『あられの余裕』
「なんかこう、マジで乗り心地最悪なの。チェンジなの!」
「ほんまさっきからだいぶ酷いこと言いますね!?」
アサギが空を優雅に飛べる第二形態に移行し、それに対抗するために空を飛べるサテラに跨る形でリヴァが乗っているのだが…流石にサテラの造りは人を乗せることを念頭に入れられておらず、リヴァはどこか不満気である。
だがリヴァは流石に空を飛ぶことはできないため仕方のないことであった。それにサテラを庇った際、足を負傷したため機動力が大きく低下している。まあ時間さえあればそのうち再生するが…とにかくだ。
「いいなの?流石に空中でアレとやり合うのは分が悪い…だから、やり合うときは地上戦に無理矢理持ち込むなの。あと足を治すための時間稼ぎも必要なの」
「はいはいわかりましたよー!…でも何か、地上戦に持ち込む策はあるんですね?」
「あったりまえなの。私を誰だと思ってるななの?」
「めんどくさい女ですかね」
「マジでこの戦い終わったら覚悟しとけなの」
というわけで、サテラとリヴァも戦闘体制はバッチリである。冷気を纏った衛星と竜は、雷を放つ狂し少女と対峙する。
プロコトル:アナイアレション。それは、死の淵に至ることで発動する生物兵器たちの強化形態である。膨大な電力消費及び自我の喪失を引き換えに電力制限と武装制限が解除される。その圧倒的な力は全てを焼き焦がす…
「悪いけど、闇の力なんか宿してる時点で私たちに勝てっこねーなの。洗脳を強化と思ってるならそれは間違い、ただの弱体化にすぎないなの」
「そうですよっ!見なさいこの闇に支配されず美しい姿を保ったボディをっ!」
「黙れなの」
「…!」
リヴァは不敵に笑う。通称『大型洗脳』と呼ばれる者たちは洗脳される前よりも単純戦闘力は上がっている。確か1.25倍とか言っていた気がするが…まあ、細かい数字などどうでもよい。洗脳されたらガンダーラ軍にとって有利に進むよう思考力も制御されるし、それに…
元から完成された強者にとっては、不相応に力を引き上げられても無駄にすぎない。1の入力で2が出るようになってしまっては、細かな動きの制御は不可能となる。単純戦闘力は引き上げられているから真っ向勝負だと厳しいが、頭を使えば何の問題もない。
「洗脳されてない方が確実に脅威なの。苦戦は間違いなし、最悪敗北の可能性も出てくる。——-ただし、今のお前は取るに足らない」
「…!!目標ヲ排除」
リヴァの挑発にアサギは激昂し、雷撃を乱射してくる。リークの持ってきた資料によれば、本来この形態はコンピュータに自我が乗っ取られており、もちろんこんなあからさまな挑発には乗らないはず。ガンダーラ軍の洗脳のアラというべきだろうか。願わくば、洗脳されてない本来の実力を誇る強者のアサギと模擬戦をしてみたいものだ。
「この戦い終わったら勲章モノだと思うんですよね!!!」
だが機動力や攻撃力自体は以前より格段に上がっていおり、サテラが死に物狂いでそれらの攻撃を避ける。当然だがタレットで反撃する余裕などなく、少しでも油断したら撃ち落とされること間違いなしだろう。ファンネルが襲いかかり、サテラを墜落させようと…
「氷ってマジで万能だと思うなの」
氷の壁がファンネルによる攻撃を阻害し、氷の壁はすぐさま突き破られるもその一瞬の隙があれば十分。サテラは高速で避け、ファンネルによる攻撃は不発に終わる。だが、それがなんだというのだ。
「目標ノ動キを捕捉」
アサギが追撃として禍々しい雷を放つ。どうやら闇の力も本格的に牙を剥き始めたらしい。紅く輝く雷はサテラたちに迫り…
「あっっぶな!!あとちょっとで墜落でしたよマジで」
間一髪でアサギの攻撃を反射してみせたサテラはその全てを滅ぼす紅き雷を跳ね返してみせる。だが、アサギはもうすぐそばまで近寄ってきていた。絶大な威力を誇る紅き雷鳴の刃はサテラの胴体を斬り捨てようと…
「それはさせるわけにいかねぇなの」
氷の双剣を手に持ったリヴァがその雷鳴の刃を防ぎ、そしてカウンターとして氷塊がアサギに迫るがそれはアサギに避けられる。だがその隙にサテラは後方へと避け、体制を整える。アサギも追撃を仕掛けようとするがリヴァの氷の牽制によりそれは免れる。
「やっぱ空中戦は厳しいですね…!!防戦一方って感じです」
「もう少し我慢しろなの。そろそろ足の怪我も完璧に治るから」
お互い氷と雷は睨み合い、相手の出方を伺…
「ってなこと!」
「するわけねぇなの、そらそらそら!!」
相手に時間など与えない、それがサテラとリヴァの共通見解だ。サテラがタレットを、リヴァが大量の氷の礫をアサギに向かって飛ばすが、アサギにとってそれらの処理は赤子の手を捻るよりも容易い。紅き雷鳴の刃で原子ごと全てを粉々に叩き斬り、そして反撃に紅き迅雷を飛ばす。それも、大量に。
「こりゃキツイなの…サテラ、頼むなの」
「任せてくださいって感じですわぁ!!」
流石のリヴァでもこの大量の迅雷を防ぐことは不可能。なので、弱めるだけ弱めあとはサテラに託すことにする。サテラが迅雷を反射し、そしてリヴァは高速で迫ってきていたアサギを氷で牽制する。だが…
「一発も攻撃を与えられてないじゃないですか!このままじゃジリ貧で負けますよ!?」
「大丈夫なの。足も治ったし、そろそろ目にもの見せてやるなの。サテラ、リスクはあるけど私に付き合ってくれなの」
「…仕方ねーなのじゃないですか!!」
「なんか私の語尾移ってる気がするんだけど気のせいなの?」
リヴァの足は完璧に治った。そろそろ、この圧倒的に不利な局面に値する空中戦に終止符を打ってやろうではないか。アサギは再度迅雷を発生させ…
「突撃ですー!」
「ぶっとばすなのー!!」
サテラの速度は急上昇。踏み切りが爆ぜられれ、音をも置き去りにしてアサギに迫る。アサギはすぐに迅雷を中断し迎撃へと移る。
サテラがアサギの目の前にたどり着いたがもう遅い、ファンネルがサテラを捉えサテラを切り刻んでしまった。サテラは煙を上げながら地面へと向かって墜落し、これにて洗脳アサギ戦はクリフサイドの敗北という形で幕を閉じ…
「私のこと忘れちゃ困るなの」
「!?」
「竜化」
真上から透き通りながらも冷酷な声が聞こえ、驚いたアサギはそこに視線を向けるがもう遅い。リヴァは少女の姿から嫉妬の竜へと姿を変え、そして竜はアサギを下敷きにし圧倒的質量で一切合切を押し潰す。
アサギも抵抗するもののこの竜には敵わず、抵抗虚しくアサギは大きな地響きと轟音が上がりながら地面に叩き落とされた。アサギの体から電流が少しばかり顔をのぞかせ、流石のアサギもこれにはかなり堪えたようだ。
「また私は欲張りだからこれだけじゃ満足しねぇなの」
嫉妬の竜は傲慢ながらもこれ以上を望む。あくまで自分たちの目的はアサギを殺すことではなく洗脳から解き放つこと。リヴァはアサギの内部にある異常を発している闇の根源を取り除こうと内部に微小な氷を発生させ…
「む!?」
リヴァが異変に気づき慌てて人間形態となり、すぐさまアサギから距離を取る。それからすぐのことであった、アサギの体から大量の謎の黒く蠢く触手が発生する。
「…これが噂の転淵体ってやつなの!」
本来アサギには転淵体による侵食を防ぐ機能が備わってるはずだが…どうやら、洗脳されたことによりそれらの機能はほとんど損なわれたようだ。
「…!!」
アサギは先ほどの打撃による損傷が激しく、機動力を大きく落とした。しかし、転淵体の侵食により大量の触手が顕になり、脅威度はほとんど変わらない…想定外のイレギュラーである。
調査書によるとこのまま長引かせればアサギはもう元の姿には戻れなくなる可能性が高い。たとえ洗脳が解けても、転淵体による侵食がこのまま進行すれば意味はないからだ。
そしておそらく動けなくなったサテラを守りながらとなると…時間内にアサギを倒し切れるかは怪しくなってくる。
アサギはまずその夥しい数の黒き触手でリヴァを八つ裂きにしようと…
「主役は、遅れてやってくんだよ…!」
異変に気づいたアサギは咄嗟に触手を引っ込めるが、何本かは手遅れ。容赦なく切り刻まれてしまった。もちろんその犯人は…
「うわ、なんか普通にピンピンしててびっくりなの」
「うわとはなんだうわとはよぉ!?…まあ、流石にキツイものがあるがなぁ!!」
「——-まあ、よく立ち上がってくれたなの」
一時はかなり焦ったリヴァだったが、満身創痍とはいえ口調の荒々しい第二形態と化したサテラが戦線復帰できたのはかなり大きく、サテラに最大限の感謝と賞賛を贈る。さて、リヴァとサテラは戦闘体制を整えアサギと対峙する。そして、リヴァとサテラは勝ち誇った顔でこう告げた。
「青女、こいつが終わったら次はてめーの番だ」
「お前ら全員まとめて相手しても私の余裕勝ちだから安心しろなの」
これにて、アサギ救済戦もついにラストスパートへと突入する…!