前編
婚約破棄ものです。
読んで頂ければ幸いです。
これは、ある卒業パーティーの会場で起きた悲劇(喜劇)?の物語である。
「マリオネット!お前との婚約を破棄する!」
突如響いた婚約破棄発言に、会場にいた皆が驚愕した。
それはそうだろう。今まさに破棄を言われた私も驚いているもの。
よりによってこんな日にこんな場所でやらなくても・・・。
皆も呆れ、憐憫の視線を向けてきている。中には、好奇心丸出しの視線もあるわね。あれは、ゴシップ好きの方達だ。
私が、反応せずにいたので痺れを切らしたのだろう。婚約者(いやもう元婚約者でいいか)のハーキがもう一度告げてきた。
「おい!マリオネット!聞いているのか!?お前との婚約を破棄すると言っているだろうが!」
さすがになにかしら答えてあげた方がいいわよね。
「まあ、そうですか。」
とりあえずこれでいいか。
ああ、私の両親に婚約破棄されましたと連絡をしないと。
「ッ!お前のそんな可愛げのない態度が悪いんだ!婚約者である俺を敬う気配もないし!」
「まあ、そうですか。」
ああ、迷惑男の家にも婚約破棄されましたと連絡しないと。
「それにお前は俺の友人のアイネをいじめていただろう?嫉妬とは見苦しいな!」
「まあ、そうですか。」
友人?ああ、腕にぶら下げてる人のことね。それにしても阿保は堂々の浮気宣言よね。これ、向こうの有責でいいのよね。
それにいじめって、そもそもアイネさんの存在も今知ったばかりなんですけど。
「アイネは優しいからな!今ここで謝罪するなら許すそうだ。慰謝料も請求しないでおいてやろう。」
「まあ、そうですか。」
なんの謝罪よ?それに慰謝料って私が請求する方じゃないの?
「どうした?今さら後悔か?まあ、もう遅いがな!」
「まあ、そうですか。」
確かに後悔しています。馬鹿と婚約していたことを。
「早くしろよ。ごねたところで、俺の心はもう恋人のものだ!残念だがな!」
「まあ、そうですか。」
友人が恋人に聴こえるわ。確かに残念(な頭)ね。
「いい加減にしろよ!早く俺とアイネに謝れ!」
「まあ、そうですか。」
謝罪対象が増えたわ。でも、謝罪は欲しいわね。こんな茶番劇に巻き込まれてる私に。
「ッ!お前「待って・・・、マリオネットさんもハーキからの突如の婚約破棄できっと混乱してるのよ。怒鳴ってはかわいそうだわ。」・・・そうか、君は優しいな。アイネ。」
「マリオネットさん・・・。お願いです。謝ってくれるだけでいいんです。」
「まあ、そうですか。」
あら、恋人さん参戦ですね。
それにしてもまだかしら。
「もう、認めてください。ハーキを解放してあげて?」
「まあ、そうですか。」
私の方こそ、もう解放して欲しい・・・。
「マリオネットさん・・・。お願い。」
「マリオネット、俺のことはもう諦めてくれ。」
「まあ、そうですか。」
そろそろ限界が・・・。
「マリオネット!いい加減にッ!?」
ゴトンッ!!??
「まあ、そうですか。」
「うああぁぁぁ!?」
「きゃぁぁぁぁ!?」
あっ、しまった。首とれちゃった。
・・・。
苛立った馬鹿に強く押されてバランスを崩して転倒したらしい。打ちどころが悪く、首がとれてしまった。
「「「うわぁぁぁぁ!?」」」
「「「きゃぁぁぁぁ!?」」」
「く、首が!?」 「ひ、人殺し!!?」
ああ、会場の皆にも見られてしまった。どうやって収拾をつけたらいいのかしら?
馬鹿と阿保は恐慌からの放心状態。確かに目の前で首がとれたらそうなるかしら?
まあ、私の事情を全く知らなかったのだろね。アイネさんや他の皆はともかくハーキは婚約者だったのに。はあ。
「ハァァァキィィィィ~!!この馬鹿息子ガァァァァァ~!!!」
あら、ハーキのご両親の登場ね。
あ、ハーキがハーキ父に殴られて・・・飛んだわ。人ってあんなに飛ぶのね。
「きゃあ!?ハーキ、大丈夫?」
あっ、アイネさん復活したわ。ハーキが飛んだのが良かったのかしら?
「マリオネット。はい、首だよ。」
あっ、お父様ありがとうございます。
いつ、いらしてたの? ちょうどハーキが飛んだとき?
まあ、お母様は?会場を壊しそうだからこない?あらあらまあまあ、それはそれは・・・。
「それで、婚約破棄されたそうだけど大丈夫かい?」
ふふ、ありがとうございます。ええ、大丈夫です。むしろされて良かったと思っているくらい。
「そうか。ならいいんだ。」
でもお父様。向こう(ハーキ)は私の状態を知らなかったみたいなの。
「おや?それは聞いているはずなのに困った子だね。」
そうなの?忘れたのかしら?
「父上!?何故ここに? 痛ッ!殴るなんて酷いではないですか!」
「馬鹿を殴って何が悪い!?」
あっ、父親からも馬鹿と認識されて・・・。
「ハーキ、大丈夫?」
「アイネ、心配してくれるのか?」
「もちろんよ。貴方は私の大事な人だもの。」
「アイネ・・・!君はなんて優しい人なんだ!」
う~ん。あの二人頭、お花畑なのかしら。
「ハーキ!お前、マリオネット嬢がいながら!浮気をした挙げ句、婚約破棄をお前からしたと言うではないか!」
「そうです!父上!あの女はここにいるアイネを虐げていたのです!そのような者!オ、私に相応しくありません!」
浮気を否定していないような?いいのかしら?
「う~ん?よくはないと思うよ?」
ですよね。お父様。
「なにを言っておるのだお前は!」
「そうですよ。仮にマリオネットさんがそこのお花畑さんをいじめていたとしても、婚約者がいる男の人にいいいよった阿婆擦れ(アイネ)さんが一番悪いのです!」
ハーキ母、阿婆擦れって言っちゃってるわ。う~ん?私、いじめていないのだけれど・・・。
「そ、そんな。酷いですお義母様!私とても怖かったのに!」
アイネさんすごいわ。すでにお義母様呼び。
「何故?貴方に母と呼ばれなければなりませんの?不愉快です!」
「ひ、酷い!私、ただハーキのご両親とも仲良くしたいだけなのに!!なのにそんな!あんまりです!うう、ハ~キィ~。」
あっ、ハーキに泣きついたわね。
う~ん?でもなぁ・・・。
「アイネっ!母上!アイネに酷いことを言わないで下さい。アイネは被害者なのに!父上も母上もどうしてあの女の肩をもつのですか!?」
「「何を言っているんだ(の)?当然のことだろう(でしょう)?」」
ああ、あの馬鹿は訳がわからないという顔。常識的な親は浮気相手より婚約者の肩をもつものなのにね。
それにしても、もう少しで『私自身』がパーティー会場につくところなのに。馬鹿のせいでスムーズに交替が出来なくなってしまったわ。
あら?なんです、お父様?この際だから派手に?堂々と行こうと?
「まあ、そうですか。」
あら?ごめんなさいお父様。馬鹿の時と同じ受け答えに。ふふふ。そうですね。あまり目立ちたくないのですが、もう着いてしまいましたし、仕方ないですね。
「さて、(引導を渡しに)行きますか。」
騒ぎの中心に向かうと、私に気付きはじめた人達が道を空けてくれた。
ふふふ。驚いてるわ。まあ、それも当然かな?
同じ人物が同じ場所に二人(片方は首取れ状態)、私に姉妹はいないしね?
「遅れてしまい、すみませんでした。お父様、ただいま帰りましたわ。」
「「えっ!?」」
「ああ、お帰りマリオネット。無事でなによりだよ。」
「ふふ。ありがとうございます、お父様。」
「マ、マリオネット!?どういうことだ??」
あらまあ。ハーキたら、人を指差してはいけませんのに。しょうがない人ですねぇ?
アイネさんは・・・まあ!あんなに口を大きく開けて淑女らしく在りませんわ。そしてハーキと同じく人を指差してはいけませんよ?
「お二人とも人を指差してはいけませんよ?紳士、淑女にあるまじき行為ですわ。」
「「はぁ!?」」
あら、息ぴったり。
「おま、お前ふざけるなよ!?なんでお前が二人いるんだ!?」
「そ、そうです!なんなんですか!二人って?しかも!片方首取れたままだし!ありえない!!」
本当に騒がしいですねぇ。せっかくの卒業パーティーですのに・・・。これ以上は皆さんのご迷惑になるのでは?
えっ?もうなっている?まあ、ふふふふふ。
「まあ、そうですか?ふふふ。この言葉も貴女方に言うのは本日、何回目でしょうか?」
「「なっ!?」」
「まあ、アイネさんはともかくハーキ様は私の婚約者でしたのに、こちらの事情を憶えてないとは。」
ここで、『あの子』と二人でため息をしつつ、扇で顔を隠してみる。と、案の定お花畑二人が噛みついてきた。
「ふざけるな!!」 「ふざけないで下さい!!」
まあ、予想通りの反応だこと。もうちょっと、こういじりたくなりますわね。でも、早く『あの子』も直してあげたいですし、ハーキのご両親の顔色も悪そうですし、会場の皆さんも焦れてきておりますし。
では、種明かしといきましょうか。
「まあ、そんな風にどならないでいただきたいですわ。私そっくりなこの子は『自動式人形』。私が留学先の隣国と共同で開発しましたの。」
「「はっ!?」」 「「隣国と?」」
「マリオネット、お前、留学してたのか・・・?」
まあ、あの馬鹿は私が留学していた事さえ記憶にないと・・・。
「ええ、そうですわ。1年程前から。ハーキ様には何故かお会いできなかったので、手紙にてお知らせしましたが読んでいらっしゃらないのでしょうか?」
そうなのだ。本来なら直接会って話す予定だったのだ。
「えっ!?いや、てっ手紙?」
「ええ、手紙です。何度か大事な話があると先触れもお出ししましたが、ハーキ様からは連絡がなく、ならばと屋敷の方へと出向きましたがいつもハーキ様はいらっしゃらなかったので。致し方なくハーキ様のご両親に渡してくださるようお願い致しました。」
「い、嫌。しらな・・い?」
顔を青くして両親を見るハーキ。そんな息子に対し
「いや、確かに渡したぞ。」
と、少し冷静になられたハーキのお父様からのお言葉。さらに顔色が悪くなるハーキ。
大方、読むまでもないと捨てでもしたのね。元々乗り気ではなかった婚約だったようだし、あの頃からすでにアイネさんに夢中でしたから。
まあ、それよりも『あの子』ね。つい、脱線しそうになりました。
「まあ、手紙の事は今は良いのです。」
あっ、ハーキの顔色が少し戻ったわ。別に許したわけではないのに、
「先程も言いましたがこの子は『自動式人形』。隣国での出発予定がずれてしまいまして、卒業パーティーに間に合いそうになかったものですから、私の代わりに『自動式人形』を試運転も兼ねて出席させました。」