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『消化試合』

洗脳されしアサギ、第三形態。転淵体に蝕まれ、蠢く八つの漆黒の触手を身に宿し、生命に終わりを、生命を冒涜せし姿へと変わり果てた。もはや、この形態となればあとは己か敵かに死を告げるだけ。最も絶望的な状況、そのはずだった。


「この俺に勝てるとでも思っちまったかーえぇ?」

「もうここまで来ればただの消化試合なの」


しかし、この狂戦士と嫉妬の竜の前では話が別。さあ、とっとと本来の力を本来以上に引き出せているようで何一つ出せていないこの生物兵器を闇の手から解放してやるとしようか。


「排除消シ炭虐殺」


闇の力と転淵体に体の主導権を完全に奪われたアサギは、黒き八本の触手を鞭のように扱いサテラとリヴァの首を刈り取ろうとする。闇の波動が触手から漏れ、暗黒による生命の終わりへの喝采が響き…


「ハッ、無駄なことを」


氷の壁が触手の前に立ちはだかり、その悪夢の鞭を防ごうとする。しかし、氷の壁はあっけなく鞭によって砕かれてしまった。氷は決壊し、盾としての役目を果たすことができなかった。



——当然だ。なぜならそれは、盾としての役目を期待して生み出されたものではなかったからだ。


「ここからが本番なの」

「!?」


砕かれた氷の破片は、一瞬で四つの氷の巨大な蛇の首へと変わる。それぞれの氷蛇は黒き触手に噛みつき、その動きを抑える。だがそれがなんだというのだ。

あと五本の鞭を、この竜はどうやって抑えるつもりだ。


「答えは簡単、力技しかねぇなの」


リヴァは竜の姿となり、まずはその圧倒的質量で二本の触手を押し潰す。そして、迫る触手に喰らいつき、氷の牙で噛み砕く。何度再生しようが同じ、噛み砕くのみだ。ただし、転淵体の力もバカにできない。氷を全身に纏いなんとかそれらの力を相殺する。


だが、残り一本の触手はどうやって対応するつもりだ。黒き触手は嫉妬の竜の隙を作り、一気に崩そうと…


「バカがよぉ、闇の力に脳みそまで持ってかれちまったかぁ!?」


氷の壁のもう一つの目的は、目眩しである。氷の壁によって一瞬視界を遮断されたアサギは、バーサーカーと化したサテラの接近に気づけなかった。慌てて触手をサテラに向かわせるが一本だけでは足りない、すぐさまサテラに斬られてしまった。


黒き触手は再生可能、しかしもはや迎撃には間に合わない。ここは一度、紅の雷撃を用いて体制を整える。威力…否、速度…否、正確性だ。サテラがあと一歩のところまで迫って来たがもう遅い、紅の雷撃はサテラを…


「パワーには自信があるなのーーーー!!」


四つの氷蛇が突破され、黒き鞭はリヴァに襲いかかる。——想定通りだ。黒き鞭は突如発生した凍える風によりスピードを落とし、その隙にリヴァにまとめて噛みつかれる。さて、竜の力を舐めてもらっては困る。


竜はその黒き鞭を圧倒的な力で逆に引っ張り、まさしく想定外の事態を発生させる。アサギの体は大きく揺らぎ、紅く汚れた雷はあらぬ方角へと飛んでゆく。


「これでとどめじゃ機械女ァ!!」


「それは多分お前もなの」


サテラはチェーンソーでアサギの胴体を切り裂く。あらゆる装甲をも切り崩すその刃に触れたアサギは大きくダメージを受けるが、なんとか芯から避けることには成功した。


雷で牽制し、一度アサギは体制を整えようとする。リヴァもこれ以上触手にのしかかり、噛み付くのは危険と判断して人間形態に変化し後方へ跳ぶ。


しかし、アサギにとって一つ誤算が、否…アサギだけでなくリヴァにとっても誤算があった。それは…


「構わん、全部ぶち壊してくれるぜぇぇ!!!」


「!?」

「お前バカなの???」


どう見ても後方へ跳ぶのが最適解なはずなのに何故か突っ込んできたサテラにアサギは動揺、リヴァは困惑する。案の定、サテラは雷によって傷だらけとなるが、逆にそれはアサギの隙を作る結果となった。


「おらもう一発!!!」


サテラの追撃は成功。チェーンソーによる袈裟斬りはさらにアサギに直撃し、浅くない切り傷が体に刻まれる。アサギは既に満身創痍、だがまだ敵意を失わない。彼女はいわゆる『肉を切らせて骨を断つ』を実践してみせる。


「!!!」


迅速に発生させた雷の刃がサテラを襲う。この距離だと防御不可能だし、もはや今のサテラに防御などという思考は存在しない。魂をも無惨な姿にするその辻斬りはサテラの全てを八つ裂きに…


「あっっっぶねーなの!!これでお前が殺られたら関係ねぇ私がディノスに怒られるんだから勘弁しろなの!!」


なんとか竜へと姿を変えたリヴァが間に合いその一閃を受け止めてみせる。反撃に氷の礫を発生させ、アサギを一度退かせることに成功する。


「あぁ!?青女、テメェ何してくれてんだよ向こう行けボケカス!!」


「まずは助けてもらったんだから感謝の言葉を言えなの!!」


まださっきの形態の方がおっちょこちょいではあるが素直で可愛げがあったのにもうこの形態ではそれらが全てない。確かに自分がサテラの回収を担当しそのついでに本来の力を出せないアサギをボコしそのついでに…のつもりではあったが、ここまで扱いにくいと話は別だ。


「ハッ、まあいいなの。まずは目の前の敵に集中しろなの」

「その次はテメェだからな青女」


さあ、これで一気に決着をつけようではないか。竜リヴァは地面を叩きつけ氷の波動を発生させる。氷塊の剣は次々と地面から発生し、アサギはなんとかそれを避ける。


そしてアサギは雷の刃を構え、一気に嫉妬の竜との距離を詰める。接近戦に持ち込み勝負をここで決めるつもりのようだ。紅雷の刃がリヴァを…


「バーカ。後ろ、見てみろなの」


不敵に笑うリヴァに言われてやっとアサギも後ろに迫って来ていた何かにきづか。しかし、もうそれは遅すぎた。


「これでおさらばだぜクソ機械!!」


凶暴なチェーンソーがアサギの背後を取り、そして凶悪な一撃がアサギに叩き込まれた。だが、アサギはこれを喰らっても尚ダウンしない。逆にサテラにとどめの一撃を喰らわそうと…


「言ったはずなの、『完全勝利を見せてやる』と」


嫉妬の竜による一切合切を全て無に還す渾身の打撃を喰らい、アサギはついに大きく吹っ飛ばされながらも闇の力と転淵体の支配を抜け出した。紅き汚れた雷が体から次々と抜け落ちていき、元の蒼き純粋な雷へと戻っていく。


サテラがそれに巻き込まれた気がするが、まあそれは置いておこう。

リヴァは人間形態へと戻り、そして己の杖を天高く掲げる。

これにて、アサギ救済戦終幕である。


———ただし。


「さ、まだまだ二人には働いてもらうなの」


まだサテラと、そして洗脳から目覚めてすぐで悪いがアサギには働いてもらう。何せ、これはただの前座に過ぎずここからが本番なのだから。

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