『月下に轟く吹雪と雷鳴』
この夜空に紅き雷光が轟く。それは、近寄る者は全て抹殺するとでも言いたげなある種の警告のようなものであった。だが、そんな警告に微塵たりとも動じない者がこの場には約二人訪れていたのだった。
「ここが私たちの担当場所なの。とっとと終わらせてディノスと日本酒を浴びるだけ飲むとするなの」
「捕虜になったと思ったら今度はこうして戦闘に駆り出される私。これから先どうなっちゃうの〜!?」
「うるせーなの」
竜の杖を構える青髪の少女の名は、リヴァ。対する青と白が混じった人工衛星のようなこの機械の名はサテラである。さて、この2人は洗脳されし生物兵器の少女であるアサギを洗脳から解き放つためにやってきたのであった。
「…死ニたいノ?」
さて、そんなリヴァとサテラはアサギと相対する。意思疎通はできるみたいだが…洗脳の影響で正常な思考はできておらず、ガンダーラ軍の操り人形と化していると捉えるのが正解だろう。実際、言葉もどこかぎこちない。アサギは紅き雷を纏い、愚か者の二人と向き合う。さて、これより。
「どっからでもかかってこいなの!」
「この最強の私に歯向かうとは中々命知らずですねっ!」
サテラとリヴァも負けていられない。サテラは黄色の電流を体から発し、リヴァは全てを凍てつかせる冷気を纏う。
アサギ救済戦開始である。
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「…私が知る電気使いの中でもトップクラスの精度なの」
「これは厄介ですね…!」
氷と雷が夜空を舞う激しい攻防戦が繰り広げられる。この暗き世界に明るいながらもどこか邪悪な雷が宙を伝い、対抗する氷はその邪悪な雷を相殺する。
「こんなのはどうですか!ターレット砲!」
サテラがブルースクリーンを変形させ、タレットを繰り出す。大量の銃弾がアサギに襲いかかる…しかし。
「…遅イ」
「な!?」
アサギはそれを難なく避けることに成功し、そして返しに蒼き射線をサテラに向かって放つ。そのビームはサテラの喉元を貫通…
「ハッ、遅いなの」
リヴァが即座にサテラと射線の間に氷の壁を作り、その雷撃を防いでみせた。とびきり硬いはずの氷があっけなく割れ、氷が轟音をあげながら決壊する。
「…コんなのハ?」
そうアサギは告げると、異常な科学力の賜物である電気の刃を発生させ、そして踏み切りが爆ぜられ一気にサテラたちとの距離を詰める。その強靭な刃はまず邪魔なサポート役であるリヴァの首を刎ねようとするが…
「脳ある鷹はつめをかくす的な感じでこんなのどうですかっ!いやさっきも使ったなこのタレット」
サテラはそう言うと、ブルースクリーンを変形させタレットが顕になる。タレットは電気の刃を構え迫り来るアサギを撃ち抜く。アサギは思わぬ不意打ちに対してよろめくが、それだけでは決定打にならず、そして大したダメージにはならない。体制を立て直して…
「ドラゴーンなの!」
リヴァが即座に竜の姿へと変わり、そして竜の振り翳す渾身の一撃がアサギに直撃する。アサギは大きく吹っ飛ばされ、そして粉塵が舞う…否、粉塵が舞うことすら許さない。粉塵をも凍てつかせる冷気が辺りを覆い尽くす。この竜、想い人にかっこいいところを見せつけられ非常に上機嫌なのだ。そしてこの竜、今の一撃で勝負を決めるつもりだった。
———だが、そう簡単に物事はうまくいかないようで。
「…してやらレタ」
「ピンピンしてますね」
「か、かなり硬くてびっくりなの…!」
ノーダメージ…とまでは流石に行かないが、渾身の一撃を喰らったはずなのにアサギは全然ダウンする気配を見せない………そして。
「まいったなの…これじゃもっと警戒されちまうなの」
戦闘において情報とは非常に大切なものである。そしてリヴァは自分の手の内、切り札ともいえる竜形態をアサギに見せてしまった。これにより、次からはアサギに竜形態を考慮した動きを許してしまうこととなる。
「———まあ、どうにかしてやるなの」
流れる冷や汗を一瞬で氷の粒にかえ、そして地面に落ちたその氷の粒を踏み砕く。人間形態へと戻ったリヴァはソーラーパネルで充電し力を溜めているサテラと共にアサギへと向き合う。
「ハッ。サテラ、もちろんまだいけるなの?」
「あったりまえですよ!私を誰だと思ってんですか!?」
「ネコサテライト」
「ぶっとばしますよ」
だが、焦るにはまだまだ早い。電力や弾を補填したサテラに向かって、リヴァはそっと耳打ちをする。
「あーなるほど!?つまり私がアサギさんの攻撃を」
「バカ、何のための耳打ちだと思ってるなの!!??」
まさかの大声で作戦を喋りかけたサテラをリヴァが制止する。危うく作戦が崩壊するところだったが、まあよい。サテラも作戦自体はわかってるようだし。
そして蒼き雷を纏うアサギと再び竜の姿となったリヴァが互いに睨み合う。アサギも竜の姿となったリヴァをかなり警戒しており、次の一手に悩んでいる様子。リヴァはリヴァでまずはアサギがどう動くかを…
「氷ブレスなのー!!」
「…!」
待つようなことはしない。突然リヴァが氷の吐息による攻撃を仕掛け、それを感知したアサギは上に跳ぶことで難なく避け、反撃に電流の雨が降り注ぐ。
リヴァは人間形態となり電流の雨を避け、そして氷の剣を生成し構え、一気に距離を詰める。負けじとアサギも雷の刃を構え、激しい剣劇が幕を開ける。氷と雷が互いに摩擦し、氷が少しずつすり減っていく。だが…
「私のことも忘れないでほしいですよねーっと!」
「…!!」
隙ができたとリヴァの手首を狙うアサギであったが、サテラが阻止される。アサギは一旦後方に跳び体制を立て直そうとするが…
「出血大サービスなの。あられなんて可愛らしい言葉で済むようなもんじゃねぇのをたくさんくれてやるなの」
「…ナルホド」
リヴァはその一瞬の隙を見逃さない。大量の氷を発生させ、それは洗脳されし生物兵器の少女へと向かって標準を定める。避けるのは間に合わない、と判断したアサギは特大威力の雷撃を放ち、その凶悪な氷の雨を相殺しようとするが…
「なーんちゃって、なの」
アサギが必殺の雷撃を放つのを確認したリヴァは不敵に笑う。その雷撃を待っていたのだ。氷の雨は標準をアサギに合わせただけで、実際に降り注ぐことはなく…
「こーこで私の出番なわけです!」
出番が回ってきて少しばかり嬉しそうに雷撃の前に割り込んだのはサテラである。天をも焼き焦がすその雷撃をまともに喰らえばサテラも無事に済むことはなく…
「ところがどっこい、反射しちゃえばモーマンタイ」
「!?」
サテラのソーラーパネルによって反射された必殺の雷撃は、逆に技を放った張本人であるアサギを焼き焦がそうと迫る。アサギはそれを避けようとしたが…動けない。よく見たら足元が氷で固められている。そしてさらに、氷塊の雨もプレゼントとして襲いかかる。
「脅威ヲ認識。コレヨリ、Protocol.Annihilationニ移行セシ」
アサギのいた地点に向かって全てを焼き尽くすイカズチと遅れて絶対零度が襲いかかる。轟音が鳴り響き、地面は大きくえぐれる。粉塵が舞い、月はサテラとリヴァの二人の勝利を祝福する。
「わーい、勝った勝った!やりましたよー!」
アサギを倒すことに成功したサテラはその勝利を深く噛み締め、そしてこれから始まる宴を楽しもうと…
「…危ないなの!!ぬぁ!??」
「リヴァさん!?」
何かしら異常を察知したリヴァが即座に竜の形態となり、そしてサテラを庇う。凶刃が彼らを襲ったのは、それからすぐのことだ。
三のファンネルと不意打ちがリヴァを襲ったのであった。リヴァは足を主に負傷し、血が地面に滴る。もちろん、それをしでかした犯人は…
「標的ノ抹殺ニ失敗。引キ続キ活動ス」
「どひゃー、なんか強化されてませんかぁ!?」
「チッ。どうせそうだろうとは思ったけど、やっぱあるか…ま、問題ないなの」
プロコトル:アナイアレション、起動。これより第二ラウンドを開始する。