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宇宙記者ギャノンOZ3

作者: 花塩樹圭

 2025夏のアニメシーンは何だかおっさんブームだったとか。おっさん主人公…アリなんだ、それ。え? それじゃブームには全力で乗っかっちゃうよ⁈

 現在走っている『宇宙記者ギャノンシリーズ』、主人公である風音タケシ19歳をググーンと年齢上げてみてはどうよ? (妄想中) あれ…? なんか面白い…マズい、本命シリーズのタケシよりもキャラがギンギンに勃、もとい立っちゃう、イヤン、ステキ♡

 ってなわけで、プロット作成にひと月弱、本文下書き2日、修正訂正に2日ほどかけて一気に書き上げてみました。短編で出して読者の出方をみる! それではタケシおっさんバージョンのOZ3。お楽しみください。

 某日22:48。


パタタッ パタタッ  パタタッ

 カッ パシッ カッ パァン


 3階建の小さなビル、その2階の破れた窓に黒い人影が見えるや銃弾の雨を降らせる。それらは、あるいはパトカーのドアに突き刺さり、あるいはアスファルトに当たり跳ね返り、あるいはパトカーのガラス窓を砕いた。

「退避ーッ! 退けーッ!」

「機動隊前へ!」

「林さん後退ッ! 下がってくださいッ!」

「分かってるよッ!」

 横浜市郊外の、とある産婦人科病院。一一〇番へこの病院の番号で掛けられてきた電話は、この病院の者ではない男の声。彼は自らをテロリストと称した。

「林さん! 今のあれ、MP7です!」

「またかよ⁈ どんだけ出回ってんだ⁉︎ そんな易々と手に入るもんだったか?」

「そんなわけが。あちこちの特殊部隊(SAT)に入ってますが漏れ出すほどの予算、ウチのお上は付けませんからねぇ。おそらく外からの密輸でしょう」

「そんなとこだろうな。さてどうするか…」

「射程距離は短いですが貫通性高いっすからねぇ。県警(うち)のボディアーマーくらいじゃ余裕で貫通、迂闊には近寄れないっす」

「さすが武器オタの曽我、詳しいな」

「それ、褒めてますか?」

「褒めてるよ! しかし…」

 県警の林は焦っていた。銃の所持はテロリスト側が一報目の通告で宣言していた。ただそれらは拳銃、ならば通常の装備で賄えると判断されたのだが、現実は想定を上回った。

(射程距離外に囮で出て弾を使わせるか? いや、残弾が減って追い詰められれば過激な行動に出る可能性がある。しかし人質に妊婦がいるとありゃ長期戦は難しい。かと言って踏み込む訳にも…どうする…?)



 ここで病院内部の状況をお知らせしよう。

 この病院は3階建て。1階は外来の診察室となっているのでこの時間帯では無人だ。2階は出産を控え宿泊する妊婦の個室が3部屋に夜勤看護師の当直室と分娩室、3階は院長一家の住まいとなっている。

 賊は侵入後二手に分かれ、2階の個室と当直室それぞれをこじ開け妊婦と看護師を中央フロアに集めた。3階担当は院長の老夫婦を縛り上げ(子供はすでに独立しているので不在)、2階フロアへ連行した。フロアに集められた人質は計6名。いずれも猿轡を咬まされ後ろ手に縛られている。

 目出し帽で素顔を隠した5名の賊は、スエットやジャージなど私物と思われる黒い衣類。その上に、着こまれた感のある衣類とは対照的な、まだポケットの潰れとたたみジワが残るオリーブドラブのタクティカルジャケットを羽織る。2階に人質の見張りで2名、分娩室に2名。3階に1名が残り、外の様子を監視していた。



 全館照明を落とされ真っ暗な中、破った分娩室の非常用窓から外の様子を伺う者が1人。

「おいセブン。また一一〇番掛けて、そこのヤツらに繋ぐよう言え」

「オッス、キングさん」

 キングと呼ばれた男、本名「石橋明人(あきひと)」35歳。特殊詐欺グループの新興勢力「ハイパーQ」の首謀者だ。

 まだ警戒が甘かった頃の「オレオレ詐欺」でひと財産を稼ぎ、それを資金にヤミ金を始める。主な貸付先は若者で、支払いの滞った者を言葉巧みにグループへ引き入れ、特殊詐欺で更なる「稼ぎ」を得ていた。次の一件を終えたら東南アジア方面へ高飛びする予定だったのだが、受け子が逮捕されてしまった。石橋はハイパーQのメンバーの主要者を使いこの産婦人科医院を占拠し、逮捕者の釈放を要求している。警察側からは「時間をくれ」と要望され、今に至るが…

「キングさん、繋がりました」

「よこせ。おう。オメェは誰だ」

〈県警捜査一課の林だ〉

「林さんよぉ、いつまで待たせんだよ。さっさと北斗をここに連れてこい!」

〈そんなに簡単に行くものか。こちらにも司法手続きってもんがある〉

「こっちはオメェらの都合なんか知ったこっちゃねぇんだよ、さっさとしろ! モタモタ時間稼ぐってなら、いいぜぇ。ここにいる、腹がパンパンに膨らんだヤツから順に、コイツをそのドテっ腹にブチ込んでやる」

〈分かった。落ち着いてくれ。現在司法各所に釈放の手続きを要請している。時刻が時刻だけにあっちも人手が少なくて手続きが難航しているんだ、そこは分かって欲しい〉

「チッ、そうかよ。で? どのくらいだ?」

〈30分。30分後には答えを出す〉

(おっせ)ぇな…チッ。まぁいい、待ってやんよ。だが必ずだ。30分後、ここへ北斗を連れて来れなかったときにゃ、1人ずつブチ込んで、その後で病院丸ごと吹き飛ばす!」

〈…ッ⁈ 分かった。約束しよう〉

「チッ。クソが」



「林さん、30分では」

「分かってるよ! だがアチラさんも焦ってんだろう、下手に長引かせりゃ何をしでかすか分からん。とにかく、30分以内にケリをつける。で、北斗ってのは偽名なんだろ?」

「はい。自称「北斗夕子」。本名は立川(むうん)。先日「受け子」で逮捕した女です」

「ふむ…さしずめ今の電話の男の「女」だろうな」

「そうなんですか?」

「まぁ刑事(デカ)としてのカンだが、受け子なんざ普通切り捨てるだろ、捕まりゃ。だがそれを無理してでも回収しようとしている。だから、ってことさ」

「なるほど。立川の自供によると彼女は以前シューニャデーバにいたそうです」

「シューニャデーバ? 新興カルトの?」

「はい」

「よく出て来れたな…そっち方面で背景(ウラ)があるのか?」

「今のところの取り調べでは、まだ」

「そうか…ウラがあるとなると厄介だな…せめて中の状況でも分りゃいいんだがなぁ…」

 林が独り言のようにボヤいた時。

ザッ 《しりたい?》

「…ん?」

 何か…声が聞こえた。小さな、少女の声。

「曽我、なんか言ったか?」

「え? いえ、別に何も」

「そうか…」

(空耳、か?)

 警察無線の中に混じった、しかしそれにしてはハッキリとした声。

ザザッ 《でもおじちゃんたちはそこにいればへーき》

「ん⁈」

 また聞こえた。周囲を見回すと、目が合った者が数人。

「なんですか、今の」

 曽我が神妙な面持ちで林を見る。

「聞こえたか?」

「ええ。そこにいれば、と」

「俺にも聞こえた…無線の混信か?」

 林はもう一度周囲を見回す。目に入ったのは破れた2階の窓を見つめる警官隊と規制線の外に群がる群衆。それだけだった。



 石橋はタクティカルジャケットの胸ポケットからスマホを取り出し、3階の仲間へと電話を掛ける。

「…タロウ、外の様子はどうだ?」

〈特に変わりは〉

「そうか。チッ、ヤツらヤル気あんのか…? そのまま見張ってろ」

〈オッス、キンガアァッ⁈〉

 呻き声と同時にガタンと大きな衝撃音。電話を硬い床にでも落とした時のような。

「何だ? どうしたタロウ⁈ …切れた…オイッ、セブン、ちと上の階見に行ってこい。タロウの様子がおかしい」

「オッス、キングさん」

 石橋と共にいた1人が分娩室を出る。開け放たれたドアから、無遠慮に土足のまま上がり込んだスニーカーで階段を登る音、それがタッタッタといくつか聞こえた直後。

「な、ドワァァァァ⁉︎」

 叫び声と同時にゴロゴロと70kgほどの肉塊が転げ落ちる音。次いで

「なんだコイグワッ⁉︎」

 3点バーストの銃声は叫ぶ声と共に止み、

「な、何だぁ、コイツはぁ? クッ、こっちへ来いッ!」

 フロアの見張りが人質の妊婦1人を連れ、慌てた様子で分娩室へ駆け込んできた。

「どうしたッ⁈ 何があったッ⁈」

 石橋の問いに

「な、なんか変なヤツが!」

 要領を得ぬ答え。だがその彼が指し示した方向、ドア口に、石橋の目は得体の知れぬ「何か」の姿を認めた。

 それはヒトのカタチをしている。しかし、薄暗がりわずかにかかる逆光の明かりで確認できるのは、表面が緑色の金属的光沢に包まれた異形の姿。

 その異形がコトバを発する。

「やーれやれ。さてもクズでセコい話よなぁ。無力な女性だけじゃなく、産まれてもない命まで人質にするったぁよぉ」

 左手に1人、右手に2人。黒い衣類のテロリストたちが襟を掴まれズルズルと引き摺られてきた。

何者(ナニモン)だ、オメェ!」

 石橋は威嚇を込めた大声を張り上げるが、その中には未知なるモノを見る恐怖が含まれた。

「オレかい? しがないフリーのライターさ。こうしてアンタらのようなクズどもの悪事を暴いて、おまんまのタネを稼いでるってことよ」

「ライター…記者、だと?」

「ああ、そうさ。せっかくだ、憶えとけ。地獄でその名を思い出せ。オレの名は」

 異形は両手にあった「荷物」を、石橋の前にいとも軽くポイっと放り投げた。それらはまだ生きてはいるのだろう、モゾモゾと動くがよほど手厳しくやられたか、動けずに山積みとなった。

「宇宙記者ギャノン」

「意味分かんねェよッ!」

 石橋は緑の異形ことギャノンを名乗る者へ向け鉛玉を放つ。パタタッと3点バーストを6回繰り返し、残り2発を放ったところでカキンと音を立て止まる。立ち込める硝煙。その先に…ギャノンは先ほどと同じく立ったままだった。

「な…なんだァ…コイツぁ…」

「残念だな。ソイツは効かねぇんだ」

 ギャノンの足元には平たくひしゃげた鉛玉がボロボロと転がっていた。

「て、テメェッ! コイツがどうなってもイイってのかよッ!」

 己のボスのピンチを悟ったか、子分は人質として連れてきた女性の首を腕で締め上げ、臨月近く大らかに丸みを帯びた腹へ銃口を向ける。

「良かねぇよ。なぁ。銃ってのはセイフティ外さねぇと撃てねぇって知ってるか?」

「え?」

 子分がセイフティのレバーを確認するのに視線を外した、ごく僅かな刹那。


ボゴォ


「ゴ ア 」

 ギャノンの姿が消えると同時にテロリストは顔面にMP7をめり込ませて吹き飛び、壁に叩きつけられた。そのフィニッシュ姿勢から察するに蹴りを入れたのだろうが、その瞬間が見えた者はいない。

「おお。良いコースに飛んだぜ。折れた前歯と鼻の骨は駄賃だ。取っときな」

 そして自由を得た女性の傍に跪き

「近未来のママさん、大丈夫かい?」

 いたわりの言葉をかけると

「すまんが声を出されるとやりにくくなっちまうんでまだ猿轡(ソイツ)を外せないんだが、ともかくそっちのロビーへ避難してくれるか?」

 女性はコクコクと頷き、差し伸べられた手を取り立ち上がると速やかに分娩室を後にした。

「よし、いいコだ。しかし無知ってぇのは罪だねぇ。使い慣れねぇオモチャなんかで遊んでるからオイタするんだぜぇ?」

 ギャノンは女性を見送ると石橋に向き直った。

(よお、プロティ。ホントにこれで全部なんだろうなぁ?)

《あー、タケシちゃんっててばプロティちゃんのゆーことしんじないのー?》

(そうじゃねェ、1人でも残せばこの星の未来を宿したご婦人方の命が危なくなるんだ、そこは慎重じゃねぇとな)

《なるほどどー。そこはしんよーしなさいって、プロティちゃんをささー》

(わかったよ。で、コイツ、今かっぱらった以外にはヤベェモン持ってないのか?)

《「みえるもの」はないんだけどどー、おじちゃんのひだりてあやしー。()()、もってるるかもよー》

(なるほどな。まだ切り札はあるってことかい)

《そゆゆことー》

(了解だ。それなら…)

「で? どうするつもりだい?」

 目の前に立ち尽くす石橋へ問いかける。

「どうもこうもねェッ! ここを爆破してやるッ!」

「コイツを使ってか?」

 ギャノンの右手にはどこから取り出したか、30cm程の長さの鉄パイプ、その両端を塞いだようなものが、手のひらの上でポンポン跳ねている。

「何ッ⁈」

 石橋は(ひる)み、自分の尻のポケットを(まさぐ)る。果たしてそこにあったはずのものは無く、それは目の前の者が持っていた。

「いつの間に…」

「アンタ、爆破とか言ってんが、そりゃ(ハッタリ)だろ? こんな程度の爆薬でこの建物を吹っ飛ばすなんざ不可能だ。そしてコイツ以外に爆発物は存在しない。どこにも仕掛けちゃいない脅し(ブラフ)なんだが、ちと違う。コイツの中身、当ててやろうか? エンプティヘブン。この頃流行(はやり)の麻薬ってヤツだ。コイツをブン撒いて自分だけトンズラするつもりだったろ。子分ドモを見捨ててよ」

 どうやらそれは図星だったようで石橋は歯を噛み締め睨みつける。

「ま、コイツはあちらさんに預かってもらうとして、だ」

 ギャノンはダンッと床を踏み付けると床にはポッカリ黒い穴が口を開ける。その中へ鉄パイプ爆弾を落とすとそれは黒い闇の中に消え、穴は口を閉じた。



カラン


 警察が注視して見守る最中、それは突如として空中に現れ、地に落ちた。

 機動隊が迅速に向かい、それが何物なのかを確かめた。

「これは…林警部! 鉄パイプ爆弾と思われます!」

「何だとッ⁈ 爆発物処理班!」

 もしものためにと随伴していた爆発物処理班によりそれは速やかに撤去された。が。

「何だってそんなもんが突然空から降ってくるんだよ⁈」

 林ならずとも誰もが疑問を(いだ)く。



「そればかりじゃねェ。釈放を要求しているヤツ、アンタの女だろ。ヘブンをブン撒いてトンズラするついでに彼女とラブラブ逃避行と洒落込むつもりだった」

「適当なことを言うな!」

「いいこと教えてやろう。あの女、北斗南は本名を立川(むうん)と言う。ついこないだまでシューニャデーバってぇカルトにいたんだが、アンタ、知ってたか?」

「な、なんだと…」

「ヘブンは立川から手に入れたんだろうが、それだけじゃねぇぞ、その女。気高き薔薇の会(ノブリス・ロズィス)ってぇフェミニスト集団に所属している。ヤツら、男と見りゃ噛みついてくる過激派レズビアン集団だ、オレたちの股の間にブラ下がってるモンにゃ興味がねぇ。アンタは付き合ってるつもりだろうが、アッチはいつでも裏切るつもりさ。手も繋がせてもらえないたぁ哀れだねぇ」

「な、なんでそこまで知ってるんだ…」

「あ? あ、ああ、地道な取材の成果、ってヤツだよ」

《あー、タケシちゃんずるーい! プロティちゃんのおてがら、よこどりしてるるー!》

(あー、うるさい、ちと黙っとけ。後でドーナッツ買ってってやるから)

《わーい、ドーナッツー! プロティちゃん、ドーナッツだいすきー! なにににしよっかなー、シュガーレイズドとー、オールドファッションとー、フレンチクルーラーとー》

(メニュー決めるの後にしてくれねぇかな。ちとこのおじちゃんと「話」つけなきゃなんねぇからよ)

《そうだったー! じゃぁさっさとばーんどかーんってやっちゃっちゃってー》

(言われなくてもな!)

「で? どうすんだ? マイッタすんのか?」

「クソォォォッ! ナめやがってッ! 吠え面かかせてやるッ! パゾル!」

 石橋は左手首に巻かれたシリコンバンドのようなモノを右手で掴み、引っ張った。その軌道に光の(カーテン)が生まれ、石橋を包み込む。光が消えた時、ギャノンとよく似た、しかし光も闇も吸い込む程に真っ黒のヒト型が立っていた。

「やっぱり。持ってやがったか、アンザグ!」

「コイツは使いたくなかったんだがな。殺人は罪が重いっていうからよ。だがもう遅いッ!」

 黒いヒト型は闇に紛れダッとギャノンへ駆け寄り右ストレート、それは空気を切り裂きブンッと音を立てるが虚しく空を切る。

「コイツ⁉︎」

「鉛玉を人に向けといて人殺しの罪を怖がるたぁギャグとしちゃレベル低いぜぇ?」

「な…クソォッ!」

 右、左、蹴り。アンザグを纏う石橋の猛攻。しかしあるいは躱され、あるいは受けられ、1発たりとも有効な攻撃は入らない。


ガシッ


 ギャノンは石橋渾身の右ストレートを手で受け止めた。石橋は腕を引いて抜こうとするがガッチリ掴まれ引き戻せない。そればかりか

「そろそろ反撃、いいか?」

「ア? ガァッ⁈」

 掴んだ右拳を引き寄せると顔面へ1発頭突き。石橋は吹き飛び壁に叩きつけられた。

「オレはお仕事中なんでな、少々質問に答えてもらうぜ。『取材』ってヤツさ」

 ギャノンは石橋の顔を掴み吊り上げる。

「グ あ 」

「デギールを知っているか?」

「な、なんだそりゃ」

「ふむ…石廊崎事件は知っているか?」

「知らねぇよ!」

「ウソはイカンぜ?」

「ホントだ! 俺は知らねェ!」

「そうかよ。最後の質問だ。ヘカテイアの鍵とは?」

「ワケわかんねぇことばかり聞きやがる! 知らねェよ! 全部知らねェよ!」

「そうか。残念だな」

「早く! 早く降ろせ!」

「苦しいのか?」

「当たり前だろッ!」

妊婦(彼女)たちを散々苦しめたのに、か?」

「そんなん知ったこっちゃねェ!」

「やれやれ…」

 ギャノンが手を緩めると石橋の足裏は地の上に戻った。

「ガハッ ガハゲハッ 」

「反省してないようならおしおきが必要だな。ギャノンブレイド!」

 ギャノンの右拳の中から赤い光刃(こうじん)が現れた。

「武器ィッ⁈ 卑怯だぞ! 丸腰の相手に卑怯だぞ!」

「テロリストとやらのアンタがそれ言うのかよッ! ギャノンブレイカーッ!」

 赤い刃は青へと色を変え、闇の中で煌々と輝く。

「トゥー!」

 暗闇に一筋走る青い閃光。袈裟斬りに振り込まれたそれは石橋の肩口を捉え、漆黒のアンザグは青い刃に食い千切られるように消えていく。間も無くそれは二次関数的に広がった。

「おおっと、ここじゃマズイぜ!」


ドガッ


「ガ ァ ッ⁈」

 石橋は己が破った窓から蹴り落とされた。間も無く。


ドゴオオオオオオオオオオオオオ


 ビルの外で爆発した。

「花火にしちゃぁ無様だが、さて、コイツらも」

 壁にもたれかかる1人を一番上へポイっと山積みすると

「お巡りさんへお届けだ」

 ギャノンはテロリストの山の(ふもと)をダンッと踏み付ける。すると山の下に黒い穴が空き、全てその中へ吸い込まれ、黒い口が閉じた。



ドゴオオオオオオオオオオオオオ


「何ごとだッ⁈」

 窓から黒いヒト型の物体が落ちてきたかと思えばそれは空中で大爆発を起こし、爆煙の中から黒いスウェット姿の男が現れ地面へと。次いで空中から黒いジャージやスウェットを着た男たちがドサドサと地面に降ってきた。

「な…なんだ…これは…」

 呆気(あっけ)に取られる林。周囲も皆目の前で起こったことが理解できず、ただ立ち尽くす。

ザッ 『もーはいってもいーよー』

 また。警察無線に混じり、少女の声。

「まさか…これが犯人…? あ、突入する! 機動隊前へッ! 俺たちも続くぞッ!」

 林の号令で(シールド)を構えた機動隊員が一斉に病院屋舎を取り囲む。外来診察室入り口のシャッターを破壊して中へ雪崩(なだ)れ込み、林たち私服警官も後に続いた。



 機動隊員により全ての部屋の安全が確保され、フロアに捉えられていた人質も次々と拘束を解かれた。ともかく全員を病院へと人数分の救急車が要請され、その到着までの間、林は聞けることは聞いておこうと人質となっていた妊婦へ事情聴取を行う。

「よくがんばりました。怖かったでしょう。もう大丈夫です。間も無く救急車が来ますので、安心してください。それで、それまでの間で結構ですので、よろしければここで何があったのか。お話しいただけますか」

 声を掛けられたのは分娩室へ連れ込まれた妊婦。夜、寝ているところへテロリストが入ってきたこと。フロアへ引き出され拘束されたこと。分娩室へ入ったテロリストが銃を撃ち、窓を破壊したこと。気丈にもその妊婦は落ち着いてそれらを語った。

「なるほど。それで…皆さんはどうやって助かったのでしょうか。銃を持った屈強な連中です、それを叩き出せるような方はおられないと思うのですが…」

 林の問いに証言は続く。テロリストたちは次々と倒され、分娩室へ連れ込まれた妊婦も、ある者に助けられた。

「誰なんです? その、あなたを助けた、という者は」

「あの人はこう言っていました」


 宇宙記者ギャノン



「さぁてお疲れさまだな。帰るとするぜ」

 ジーンズにライダースジャケットを纏った43歳の男が大型バイクに跨りヘルメットを被る。

《ねぇねぇタケシちゃーん。ちゃんとドーナッツ、かってきてくれれるんでしょーねー?》

「ああ。で、何をご所望だったかな?」

《えっとねー! シュガーレイズドでしょー? オールドファッションでしょー? あ、チョコかかってるのががいいなー! それからねー》

「はいはい」

(まぁこんな時間にやってる店がありゃぁな)

《タケシちゃん、なんかいった?》

「なんでもねぇよ。運転中の通話は危険ですのでおやめください、だ。また後でな」

《おうっ!》

 男の乗ったバイクは心地よい排気音(エグゾースト)を奏で、煌びやかな横浜の夜の街へ向かって消えていった。

 位置付けはギャノンの新シリーズというより『新訳』といったところ。

 元々のストーリーが存在しているので基本設定は「宇宙記者ギャノン」シリーズに準ずるのですが、新たに追加したものもあります。今短編では新キャラ「プロティ」がそれ。ところどころ「打ち間違い?」と思われる箇所がありますが、仕様です。そういう喋り方なのです。現時点でこれが何者なのかは♪今はまだヒミツ♪

 まえがきにも書きましたが、まずは短編で出してみて反応よければ続きを書こうかと。ことと次第によっちゃ現在の本編を中断してこっちに切り替えるかも。個人的にはタケシの強キャラ感マシマシで気に入ってます。プロット的には現行のストーリーをなぞる形ですが、タケシがおっさん化したせいで周囲とのやりとりが大幅に変わりますね、これ。もちろんルミも出てきますが、年下年上の関係が逆転するわけで、そうなるとルミとタケシのやり取りも随分と変わることに。追加キャラの設定もやってありますので(しかも割と深い)、ストーリーの印象も随分変わるかと。

 そんなわけで、短編なのでいずれPV数は頭打ちになるでしょうが、評価ポイントがゴリゴリ付くようならおっさんタケシバージョンで続行です。続き読んでみてぇ( ´△`)という方、評価の方、お願いします。

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