防衛機兵スィーエル
「これは、地球と人類の存亡をかけた戦いである!」
西暦2050年。国際連合の解散と共に出された宣言により、人類は新たに地球連合として団結した。
理由は一つ。それは地球外から飛来した有機生命体にあった。その、人類共通の敵の名は「ウェッジ(楔)」という。
ウェッジは流星群と共に地球に降下し、太平洋上に着水。そこで巨大な樹状体を創り上げた。その後、そこを本拠地として地球の様々な有機物の遺伝子を取り込み、凶悪な変異体の数々を生み出していった。
それらは当然の如く人類をも襲撃し、文明圏ごと取り込んでいく。そうして人類は現在、生存圏を狭められて絶滅の一途を辿っている。
もちろん、人類も黙って見ているわけではなかった。
襲来した巨大変異体に対し、重火器による砲撃や、戦車、戦闘機、駆逐艦などによる爆撃を幾度となく繰り返した。
そして、太平洋上の巨大な樹状体――マザーツリーに核攻撃も行った。それも、三度。
だが、その度にマザーツリーは炭屑の様に黒く焼け爛れた後、まるで羽化する様に巨大化して生え変わっていった。今や成層圏にまで、その触手が届きそうだった。
このまま成す術なく、人類もウェッジに取り込まれてしまうのか……。そう思われた時、人類の希望が解析完了する。
宇宙≪そら≫から齎されたのは、絶望だけではなかった。
ウェッジと共に地球に降り注いだ隕石の中には、地球には存在しないレアメタル「マルニウム」が多量に含まれていた。それによって創り出された量子コンピューター3S≪セイクリッドスターサークル≫により、人類はその身に鋼鉄を纏って戦う力を得た。
物語は日本の名古屋防衛戦から始まる。
三重方面より迫る昆虫型変異体――ウェッジベータの大群から名古屋を防衛し、奈良方面への注意を逸らす作戦。それが「名古屋防衛戦」だ。
ウェッジベータの大群は、3~5メートル程の蟻の様な群体歩行型と、蠅の様な飛行型が主だった。それらが文字通り群がるように蠢き、津波の様に押し寄せてくる。
この行軍に轢かれ、日本中の幾つもの都市が瓦礫と化した。その後に芽吹くのは、おどろおどろしい黒緑の変異樹木体――ウェッジのみとなる。
それに対し、地球連合発足と同時期に誕生した日本防衛軍は、戦車や自走砲、爆撃機などで迎撃に移る。
その絨毯爆撃とも言える砲撃を搔い潜ってきたウェッジベータには、四脚型の高機動多目的戦車(以下、多脚戦車)が各個撃破に向かう。
「右前輪5%、左後輪10%損傷。撃破数、まぁまぁ」
十数機の多脚戦車が稼働する中、縦横無尽に多脚戦車を動かし撃墜数を増やしていくのは、この物語の主人公の一人である花丸公弥≪ハナマルキミヤ≫だった。
SI≪スターインテリジェント≫と名付けられた高性能AIデバイスを搭載した多脚戦車は、瓦礫が散乱した悪路でも地形サポートシステムによって難なく動く。
それらのシステムをフル活用し、まるで生きているかのように多脚戦車を操縦する公弥。
主砲一門、その上部に重機関銃しか装備していないにも関わらず、公弥の部隊は敵軍に風穴を開けることに成功。それをサポートするように周囲の有人、無人機も連携を取っていき、散り散りになり始めたウェッジベータたちは各個撃破されていく。
前線――荒廃した市街地での公弥の活躍により防衛ラインは押し上がり、このまま守り切れる。皆がそう判断した時だった。
「レーダーに巨大な敵影を捕捉! ……望遠映像、出ます!」
ウェッジが根を張った周辺では、特殊な花粉とも言える粒子が飛散しており、レーダーの類が効かなくなってしまう。そのため、有視界戦闘を余儀なくされていた。
司令部メインモニターに映し出されたのは、巨大な灰色の花だった。
植物型変異体――ウェッジアルファだ。
まるで蜘蛛の巣の様な花びらを広げたウェッジアルファは、ベータの群体歩行型に運ばれて接近してくる。
それと同時にベータの飛行型が戦闘空域から撤退したことを鑑み、司令官も戦闘機の近接航空支援を中断させる。
司令官は前線に残った群体歩行型は公弥たちに任せ、砲火力はアルファの根本へと集中させる命令を下す。わざわざベータに運ばせているということは、自立移動はできないということだ。ならば足さえ奪ってしまえば、あとは時間の問題で片がつく。
そのはずだったが、アルファは接近する物体全てを盾の様に展開した花で絡め取って防ぐため、効果が薄い。菌糸を撚糸の様に合わせて生成された蜘蛛の花は、その見た目に反して火と衝撃を通さない。その上、センサーでも付いているのかというくらい反応が早い。それに、そもそも根本の下にベータたちがいるので攻撃が届きにくい。
あれが根付いてしまえば、名古屋は菌糸の海に沈む。
しかし、こちらの戦力で効きそうなものは、最終防衛ラインに設置した爆雷しか残っていない。その一撃で全てのベータを駆逐できる可能性は59%だと、SIの計算では出ている。
それで足を止められなかったら、決死の突撃をする他ない。失敗が許されない故に、無人機と共に有人機による玉砕作戦しか……。
その時、司令部に通信が入る。
「戦場に天使が舞い降りる」と。
その言い回しに周囲は動揺と苛立ちを隠せないが、司令官だけは即座に意味を理解し、直ちに前線部隊と砲撃部隊に再び根本への集中攻撃の命令を下す。
「蜘蛛の巣は俺が引きつける。ヒー、フーだけ俺についてきて」
司令部の作戦を信じ、アルファの根本に攻撃を集中する公弥たち。
その効果が薄いことも解っていたので、公弥は無人機二機だけを引き連れ、半ば突撃する形で蜘蛛の花を引きつける。
花に接触すれば機体は絡めとられ、そのまま盾として使われる。動きもそこまで鈍重ではないので、味方の砲撃を避けながら接触を回避することは至難の技だ。更には、そこから不規則に菌糸の束を飛散してくる。それに当たるか踏んでしまえば、機動力は大幅に落ちる。
その状況下で、公弥と無人機たちは回避に専念してアルファの懐に潜り込もうとし、注意を引いていた。
「生きててくれて、ありがとう。お待たせ……!」
その瞬間、上空から亜音速の速さで白い杭が射出された。
蜘蛛の花は公弥たち目掛けて振り下ろされていたので防御が間に合わず、その巨大な杭はアルファの茎にあたる部分に突き刺さった。
電磁焼却杭「アマツカムナリ」
それは着弾した直後に内蔵された専用カートリッジを強制放電させ、着弾部分と周囲を焼き切る特殊弾頭だ。
解放された虹色の光は、アルファと根本のベータを焼却し、その生命活動を停止させた。
その稲妻に似て、戦場と司令部に響く勝鬨の歓声。
司令部のモニターには、アルファの上空で佇むように浮かぶ、巨大だがスマートな白い人型ロボットが映し出されている。
縦読みであることを活かし、上から下に舐るようなアングルで描写したい。
肩に担ぐように装備された白い長身のバズーカ砲の後部からは、排熱のための蒸気が放出されていた。
その機体こそ、もう一人の主人公である式音凛≪シキネリン≫が搭乗する専用機、SIEL≪スィーエル≫01「オウス」であった。
凛はコクピット内でその声を聴きながら、微笑んでいた。
名古屋防衛戦終了後、公弥たちの日常にシーンが移る。滅びゆく世界で、必死に生きる人々の暮らしぶりと、それを含めた世界情勢などが語られる。
防衛戦が終わり、スィーエルの有用性は日本のみならず世界各国で示されたこともあり、日本や世界は活気に満ちていた。遂に人類の反撃が始まる、と。
先の戦いの後、その勢いで和歌山を奪還した日本防衛軍は、関西圏に和歌山を編入して防衛体制を一新させた。
日本国民は現在、関東圏、関西圏、東北圏、中国圏、北海道といった、再編された五圏にしか居住していない。沖縄、九州、四国はウェッジによって陥落している。
ウェッジは環太平洋諸国のみならず、世界各国に出現して勢力を拡大し続けている。もちろん太平洋側が被害も大きいが、防衛態勢を整えられなかったアフリカ、欧州も他人事ではない被害を受けていた。
こうして地球全土が被害を受けたことから、人類は有史以来初めて国境や肌の色を越えて団結した。
時は少し戻り、公弥が昇進報告を受けて少尉となった後。
公弥は一刻も早くスィーエルを見るため、その専用ドックへと向かった。
そこにはスィーエル整備士であり、凛の幼馴染でもある穂乃山創≪ホノヤマハジメ≫がいた。
「綺麗だ……!」
「き、君もそう思う……!?」
機械オタクっ気のある二人は、二言三言で意気投合した。
そこからは立て板に水の如く、創の口からオウスの情報が流れてくる。
オウスの外見は、凛の戦闘スタイルに合わせてSIから提案されたものを再現している。凛は中・近距離戦が得意だから取り回しの良い武装にして、それらの邪魔にならないスマートなフォルムになった。個人の専用機にすることで、ⅮNAコンピューターの操縦システムとも相性が良く、より効率的に戦闘データをフィードバックさせて機体の改良・進化ができる。
などと、二人がオウスの性能について熱く会話していると、そこに軍服姿の凛がやってくる。
凛は公弥に挨拶した後、戦闘のフィードバックで伝えたいことがあると言って、創に前線の状況を語りはじめる。すると、参考にしたい多脚戦車乗りが公弥だと判明する。
話しを黙って聞いていた公弥は、凛に褒められて乗り気になっていたため、実物を交えながら説明することにした。その提案を二人は快諾し、公弥たちは一般兵器ドックまで移動する。
移動途中には、人間が荷物運搬AIなどと一緒に働く姿が垣間見える。
SIの登場により、AIによる仕事の自動化が進み、力仕事や人手を有する仕事の80%以上はAIが行っている。なので、世界人口が半分以下になっていても労働力不足にならず、どうにか世界経済は回っている。
人間は適材適所で仕事を割り振られ、効率化を求めて働いていた。それをサポートしてくれのも、個人携帯用SI、通称「スィー」だった。
決して強制はせず、所有者が望む未来を選べるようサポートをしてくれるスィーは、人類に受け入れられた。たとえ全人類の個人情報全てが、スィーを通して3Sに集約されていようとも、気に掛ける人は殆どいない。そんな余裕はない、と言った方が正しいかもしれない。
そうした話しや描写が終わると、公弥の乗る多脚戦車や一般兵器の話しに移っていく。
旧世代兵器の在庫一掃処分のような物量頼りの戦い方も終わり、時代は多脚戦車やスィーエルのような有人機動兵器と、AIによる無人物量兵器による特化戦術に移っている。
その中で公弥は、スィーエルと切磋琢磨できるような有人兵器の開発や提案をしていきたいと語り、凛と創も賛同する。
公弥が夢を語っていると、三人は一般兵器ドックに着いた。
スィーエル専用の整然とした美しいドックとは違い、整備工具の入ったカートや解体された武装、パーツなどが床に所狭しと置かれている。唯一の共通点は、兵器が既定の場所に格納されているところぐらいだ。
そこで作業する整備班の人たちとAIを避け、公弥たちは多脚戦車の格納レーンへと向かう。他の機体は様々な損傷などを直すため、主砲や脚部などが取り外されていたりするのだが、公弥の機体だけは手つかずのままだ。まるで、ついさっき戦場から帰ってきた様な風貌でメンテナンスブースに収まっている。
「整備班にお願いして、整備と改修は俺とスィーでやってるんだ」
公弥は満足気に自分の機体を見上げた後、二人に細かく機体の説明をしていく。
二人の質問をこまめに拾いながら早口で説明する姿に、凛は幼馴染の姿を重ねた。事実、隣に立つ創≪おさななじみ≫は自分よりも積極的に質問をしている。
それに負けじと、凛もAIを使った戦術面や機体操作の感覚などを訊いていく。
二人の質問攻めに対して、公弥は打てば響く様子で楽しそうに返している。
そうして話しをしていると、凛のスィーにメッセージが届く。
「二人共、オウス以外のスィーエルに興味ない?」
凛のこの言葉が決まり手となり、公弥と創はもう一人のスィーエルパイロットの基地内及び周辺施設の案内を任されることとなった。
正直な話し、公弥と創は周辺の案内よりも機体を弄っていたかったのだが、新たなスィーエルとパイロットへの興味には抗えなかった。
数日後、スィーエル02「フルツ」と共に、パイロットの飯綱美香≪いづなみか≫が熱海小田原基地に到着した。
フルツは輸送機で運ばれてきたので、その姿を見れていない機械オタクたちは、美香ではなくフルツに興味があった。
「私と質問の交換をしませんか? 何でも答えてあげますよ」
自己紹介の後でそれを見抜いた美香は、案内を受けながら一個ずつ質問をし合う、という提案をして二人の興味を惹いた。
美香は早速スィーエルのことを少し話しながら、関東圏静岡市熱海町の案内を受けるため、車に乗り込んだ。
車にはAIによる自動運転機能も付いているが、公弥は自ら運転席に座る。
こうして、ご当地案内ツアーは始まった。
公弥と創はフルツの性能や、美香がこちらに来る前のことを交互に訊いていく。
凛は美香とは元々パイロット養成機関で知り合っているので、気になったことがあったら口を挟むくらいで、話しは公弥たちベースで進んでいった。
熱海小田原基地は太平洋側の防衛基地だが、最前線基地ではなく補給・整備基地としての役割が強いこと。熱海は昔から温泉がある観光地として有名だが、地熱発電技術も向上して豊富な電力を賄える点でも優秀なこと。それにより、今は温泉レジャー施設が多くて活気に溢れていること。といった、調べれば出てきそうな基礎的な内容を公弥と創は答えていく。
美香はフルツについて、自分の得意な戦闘スタイルに合わせた接近戦用の武装が多いことや、関節駆動防御装甲によって軽鎧を着けているように見えることなどを説明する。
自身とフルツが配属された理由は、まだ話さない。
そう話しているうちに、一向の車は駅に着いた。
駅周辺には生活用品エリアと温泉施設エリア、観光エリアなどが判り易く展開されている。
区画整備も進んでいて、車が走る車道は国道から駅前に続く一本道くらいしかなく、人一人が乗れるくらいの「カゴ」といわれる自動移動装置が歩道中央に走っていて、スィーを使って操作して目的地まで移動する。
カゴ内では立ったままでもいいし、腰かける台も付いているので荷物を置いたり座ったりもできる。カゴは時速20kmくらいの速さで動き、衝突回避センサーも付いている。というより、スキー場のリフトのように稼働しているので、カゴ同士が衝突することはまずない。
ちなみに横断歩道も設置されており、人が渡る時だけ信号機パネルにスィーをかざしてカゴを止める。
こういった説明はするものの、美香を含めて皆が慣れているので、特に会話で説明することはない。背景で四人を含めた人々が、それを使って各エリアを移動している描写をする。
ちなみに、公弥たちを含めても街行く人々にダサい恰好の人はいない。それもスィーがコーディネートしてくれるからだ。
そうして、スィーを使ったAI生活の日常が描かれた後、美香は熱海小田原基地に来た理由を話す。
「近々、大規模な作戦があるんです。なので、スィーエルのパイロット同士の親睦を深めるために、ここに仮配属されたんです。それで……せっかくなら画面の映像じゃなくて、実際にみんなの生活する場所を見ておきたくて……」
美香は寂し気な笑顔を浮かべて三人に話した。
「取り戻そう。私たちみんなが普通に暮らせる日常を……!」
凛の力強い言葉に、三人は頷いた。
その後、彼らを含めた日本防衛軍は日本各地でそれぞれの信念のもとに戦い、死んでゆく。
パイロットとの適合調整が終わり、スィーエル03「クナトビ」が完成するまではオウスとフルツを主軸にした作戦が展開され、その悉くで勝利を収めていく。
この段階では主要メンバーに犠牲者は出ていない。
前述した、和歌山を取り戻す作戦「高野山攻略戦」においても、オウスとスィーエルは高い戦闘能力を発揮し、十二分に戦果を挙げていた。
「美香! 近づく奴はお願い!」
「しょうちぃぃぃ!」
互いに掛け声を出して連携を取りながら、オウスはウェッジアルファを可変機能付きライフルで的確に射抜き、フルツはオウスに接近するウェッジベータを刀で斬り裂いていく。
脳とⅮNAコンピューターがダイレクトリンクされたスィーエルの操縦システムによって、パイロットは武装を使う時に手元でフリックやクリック入力をする時以外は、直感的に機体を動かせる。そのため、本当に人が機械製のバトルスーツを纏って戦っているように見える。
「山道もお構いなし、だもんな……。凄いな……いいな……かっこいいな……」
公弥はスィーエルを援護しながら戦場でのデータを取り、スィーエルに次ぐ人型防衛兵器の設計・開発などを創と共に行っていた。
纏まったデータはスィーや防衛軍本部を通して3Sに送り、フィードバックを受けながら開発を進めていく。
そうした実績が実を結び、公弥は正式に人型機動防衛兵器の試作機「大丈夫≪マスラヲ≫」のパイロットに決まり、創は防衛機兵専属技術主任へと昇進した。
その後、新設された特殊作戦群「防衛機兵群」に公弥たち四人は転属し、北は北海道、南は山口まで転戦する。その間に、遠距離戦を得意とするクナトビが完成する。
それを機に、人類は反転攻勢へと転じてゆく。日本では先ず、四国からだった。
四国は巨大なウェッジベータの巣の様になっており、その原因はウェッジアルファの胞子体がウェッジベータの成長と繁殖を促しているからだ、と軍の研究班と3Sは突き止めていた。
その分析結果を元に、本部は作戦を立てていく。
「……よろしく、先輩」
防衛機兵群に新たに配属されたクナトビのパイロット「宇井はやひ≪ウイハヤヒ≫」は、凛たちのことをそう呼んだ。
はやひと凛たちは作戦待機中に大阪で出会い、ブリーフィングやシミュレーションを何度かこなしていき、互いの理解を深めていった。
そうして作戦の準備は整い、凛たちスィーエル三機を柱にした日本全土奪還作戦の火蓋が切って落とされる。
ここからは文字数の都合上、時系列順に簡略化した戦闘結果を記していきます。
二○五二年、十二月。
四国では、ウェッジアルファの胞子体及びベータの巣を、クナトビの超遠距離狙撃により破壊する「村上与一」作戦を実行し、これに成功。奪還を果たす。
二〇五三年、二月。
九州では、耐火特性を獲得したウェッジアルファの巨大花を、フルツによる高高度からの奇襲で斬り倒す「天使降臨」作戦を実行し、これに成功。奪還を果たす。
同年、六月。
沖縄では中華人民共義国防衛軍と協力し、離島奪還作戦「琉球凱旋」を発動。
艦砲射撃を魚介型変異体――ウェッジガンマに集中し、近接戦闘を主軸にして沖縄全土を奪還する。なお、この戦いで中国にマスラヲを一機譲渡している。
こうして、日本防衛軍及び世界各国が反撃躍進するなか、ウェッジも黙ってはいなかった。
人類の連携を分断すべく、世界各国に強力な巨大変異体――怪獣を送り込んでくる。
同年、十月。
日本も例外ではなく、太平洋側から植物と動物を融合させた様な怪獣「ウェッジキメラ」が出現。
関東圏神奈川市全域で迎撃戦を展開してこれを撃破するも、首都進攻を食い止めるために多大な被害を出した。
二〇五四年、一月。
北海道に甲殻類と昆虫を融合させた様な怪獣「ウェッジオリジン」が襲来。
道内の半数に近い施設が崩壊し、東北圏岩手市盛岡町手前まで進攻を許してしまう。更に、撃破にあたってマスラヲ三機大破、オウス中破、パイロットはいずれも負傷、という甚大な犠牲を出してしまう。
その後、ウェッジの襲来も小康状態になった。怪獣を生み出すのには時間がかかるらしく、各国最大2体までの出現で収まっている。だが、それは人類側にも言えることだった。
スィーエルの製造には多量のマルニウムが必要なので、戦力と物資のバランスを考えて各国三機までとなっている。
敵戦力の増加ペース、人類の戦力の損耗と拡充を考慮した結果、地球連合はマザーツリー駆除決戦に打って出る決断を下した。
二〇五四年、十二月。
怪獣との戦闘を勝ち抜いた世界各国の空母や戦艦、人型防衛兵器とスィーエルの精鋭が日本とアメリカに集まり、決戦の時を待っていた。
公弥たちも最終決戦に向けて思い思いの行動を取っている。
公弥は余念無く機体の整備、調整を行っている。
凛と創は美香に背中を押され、創が告白する形で恋人同士になった。
はやひは近くの神社にお詣りに行き、勝利を願った。
共に戦ってきた部隊の仲間や司令部の人々も、最後になるかもしれない日常をそれぞれの形で送っていた。
そうした描写が入った後、遂に世界の命運をかけた決戦が始まる。
東は日本側、西はアメリカ側による東西からの挟撃によってマザーツリーの防衛ラインを突破し、内部――根本からマザーツリーを破壊する作戦「ファイヤー・オブ・スルト」の号令が下り、公弥たち日本防衛軍艦隊は出撃した。
マザーツリーの周辺海域――防衛ラインには、ウェッジガンマが無数に展開している。
ウェッジガンマだけならば取り付かれなければ問題はないが、マザーツリーの守護神ともいうべき、タコやイカ、カニやエビ、サメやクジラの形態を模した巨大なウェッジたちが深海より出現し、地球連合軍に襲いかかってくる。
大量出現した未確認ウェッジたちは、各国各隊で判り易く呼称されていった。
繰り広げられる激戦の末、各国の友軍と自軍に犠牲を出しつつ、公弥たちの部隊は防衛ラインを突破。マザーツリーの根本へと飛び込む。
まるで滝壺や深海への穴を連想させる空間に、公弥たちは海と共に流れ落ちていく。そして、その中にある小さな島を見つけて漂着した。
そこには、世界の真実が隠されていた。
何も襲ってこない平穏で緑豊かな島の中心に建てられた、一棟の研究所。
機体から降りた公弥たちは誘われるようにその中へ入り、残された研究データをスィーによって解析させながら、内部を探索していく。
それにより、ここで植物に関する研究・実験が行われていたようだと解った時に、スィーの解析が完了した。その結果、ここで創り出された実験体こそがマザーツリーだということが判明してしまう。
その研究の――マザーツリーの真意は、地球環境の再生にあった。
善意で始まったことが悪意によって隠蔽されるという、人類の……権力者たちの欺瞞を知ってしまった公弥たちが取る選択とは?
その後、公弥たちは話し合い、互いの意見を出し合う。
公弥の言う「マザーツリーとの共生」が正しいのか?
凛の言う「マザーツリーの討伐」が正しいのか?
部隊員全員による意見の統合――民主主義が正しいのか?
誰が世界の行く末を決めるのか? スィーから3Sに繋ぎ、全世界と共有することが正しいのか?
スィーは何も答えない。初めて提案もなく、人類に判断を委ねている。
最期に公弥たちが振り向き、もう一人の部隊員(読者)に「あなたは、どうしたらいいと思う?」と訊く。
というところで、物語は終わる。
読者に投げかける、結末を問う手法が良くないのなら、原案者としての答えがあります。