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第三話 アイドルの付き添い!?

 ソーシャルゲームとは、インターネットを介して、複数の人間が参加出来るオンラインゲームの一種である。

 他のプレーヤーとの協力プレイやコミュニケーションを主な醍醐味とする仕組みになっているものも数多い。

 これらのゲームはスマホやタブレット、ブラウザでプレイ出来るのだが、一愛は日頃から持ち歩いているスマホでずっと長時間プレイをしていたらしい。それこそ、三日間、飲まず食わずで。睡眠はどれぐらい取っていたのか。もしかして、ほぼ寝ていなかったかもしれないのだ。


「アイドルがそんなにはまるアイドルゲームって、どんなゲーム? 面白いの?」

 笑いすぎて気安くなった救急隊員の一人が、顔真っ赤にして涙目の美少女アイドルにそう尋ねた。


「アイ爆……」

「アイバク?」


「知らないの? 死刑。アイドル爆誕-レインボープリンセス レジェンドステージ-だよ。みんなやってるんだから」

 膨れた表情でそんなことを言う一愛。よっぽどはまっているのだろう。ゲームの略称を知らないだけで、随分と怒っているようだ。


「アイドル爆誕。君も爆誕してそれぐらい貢いで貰えるアイドルになりなさいよ」

「そんなこと言われたって……」

「いやいや、それぐらい、十万円もファンから貢いで貰えるようになれば、ハラペコでご飯も食べず家賃も払えずなんて事にはならないんだからさ。ね? ゲームは一日一時間にして、アイドルの仕事頑張りなさいって」

「あ、そうか。そうだったんだ!」

 今更気づいたような顔をする一愛であった。


 まあ、そうだろう。まともに仕事をしていれば、普通は家賃を払って三食食べる生活が出来る。

 それに今更気がついたらしい16歳アイドル。恐らく卵なのだろうが。そして口の中で何かぶつぶつ言っている。


「今、あと十万あれば、このあとでもまだ花月(はづき)ちゃんが狙えるんだ……」

「う~ん、ビョーキだねえ……」

 それを聞き取って、救急隊員がナチュラルに言った。

 自分が言いたかった事を、白髪交じりの救急隊員が、目尻に笑い涙をにじませながら言っているので、焦っていた未徠だったが大分落ち着いてきた。


「栄養点滴うっとくね。三日食べなかったら、普通、倒れるよ」

 白髪の救急隊員よりはやや若い隊員が、救急車の中で点滴の準備をし始めた。

「う~~注射……」

 点滴と聞いて顔をしかめる一愛だった。

「チクっと痛いのは一瞬だけだから、我慢して。大丈夫、それだけ元気あればすぐに回復するから」

 一愛の伝説のアイドルに対する愛の雄叫びを聞いた後だ。何も心配することはないと思っているらしいが、救急隊員達にしてみれば、三日間飲まず喰わずで部屋の中でぶっ倒れていたと聞けば、点滴ぐらい打ってやりたくなったらしい。


 一愛は渋々、右腕を差し出して点滴の針を刺してもらった。救急隊員は丁寧に、黄色い透明の栄養点滴の器具の調整をし、一愛に栄養が送られるようにしてくれた。


 一愛はそのあとも、救急隊員から様々な質問を受け、それには至極大人しく、真面目に答えているようだった。

 そこで強い違和感があったのは、彼女の実家の事であった。


「それじゃ、三重県から来たんだね。愛知県に、こっちに。仕事の関係で?」

「はい」

「ご両親は三重県にいるの? 連絡はした?」


「あー……えっと……」

 そこで一愛は挙動不審そのものに目をさまよわせ、そのあと、凄まじいどや顔で言い切った。


「死にました!」


「……死?」

「あ、はい。両親、死んでます。いません」


「…………」

 救急隊員が、何故か、未徠の方を見た。目配せだと気がついた未徠も、困惑してしまう。

「ああ、先日、それに今日も、親元に家賃の事で電話をかけてみたんですが、通じなくって。そういうこととは、つゆ知らず」

「はあ……?」

 救急隊員は、困惑の色を強く出した。未成年が三日間飲まず食わずで、アパートの中にいたのだ。そして、現在、成人している連絡先になりそうなのが、二十代前半の管理人、しかも男性一人。

 流石に不安になってきたらしい。

「親元の連絡先はわからないのね、うん。他に、保証人になりそうな人、いる?」

 すると一愛は、黙って未徠の方を見た。

 未徠は意味がわからなかった。

 一愛は意地でも、未徠の方をじっと見つめ続けている。


「え……俺!?」


 気がついた時は遅すぎた。救急隊員も、視線の会話の意味に薄々気がついたらしい。


「ああー……大家さんが連絡先……なるほどね」

(何がなるほどなんだ!)

 救急隊員達の言葉に、未徠は恐怖すら感じる。一体どういうふうに受け取られたのだろう。


「はい。私じゃなくって、この人が救急車を呼びました」

 ビシっとした顔つきで、一愛は未徠を見つめながらそう言った。

 何しろ彼女は三日間、メシを食べていない身の上である。状況から言って、食べていないのではなくて、食べられなかったという可能性がある。その状況で、決して、タダではない救急車。


 その料金を、タダノリにさせるわけにはいかない救急隊員に、「私じゃないからね!!」と壮絶な自己主張を行ったのである……。


(いや……財布ぐらいは持ってきているけどさあ……)

 凄い根性のアイドルを見てしまった。未徠は正しくそんな表情になってしまった。

「あ、今日の分は、俺が……」

「君が?」

「管理人ですし」


 基本的に不義理ができず、困っている人を見過ごして恨まれたら怖いという思考回路の未徠はそう言ってしまった。救急隊員たちがひどく困っている様子も察していただけに。

「それじゃ、そのことを病院についたら受付に話してください」

 救急隊員たちはあっさりしたものだった。

 一方、一愛の方はにやりと笑うと、やっと一息ついたように救急車内のベッドに寝そべり直し、さも疲れているというように、大げさな寝息を立て始めた。


 彼女が疲れているアピールをしたところで、それは、アイドルのガシャを引きすぎて爆死してぶっ倒れているだけなのだが……。


 そうこうしているうちに、病院に着いた。

 

 未徠にしてみれば、病院はともかく、救急車に乗ったのは全く初めての経験であった。しかもこんな成り行きで乗ることになるとは考えたことがない。

 普段と全く別のだだっ広い入口から入っていって、救急隊員が一愛を担架で大切に下ろして移動するあとを、ひよこのようにあてどなくついていった。

 一愛が診察室で色々聞かれている間も、付き添うこととなった。未成年で保護者がいない一愛の保護者がわりと思われたらしい。今どき、アパートの大家で管理人というのは、そんなに強いのか? 未徠自身疑問に思ったが、病院の方も他に連絡つきそうな成人がいなかったのでそうするしかなかったのだろう。


 一愛は疲れて切って腹が減っているようだったが、先程のように突如、泣き出すというようなことはなく、医者の問診に対して元気のない声でぼそぼそと正直に答えていた。

 正直に、アイドルが、アイドルゲームを3日間飲まず食わずでやりこんで没頭し、エアコンが壊れている部屋で爆死したと伝えた。

 医者は、笑ってはいけないと思った様子で真面目に聞き取っていたが、最後には思い切りよく吹き出した。

「よっぽど面白いゲームなんだねえ! アイドルがはまるなんて。で、君は、なんていう曲を歌っているの?」

「……まだそこまでは……事務所にはいますけど……」

 流石に悔しそうな表情を見せる一愛であった。医者はまた笑った。

「アイドルの卵か。若い子は元気でいいねー。いつか、愛知県を背負って立つ、若者の希望のアイドルになってくれ!」

「私、三重県出身なんですけど」

 一愛にしてみれば精一杯の嫌味だったらいい。

「どっちだっていいじゃないか。はい、それじゃ栄養点滴打って一晩泊まって行ってね〜」

 太った優しそうな年寄の医者はあっさり笑ってそう言った。後は看護師たちの仕事である。一愛は点滴の部屋に連れて行かれたのだった。


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