腰痛には湿布薬ですね 3
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「マルガレーテっていうお嬢ちゃんはいるか~?」
第一聖魔法騎士団の棟の玄関で、そんな野太い大声が響いたのは、翌日の昼下がりのことだった。
ちょうど玄関近くにいた聖魔法騎士がそれを見てギョッとし、すぐさまその騎士を応接間に通してしまったために、わたしは応接間に呼びつけられて、怖い顔をしたフリードリヒ様とにこにこ顔の五十過ぎくらいのおじさん騎士に囲まれていた。
……うぅ、この状況はいったい何事?
じとっとした顔でこちらを睨んでいるフリードリヒ様が怖いです。わたし、何か悪いことをしましたか?
フリードリヒ様によると、このおじさん騎士は第一騎士団団長――すなわち、騎士団の総帥であるマクシム様らしい。
……なんでそんな偉い人がわたしを? いや待って! わたし今、騎士団と聖魔法騎士団の両総帥と一緒ですよ⁉ 恐れ多くて目が回りそうです‼
わたしが呼びつけられる前に、フリードリヒ様とマクシム様の間で情報の共有がされていたようで、フリードリヒ様が眉間にしわを刻んでこめかみを指先で叩いた。
「マルガレーテ、君は昨日、妙なものを騎士に塗布して回ったらしいな。ええっと……」
「シップヤクだ、フリードリヒ! あれはすごいらしいぞ! どこで売っているのかって騎士たちが大騒ぎをしていてな! お嬢ちゃんに情報をもらおうと思って来たんだが、お前も知らなかったのは驚きだ」
はい、わたしが睨まれている原因がわかりましたよ!
湿布薬と、それをべらべらと吹聴して回った騎士たちのせいですね! まあ、わたしが口止めしなかったのが悪いんだけど。
「マルガレーテ、そのシップヤクとはなんだ。説明しなさい」
「はい……」
やっちゃったな~やっぱり事前に報告しておくべきだったかな~と冷や汗をかきながら、わたしは湿布薬について説明する。
「……というわけで、近く売り出そうと考えているんです。ポーションじゃないから、セーフですよね?」
販売が禁止されたらわたしの苦労が水の泡になる。
両手を組んで祈るような気持ちでフリードリヒ様を見ていると、彼は「うーん」と難しそうな顔で唸った。
「難しいラインだな……」
「おいフリードリヒ、けちけちすんな! 販売くらい別にいいじゃないか! まさか禁止にしたりしないだろう? すでにうちの騎士たちは騎士団で仕入れる気満々だぞ!」
……おおっ! 早くも顧客が‼
騎士団が買ってくれるとなると、かなりの利益が見込めるはずだ。借金返済へ大きな前進が見込める。この機会は絶対に逃したくない。
「実物を見て見ないことには何とも判断できない。マルガレーテ、今日はそのシップヤクとやらを持って来ているのか?」
「あります!」
「では、あとから団長室に持ってきなさい。話はそれからだ。マクシム、結果が出るまで騎士たちを大人しくさせておけ」
「いや無理だって。何が何でも手に入れて来いって送り出されたんだぜ?」
「お前は総帥だろう!」
「そう言うお前も総帥なんだから総帥権限でちゃちゃっと販売許可出せよ!」
「検証が先だ!」
「ちっ、相変わらず頭の固い男だぜ。……なあお嬢ちゃん~。これ、お嬢ちゃんが作ったものなんだろ? 余分はないのか?」
「おい!」
「俺が個人的に買うくらいはいいだろう?」
「ポーションと同等扱いになるなら無理だ」
「まだ判断前だろうが。せめて一個か二個くらい持って帰っておかないと俺の面子が潰れるんだよ!」
「潰れるような面子があったのか……」
「なんか言ったか⁉」
……ええっと、これはどちらの味方に付けばいいのだろうか。
買ってくれるというマクシム様の味方に付きたいところだが、かといってフリードリヒ様を怒らせたくもない。
「あの、団長……」
弱り果ててフリードリヒ様を見つめると、彼はがしがしと頭をかいて、「仕方ない」と息を吐き出した。
「マルガレーテ、そのシップヤクとやらは今どのくらい手元にある?」
「三つ持って来ています!」
「では二つほど渡してやれ。……こうなれば受け取るまで帰るまい」
「さっすがフリードリヒ、よくわかってるな!」
湿布薬が手に入ると知ったマクシム様はご機嫌で笑っている。
わたしが急いで湿布薬を持ってくると、マクシム様はポケットをごそごそして金貨を二枚取り出した。
「とりあえず手持ちがこれしかねーや。これでたりるか?」
……え⁉ いやいや多すぎだから‼
湿布薬二個で金貨二枚。つまり一個で金貨一枚。いくらなんでもぼったくりもいいところである。
「いえ――」
「マルガレーテ、受け取っておけ。先行販売の特別価格という扱いでいいだろう。販売許可が下りるかどうかまだわからないんだ、もらえるうちにもらっておいて損はない。こいつは五十を過ぎてもまだ独身で、部下に酒をおごるくらいしか金の使い道がないから溜まる一方だ」
「お前も独身だからな⁉」
「私はまだ二十代だ」
「ギリだろ!」
「それに結婚なら一度した」
「なにそれ優越感に浸ってるつもりか⁉ 一緒だからな! 現在進行形で独身なんだから一緒だからな⁉」
「優越感に浸れるような思い出はないがな。……まあいい、それを持ってとっとと帰れ。お前は声が大きいから頭に響く」
「あーそうかい。ったく、昔っから生意気な男だぜ」
マクシム様は口を曲げて、大きな手で湿布薬の瓶を二つまとめて持つと「邪魔したな」と言いながら応接間を出ようとして、思い出したように振り返った。
「おいフリードリヒ、販売許可を下ろしたらすぐに俺んとこに連絡入れろよ! いいな?」
これは、本当にお得意様になってくれそうである。
……販売許可、下りますように~!







