成れの果て
月之丞の顔から、さっと血の気が引いた。
薄い唇が引き攣れて、亀裂のような微笑が浮かぶ。
「……お断り、か。そう言うと思ったよ。お前が俺を……嫌っていることは、お前に言われるまでもなく、知っていた」
月之丞は淡々と言った。それが怒りなのか、悲しみなのか、あるいはそのどちらでもないのか。承平には判別できなかった。
ただ「おれを嫌わないで」と訴える辰の幼い声が、記憶の奥で木霊する。
――あたしが、辰を嫌えるもんか
喉元に迫り上がった想いは、言葉になり損ねて潰えた。
嫌いになれない。それでも、もう信じられない。
承平は強く頭を振った。
「当たり前だろ! 嫌がるあたしを和尚の前に引き摺り出して、乱取りみたいに、無理やり……何度も、何度も……あんな、酷いことを……!」
胸の奥で膿み続けていた痛みが、堰を切ったようにあふれ出す。
月之丞に連れられ、初めて住職の褥に供された夜。必死の抵抗も虚しく組敷かれて、犯されて。
それを見て興奮した住職が月之丞にのしかかり、彼を犯すのを、なすすべもなくただ、見せつけられて。
わけもわからぬまま「お務め」を終え、月之丞に背負われ住職の御座所を出た。
僧房へ向かう途中、泣きじゃくりながら、赤子ができたらどうすると詰ると、月之丞は含み笑い、言った。
――「お前はまだ子を孕める身体ではないから、その心配は要らない」
あの時、月之丞が何を考えていたのか。
知りたくないし、理解したくもなかった。
月之丞は承平を使い潰そうとしている。子を孕めば寺に置けなくなり、厄介払いされる。そう、思い込んでいた。
だが、そうではなかったのだろうか。
月之丞の言葉に嘘がないのだとしたら、月之丞は承平に執心している、ということになる。
それが、幼馴染としての情に由来するのなら、幾許かの救いがあった。
だが、そうではない。
月之丞は、辰助に乳を含ませあやす姿を見て、承平を欲したのだ。
その理由として、欲望の以外の何があるだろう。
月之丞は衒いなく「俺の子を産んでほしい」と言った。出産は女にとって、命懸けの大事であると、知らぬはずがない。
女の大事を、己の欲のままに望むのならば。
その執着は、悍ましい欲望の成れの果てだ。
承平の心は軋み、悲鳴を上げた。
「お前の子を身籠るなんて、嫌に決まってる!」
承平は叫んだ。
怒号ではなく、毟られる心の悲鳴だった。
「お前、おかしいよ……どんどん、おかしくなっていく。
なんで? あたし達は本当の姉弟みたいに想い合っていたじゃないか。それなのに、なんで?」
切々と訴える声に涙が滲み、次第に細く掠れていく。
「……嫌だ……こんなの、もう嫌だ。なんで、なんでだよ……辰」
蚊の鳴くような声は、月之丞の耳に届いたようだ。月之丞の瞳が明らかに揺らいだ。
「……そうか」
月之丞は言った。その声は震えていた。
「そう、だろうな」




