メイファはトレーニングの成果を試したい!
小柄な少女メイファは、切り立った岩の上で突き蹴りを繰り出した。
15歳の今まで深山で暮らしながら続けてきた修行だ。
両親は昔亡くなっており、育ててくれた祖父シュエンに拳法を習っている。
岩から下りるとシュエンが待っていた
「メイファよ。山を下りて大会に出たいという意思は変わらんか?」
「うん。修行の成果を試したいよ」
「くどいようだが、我らが召制拳は我欲を制御して健全なる肉体と精神の維持を目的としている。人と競い合うためのものでも、ましてや名声を得るためのものでもない」
「そんなの分かってるわよ! でも、でも」
「良い。もう止めぬ」
「えっ!?」
「お前は若い。誰しもそういう時期がある。行ってこい」
「ありがとう! じいちゃん!」
「だがお前は体が小さい。今のままでは勝てぬ」
その通りだろう。大会は巨漢ぞろいだと聞いている。
「さて。家に戻るぞ。そこで召制拳の奥義を授けよう。もう準備はしてある」
「ええっ!?」
家に戻ると――。
「こっ、これ!?」
「わしも病に侵された身。一度しか見せてやれん。メイファよ! その目に焼き付けよ! これが召制拳究極奥義・天地吞喰じゃ!」
「じいちゃん! 駄目ぇ!」
◇
メイファは墓に線香を供えた。
「あの奥義のおかげで、大会は優勝できたよ。でもじいちゃんにそう言えないなら意味ないよ。帰って来てよ。寂しいよ」
メイファの頬を涙が伝った。
「おう。メイファ」
振り返ると、そこにはシュエンの姿があった。
「じいちゃん!」
メイファはシュエンに駆け寄った。
「両親の墓参りとは親孝行じゃな」
「それより、退院できたのね?」
「うむ」
「もう。満漢全席の一気食いなんてやめてよ」
この前家に戻ると、料理が山のように準備してあった。
シュエンはそれを食べ切ったのちに、入院した。
「糖尿も痛風もあるんだから、無理しないでよ」
「だがその楯を見る限り、優勝できたようじゃな」
「うん。天地吞喰というだけあって、いくらでも食べられたわ」
墓のそばに置いてある優勝楯をちらりと見た。
『第12回大食い選手権 優勝』
◇
かつて召制拳と呼ばれる拳法があった。
拳法ではあるが、その名のごとく食事の召し方の制御を目的としていた。
体を動かすと食欲を適正に保つホルモンが分泌されると現在では知られているが、大昔の時点で経験からそれを察知し、目的に応じて食事の量を制御していた。
そして食欲を大幅に増進させて大食いを可能とする究極奥義も存在したそうである。