテには何の嫌悪感も抱かないし、好ましくさえ思うけれど、いい年をして自分の瞳と同じ色のドレスを贈るなんてどうかしている。
いい加減再婚しろと周囲からせっつかれているのも確かで、マルガレーテのことは悪くないと思っているけれど、王妃の茶会にかこつけてドレスを贈るのはさすがにやりすぎただろうか。
年齢を重ねるとどうしてもそれだけ老獪になってしまって、相手の気持ちを確かめるように、回りくどいことばかりしてしまう。
「のんびりしていたら茶会が終わるな」
フリードリヒはシャツの上に濃い灰色のジャケットを羽織って、急いで第一聖魔法騎士団の棟を出た。
今日は暑いので、茶会は外ではなくティーサロンで行われている。
サロンに入ると、義姉がいち早く気づいて顔を上げた。
マルガレーテが振り返り、ホッとしたように笑う。
(……あの様子だと、困らされていたようだな)
フリードリヒを見て、安堵の表情を浮かべるマルガレーテは悪くない。顔を見て安心するくらいには、フリードリヒはマルガレーテの中で信頼を得ているのだろう。
フリードリヒはまっすぐにマルガレーテのいる王妃のテーブルに近づいていくと、挨拶をした後でマルガレーテの肩に手を置いた。
「茶会もそろそろ終わりでしょう。彼女を借りていきますよ。仕事で確認したいことがあるので」
「そう言って、もう戻ってこないつもりなんでしょう? フリードリヒ様はいつもそう。少しくらい、おしゃべりに付き合ってくださってもいいのではなくて?」
王妃が拗ねたように言うが、フリードリヒは作ったような笑顔でさらりとかわす。
「機会があれば。行くぞ、マルガレーテ」
エスコートをするために手を差し出すと、マルガレーテが一瞬だけ躊躇って、そっと小さな手をフリードリヒの手のひらに重ねた。
(そう言えば、手を繋ぐのははじめてか……)
きゅっと握ると、マルガレーテの小さな手は、フリードリヒの手のひらの中にすっぽりと納まる。
女性が信用できなくなってから、こうして女性と触れ合うのは苦手になっていた。
どうしても嫌悪感が先に来て、触れられたくないと思ってしまうのだ。
それがどうしてか、マルガレーテには嫌悪感を抱かない。
サロンを出て、第一聖魔法騎士団の棟に到着すると、フリードリヒはそのまま彼女を連れて団長室へ向かった。
「気を張って疲れただろう。少し休んでいきなさい」
マルガレーテにソファを勧めて、フリードリヒはメイドに二人分のお茶を持ってくるように頼んだ。
マルガレーテが、ソファに背中を預けて「ふう」と息を吐いている。
「まさか王妃様と同じテーブルだとは思っていなかったので緊張しました」
「そうだろうな。義姉には私の方から注意を入れておこう。不快な思いはしなかったか?」
「あ、それは大丈夫です! すごい人ばかりに囲まれて緊張はしましたけど、わたしの家のこととかを言う人はいませんでしたし」
それはそうだろう。
招待客に対してそのような失礼な言動をする人間を、義姉が茶会に呼ぶはずがない。
(だが別の意味で好奇の視線にはさらされただろうがな)
女嫌いのフリードリヒが、よく話をしている女性聖魔法騎士。そんな噂が流れていることを、フリードリヒも知っている。
噂好きの女性たちがその話題に食いつかないはずはなく、だからこそ義姉はマルガレーテを茶会の招待したのだ。
マルガレーテが作った製品に興味を持っているのも本当だろうが、理由の大半がその噂であるのは間違いない。
王妃主催の茶会は、最近ではもっぱら、フリードリヒの後妻探しになっているのだから。
元妻ヘンリーケのような女性を二度と掴ませてなるものかと、義姉はフリードリヒの妻候補に挙げる女性を自分の目で確かめたがるようになった。
そして毎回その場にフリードリヒを呼んで感触を確かめようとするのもいつものことだ。
理由をつけて逃げ続けていたが、さすがにマルガレーテが参加するなら逃げるわけにはいかない。
かといって、最初から参加していたら、義姉に自分の中のマルガレーテへの好意に気づかれてしまっただろう。
そんなことになれば厄介なので、最後に顔を出してマルガレーテだけを回収して帰った。
(……まあ、それだけでも気づかれたような気もするが)
ミルクを落とした紅茶をちびちび飲んでいるマルガレーテを見やる。
(再婚、か……)
そろそろ本気で、考える時期が来たのかもしれない。
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