腰痛には湿布薬ですね 4
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マクシム様が帰った後で、わたしは改めて湿布薬の瓶を持って団長室を訪れた。
「なるほど、これがそうか。そっちの布に塗って使うんだな」
「はい。患部に貼り付けて使用します。怪我や病気と違って、慢性的な肩こりや腰痛は、聖魔術を使っても改善は一時的なもので時間と共に同じような症状が現れますので、それらの症状の緩和のために作りました。騎士の方々に使用したように、打撲や捻挫にも使用できます」
「ふむ……」
フリードリヒ様は湿布薬を少量手に取り、手の甲に塗って試している。
「ひんやりするな。布を使うのは何故だ?」
「塗るだけだと水分が揮発するためです。乾かすと効果が半減します」
「使用時間は一時間ほどだったな」
「はい。様子を見てもう少し長めに貼っておいても大丈夫です」
「そうか。……それで、この作成にどの程度の聖魔法を使用した?」
……来た!
ポーションを作る要領で、薬草類から成分を抽出して調合したけれど、ポーションを作るときのようにがっつり成分を抽出したわけではない。
というのも、ポーションレベルで成分を抽出してしまうと、摂取量によっては逆に人体に悪影響になってしまうのだ。ゆえに、ポーションの販売が許されているのは医療機関のみなのである。これは前世で言うところの薬と同じ扱いだ。
……湿布薬で問題になる点は、使用を間違えた時に人体に影響が出るか出ないか。
フリードリヒ様が知りたいのはそれだ。そしてそれが、一般の店での販売できるかできないかの判断材料となる。
わたしは胸の前で手を組んで、慎重に口を開いた。
「確かに聖魔術を用いて作りましたが、ポーションのように、湿布薬の乱用によって人体に影響が出るような作り方はしていません。含まれている成分も毒になるようなものは含まれていません。口にしてもいい材料のみで作っています。実際に、口にしてもらえばわかります。……美味しくはないでしょうが」
「口外しないと約束するから含まれているものを教えてくれ。私が判断する」
「はい。まずミント、それから……」
わたしは湿布薬の調合に使った薬草などの名前を一つ一つ上げていく。生成法は訊かれなかったが、伝えておいた方が信用度が増すと思って、作り方も含めてすべてを口にした。
フリードリヒ様はわかったと頷いて、そして小さく口端を持ち上げて笑った。
「理解できた。細かく説明させて悪かったな。いいだろう。販売を許可する」
「本当ですか⁉」
「ああ。……それから、許可をする代わりという言い方はおかしいかもしれないが、今から少し私に付き合ってくれ」
「それは、構いませんけど……」
女性嫌いのフリードリヒ様が、わたしを連れてどこへ行くというのだろう。
疑問に思ったが、行き先を告げないと言うことは説明したくないのだろうと思って、わたしは黙ってフリードリヒ様のあとを追った。フリードリヒ様は、何故か湿布薬の瓶と布を持っている。
……どうして湿布薬を持って行くの?
騎士団にでも向かうのだろうか。
そう思ったが、第一聖魔法騎士団の棟を出て向かった先は、騎士団の棟でもなければ訓練場でもなく、何故か城の裏口だった。
……城?
デビュタントのときや、留学の選考試験、この前の聖魔法騎士団の入団試験の筆記試験のときに来たことはあるが、それ以外では足を踏み入れたことのない場所だ。
……医務室にでも行くのかしら?
城の中にも医務室があり、そこには聖魔法騎士が数名常住している。
城の侍医のような立場で常駐する聖魔法騎士はベテランばっかりなので、新人のわたしにはまだまだ回って来るはずのない仕事のはずだ。
でも、聖魔法騎士であるわたしを連れていく場所なんて医務室くらいしか思いつかないし……と思っていると、フリードリヒ様は何故か階段をすたすたと登りはじめた。医務室は一階にあるので、行き先は医務室ではなかったようだ。
……あのぅ、この辺って、偉い方がお仕事をしている場所じゃないでしょうか?
宰相とか大臣とかの仕事部屋があるあたりのはずだ。書類を抱えた文官がせわしなく廊下を行き来しているのも見える。こんなところにわたしのような新人聖魔法騎士が来ていいのだろうかと思っていたら、フリードリヒ様はそのまま大階段があるあたりまで歩いて行き、さらにすたすたとそれを登りはじめた。
……ひっ!
さすがに、わたしは階段の下で足を止めた。
この上は、王族の部屋がある場所だ。
階段を上った先にあるのが王の謁見室で、その左右の廊下をずっと歩いて行くと王族の私室があるはずなのである。行ったことはなくても、わたしも貴族の端くれなので、万が一城で迷っても決して行ってはいけない場所として頭に叩き込んでいた。
「どうした?」
……どうした、じゃありませんからね!
階段の途中でわたしがついて来ていないのに気が付いたフリードリヒ様が振り返る。
「あ、あの、どちらに……」
「この上だ」
いやいやいや!
しれっと「この上だ」じゃないですからね‼
反射的に行きたくないと首を横に振ると、フリードリヒ様が不機嫌な顔になった。
「ついてこないならそれでもいいが、これの販売許可は下せない」
「そんな!」
話が違う!
フリードリヒ様が、見たことがないような意地悪な笑みを浮かべて、早く来いと顎をしゃくった。
……くそう! 仕方がない! 女は度胸!
緊張で足が震えそうになるが、頑張って作った湿布薬の販売許可は欲しい!
わたしは大きく深呼吸をすると、フリードリヒ様のあとを追って階段を上る。
想像通りというかなんというか、フリードリヒ様が歩みを止めたのは、国王陛下の謁見室の前だった。
……なんでわたし、国王陛下のところに連れてこられたの……?
湿布薬を販売していいというのは実は嘘で、まさか気づかないうちに何か大変な罪を犯しちゃってて、処罰するために連行されたとかじゃあ、ないよね? 怖いんだけど!







