いきなり騎士団長直属の団に入団が決まりました 3
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そんなわたしの心の中の悲鳴などミヒャエラさんに聞こえるはずもなく、わたしは棟の三階にある団長室へ案内された。
すーはーすーはーと深呼吸を繰り返すわたしを置き去りに、ミヒャエラさんはさっさと団長室の扉をノックしてしまう。
「団長、入りますよ~」
ディートリヒ様は王弟殿下で公爵閣下だが、仕事のときは「団長」と呼びかけるのが基本だそうだ。馴れ馴れしい気がして恐れ多いが、仕事は仕事で切り替えるべきだという。
中から静かな声で返事があったので、ミヒャエラさんが扉を開ける。
ディートリヒ様はライティングデスクで書き物をしていたようだ。扉が開くと顔を上げ、藍色の瞳をじっとこちらに向けて来る。
「新人団員のマルガレーテ・ハインツェルを連れてまいりました」
「マルガレーテ・ハインツェルですっ! どっ、どうぞよろしくお願いいたします‼」
ぴしっと背筋を正して挨拶をすると、「ああ」と短く返事をしたディートリヒ様が立ち上がり、ライティングデスクを回り込んでこちらに歩いてくる。
……うわあ! 試験のときも思ったけど、カッコイイッ‼
無表情だが、クールな感じがしてそれがまたいい‼
「座りなさい。君には訊きたいことがある」
ソファ席を勧められたので、わたしはミヒャエラさんと一緒に腰を下ろした。
ディートリヒ様が対面に座って足と腕を組む。その様子が、滅茶苦茶様になっていて、わたしは危うくポーッとなるところだった。
「君は実技試験のときに、呼吸が苦しそうだった患者に聖魔法を使った後で、ポーションを二本渡したな。一本はその場で飲むように言い、もう一本は次の日に飲むように言った。あのポーションは、今所持しているか?」
聖魔法騎士は常にポーションを携帯しておくことを義務付けられている。
わたしは制服の腰にとりつけてあるポシェットから、件のポーションを出した。
「はい。これです」
「確認しても?」
「もちろんです」
わたしがローテーブルの上にポーションを置くと、ディートリヒ様がそれを手に取り光にかざし、そして蓋を開けた。
小指につけて軽く舐め、それからポーションに軽く魔力を通す。
「体力回復の効果は付与されていない。傷薬でもないな。正直言って、私には何の効果もなさそうに思える。これは一体何に効くポーションだ」
「患者さんに説明した通り、病菌の卵を死滅させる薬です。あの患者さんは肺炎に侵されていました。肺炎のウイルス……ええっと、病気にかかっていたので、体に残ったその病気の卵を死滅させるために渡しました。聖魔法を全身にかければこのポーションは不要ですが、できるだけ多くの患者さんを治そうと考えた結果、ポーションに頼れるところはポーションに頼りました」
「……なるほど?」
なるほど、とは言ったが、ディートリヒ様はきつく眉を寄せている。
「言いたいことはわかった気がするが、正直理解が及ばない。君がしたような治療の仕方を私は知らないし今まで見たことがなかったからな。それは、コーフェルト聖国で学んだことか?」
コーフェルト聖国のせいにすれば納得してくれる気はするが、なんとなく、ディートリヒ様は裏を取りそうな気がするので嘘はつかない方がいい気がした。
なので、正直に答える。
「いえ、これはわたしが独自に編み出した方法です」
前世の知識を応用して、だけどね。抗生物質やワクチンになりそうなポーションを編み出したんだ~。この世界には魔法があるから、前世よりもその手のものを作るのは簡単なんだよね。研究も臨床も不要だし。
ディートリヒ様は組んでいた腕を解いて、とんとんとこめかみを叩いた。
「君が編み出した方法、か。つまりこのポーションも、君が編み出したものということだな」
「そうです」
「……そうか」
ディートリヒ様は何やら考えている様子である。
しばらく黙り込んだようだが、何か言われるわけでもなく、やがて「わかった」と一言答えると、部屋を出て行っていいと許可が下りた。
だが、ふと何かを思い出したように、わたしたちが部屋を出る前に声をかける。
「ミヒャエラ。来週の慰問だが、私は行かないつもりだったが気が変わった。私も行く。調整しておいてくれ」
ミヒャエラさんは驚いたように目をぱちぱちさせて、それから小さく笑うと、「かしこまりました」と頷いた。







