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魔術師シリーズ

アイテムは正しく使いましょう~勝手な改造はダメなんです!~

作者: 平奥

本作は「召喚術は失敗じゃありません!!召喚したのは勇者様です……よね?(R6.7.12タイトル変更)」から生まれた物語です。

本作のみでも問題なく読んでいただける……はずですが、「召喚術は失敗じゃありません!!召喚したのは勇者様です……よね?」も併せてお読みいただけると嬉しいです。

 

 犬、猿、雉は、たったひとつの吉備団子という報酬のために、命を賭けた鬼との戦いに連れて行かれた。


 わたしはお金という報酬のために、命をかけてはいないが鬼上司と戦っている。 


「桃太郎カンパニーよりはマシなのかしら……」


 けれど、今日で十七連勤だ。あり得ない。


「休みをください……」


 わたしは鬼ヶ島……ではなく、鬼上司の研究室で、誰にでもなくつぶやいた。


「フェリシア、開発者はお前だ。つべこべ言わずに働け」


 そうわたしに言い放ったのは、今まさにわたしが戦っている鬼上司、この魔塔の筆頭魔術師である、オニギュスト……ではなく、オーギュスト・アンブローズ様だ。


「オーギュスト様、知っていますか? 休息は単なる怠けではなく、生産性を高めるための重要な要素なのです。人間は一定の時間以上働き続けると疲労が蓄積し生産性が低下します。しかし、適切な休息を取ることでわたしたちはエネルギーを回復し、集中力を高め、創造性を刺激することができます。だからこそ!休みなく働き続けるよりも、適度に休むことでより良い結果を残すことができるのですよ!」


 わたしは、切実に訴えた。


「フェリシア、その理論は一理あるが、現実はそう単純ではない。我々が直面しているのは厳しい締め切りと競争だ。休息が必要な時はあるが、それは全ての状況に当てはまるわけではない。時には我々は自分自身を超えて働かなければならない。我々は常に最善を尽くし、限界を超えて挑戦するのだ。それが我々の仕事だ」


 オーギュスト様は無情にもそう言った。彼には通じなかった……。


「癒しが……、癒しがほしいんですよぅ……!!」


 わたしがそう願いを込めて言ったとき、一瞬ふわっと身体が浮き上がるように感じた。

 そして次の瞬間、わたしはオーギュスト様の膝の上にいた。


「な、なな、何するんですか!?」

「癒しがほしいんだろ?」


 オーギュスト様はその芸術品のような美貌に笑みを浮かべ、両腕でわたしを閉じ込めた。


「オオオ、オーギュスト様!?」

「何だ」


 彼はその両腕に力を入れて、わたしをぎゅうっと抱きしめた。


「働きます!働きますからぁ!!」

「そうか」


 わたしがそう言うと、再びふわっとした感覚に包まれて、わたしはもといたデスクに戻っていた。


 この人は……!!


 わたしはデスクに顔を埋めて、赤くなったそれを隠した。


 見えないけれどわかる!! オーギュスト様はきっとニヤついている。彼はわたしの反応を楽しんでいるのだ。

 少し前までは、オーギュスト様が笑ったところなんて見たこともなかったのに!!


「それが好きな女性に対する態度ですか……」

「ああ」


 独り言のつもりで聞こえないようにつぶやいたのに、オーギュスト様は恥ずかし気もなく答えた。


 顔や家柄だけでなく、耳も良いんですね……!


 そう、このお方、魔塔の筆頭魔術師という地位の他に、アンブローズ侯爵という地位も持っている。


 そんな天に二物も三物も与えられた彼だが、何と、わたしのことを好きなんだそうな……。


「フェリシア、さっさとこれを終わらせろ。先に進めない」

「はいはい。わかりましたよ……」


 次の案件何だっけ……。




 ***




 我がジルファリア王国では数百年周期で魔王が復活する。約二年前がまさにその年だった。


 魔王復活が間近に迫っていると予言され、わたしたちは召喚の儀式を行った。

 魔王は異世界より召喚した勇者でなければ討つことができないからだ。


 わたしは当初、召喚術メンバーではなかったのだけれど、オーギュスト様から召喚術に加わるよう命じられ、急遽召喚術メンバーになった。


 召喚術は成功し、見事勇者様を召喚したのだが、この勇者様、歴代の勇者様とはちょっと感じが違った……。


 まあ、見事魔王を驚くべき早さで討ち取り、勇者であることは間違いなかったのだが。


 その勇者様、現在では騎士団に所属し、騎士として働いているが、ただいま育休中である。

 わたしの先輩であった侯爵令嬢のキャサリン様と結婚し、今では一児のパパなのだ。


 勇者様とキャサリン様の子供の名付け親はわたし、フェリシア・フェンドルトンである!

 頼まれたわけではないが、口を出さずにはいられなかった。勇者様のセンスには任せておけなかったのだ。あの子が大きくなったら感謝してもらいたい。


 そして、わたしが休む間もなく働いているのは、この勇者様の要望が始まりだった。


 勇者様は意外にも子煩悩で、子供の成長を記録に収めたいとカメラを所望した。


 わたしは作った。前世、1990年代に日本で流行ったアレを!

 そして、調子に乗ったわたしは、さらにシリーズを開発した。

 わたしが開発したアイテムは以下の通りである。



『見えルンです』魔獣の魔核が見える特殊なレンズを備えたメガネ。

『聞けルンです』遠くにいる魔獣の鳴き声が聞こえる魔法の耳飾り。

『跳べルンです』跳躍力を大幅にアップさせる魔法の靴。

『消えルンです』魔獣から使用者の姿を隠す魔法のマント。

『止めルンです』魔獣の動きを一時的に封じる魔法が込められた矢。



 これらのアイテムは、騎士が魔獣討伐の任務に挑む際に大きな助けとなり、彼らの命を守る重要な道具となった。


 注文が殺到し、改良の依頼も絶えない。そのため、わたしたちは常に忙しく働いているのだ。売れ行きがこれほどとは、正直予想外だった。




 十七連勤を終えヘトヘトになって寮に帰ると、実家から手紙が届いていた。


 『チチスゴクゲンキ、ハハモ。スグカエレ』





 ***




「ここどこよ?」


 わたしは迷子になってその言葉を発したわけではない。


「僕はダニエル。隣国ノレアス王国から来ました」


 わたしの質問には答えず、目の前の男性はそう言った。





 実家からの手紙が届いた翌日、父の呼び出しを理由にオーギュスト様に休日を申請したところ、予想外にもすんなりと承認された。

 父に呼ばれたくらいで休めるとは!

 父よ、もっと頻繁に呼んでくれ。


 どうせ父の呼び出しなんて大した内容ではないだろうから、さっさと済ませてのんびりしようと、休日の喜びに胸を弾ませて馬車に揺られていた。


 わたしはブレスレット型転移装置を持っているが、それはプライベートでは使わないことにした。なぜなら、わたしのブレスレット型転移装置には、前世で言うGPSが付いていて、わたしの居場所が常にオーギュスト様に知られてしまうからだ。わたしがよく迷子になるからその対策のためだというのだが……。


 馬車に揺られながら心地よい風を感じていると、前方から突然人が飛び出してきて、馬車は急停止した。

 外に出て事態を確認しようとした矢先、後ろから忍び寄る人影に気づかず、いつの間にか別の馬車に乗せられ、見慣れない場所へと連れ去られていた。


 わたしは今、手足を縛られた状態で、町外れの古い小屋の中……ではなく、王族が宿泊するような豪華な一室のテーブルセットについている。

 もちろん手足も縛られていない。


「お願いします! 力を貸してください! あなたの協力がなければ、僕はもう終わりです……」


 ダニエルと名乗った彼は、切実な表情で語り始めた。


「僕には婚約者がいます。とても可愛い大切な婚約者です。僕たちは愛し合っていました。しかし、彼女は転んで頭を打った後、僕が愛しているのは自分ではないから婚約を破棄してくれと言い出したのです」


 聞いたことがあるような話ね。


「当然僕は婚約破棄などしません。すると彼女は僕に嫌われようと、自分と結婚したければ、神の宝玉の聖杯、世界樹ユグドラシルの枝、フェニックスの羽根で編まれたマント、ドラゴンの鱗で作られた宝石、精霊の水瓶を持ってくるようにと言ったのです」


 それも聞いたことがある話ね……。そのご令嬢、月から来たのかしら。


「それで、わたしを攫っておきながら、わたしに協力してもらいたいこととは? まさかそれらを作れと?」


 わたしがそう言ったとき、ダニエル様の侍従だという人物がワゴンを押しながら入室し、お茶の準備を始めた。

 テーブルの上には目を見張るような美味しそうなケーキや、宝石のように輝くフルーツタルトが並べられた。


 こ、これは……!! “ル・ショコラ・デリス”の一日五個限定の“ヴェルソワール・フォンダン”よね!?


「いいえ、あなたにお願いしたいのは……」


 一個三千エーンの超高級ケーキ様に免じて、考えるくらいはしてあげよう。


「えーと、ダニエル様? 取り敢えずいただきます!」

「どうぞ……」


 わたしは早速フォンダンを一口食べた。


「あなたの発明品に『見えルンです』というメガネがありますよね?」

「うん!」


 美味しいぃ~~~っ!! 


 ヴェルソワール・フォンダンは、その名の通り、口の中でとろけるようなフォンダンの滑らかさが際立っていて、チョコレートの濃厚な味わいが繊細な甘さと絶妙に融合している。

 まさに至福のひととき!! タルトもいただこう。


「それを改良していただきたいのです」

「うん!」


 これも美味しいぃ~~~っ!! 


 タルトのサクサクとした食感と、フルーツの爽やかな酸味が絶妙に調和していて、まるで音楽のハーモニーのように味覚を奏でている。

 このお茶もきっと高級品ね。普段わたしが飲んでいるお茶とは香りが違うもの。


「相手の愛情を見えるようにしていただきたいのです」

「うん!」


 オーギュスト様の研究室の高級茶とは、また違った味わいだ。上品で繊細な香りと層を成すような洗練された風味が、間違いなく高級品であることを物語っている。


「彼女に僕の真実の気持ちを見てもらいたいのです」

「そうよね~」


 高い物には高いなりの理由があるのよね~! これらの繊細な味わいの重層性と、手間ひまかけた職人技の結晶が、まさにその価格を正当化しているわ。


「では……ご協力いただけるのですね!?」

「へっ?」


 ダニエル様はわたしの手を取り、目に涙を浮かべながら「ありがとう!ありがとう!」と繰り返している。


 しまった……。ケーキに夢中で途中から聞いてなかった……。



 そのとき、窓に影が差した。そちらに顔を向けると、ガシャーンと言う大きな音を立てて窓が割れ、オーギュスト様が現れた!!


「な、なな、何やってるんですか!?」


 わたしが驚いて声をあげると、オーギュスト様は冷静に言った。


「それは既にここにある」


 それとは……?




 ***




 オーギュスト様は、ダニエル様に『見えルンです』を差し出した。


「これは貴方が望むような改良を施したものだ」


 『見えルンです』を改良? 誰が?


「えぇっ!? オーギュスト様が改良したんですか!? 何のために!? それ以前に、なぜわたしがここにいることを知っているんですか!? 転移装置は着けていないのに!! あれっ? ちょっと待って……? なぜ話の内容まで知っているんですか!? 窓から現れたのはなぜですか!?」


 わたしが半ばパニックになりながら言うと、オーギュスト様は呪文を唱えて割れたガラスを元に戻した。


アライン(Align)グラス(Glass)コンストラクト(Construct)


 ガラスだけに……?



「ジルファリア王国筆頭魔術師、オーギュスト・アンブローズ卿とお見受けいたします。卿の婚約者である、フェリシア・フェンドルトン男爵令嬢への無礼、どうかお許しいただきたく。私が望むものがここにあるとは……」


 呆然としていたダニエル様がオーギュスト様に尋ねた。

 わたし、オーギュスト様の婚約者じゃないんだけど……。


 オーギュスト様はわたしが開発した製品を並べて説明を始めた。



「な、なんですってぇーーーーーーっ!?」



 オーギュスト様はわたしが開発した製品の幾つかを改良していた。



『見えルンです』は、相手の恋愛感情が見えるように改良。

『聞けルンです』は、遠くにいる相手の周囲の声が聞こえるように改良。

『跳べルンです』は、一瞬で相手のもとへ跳べるように改良。

『消えルンです』は、周囲の人々の視界から使用者の姿を隠すように改良。



「全てプロトタイプだが、問題はないようだ」


 オーギュスト様は『聞けルンです』の改良品を使い、わたしたちの話を聞いていて、『跳べルンです』の改良品を使い、ここまで跳んできたと言う。


 そして……。


 オーギュスト様は『見えルンです』の改良品を掛け、わたしを見てニヤッと笑った!!


「きゃぁぁぁぁぁ」


 わたしは咄嗟に『消えルンです』の改良品を掴んで自らの姿を隠した。


「何をいまさら隠れることがある?」


 こ、この人は本当に……!!





 オーギュスト様からそれらを譲られたダニエル様は、何度も感謝を述べて、意気揚々と自国へ帰って行った。




 ***




 オーギュスト様とわたし宛てに、ノレアス王国のダニエル()()()()殿()()から手紙が届いた。


 手紙には、無事に婚約破棄を回避することができ、婚約者との絆がさらに深まったという深い感謝の意に見せかけた惚気がつらつらと書かれていた。


 幸せそうで何よりだ。


「オーギュスト様、ダニエル様が第二王子って知ってたんですか?」

「ああ。陛下が両国の友好関係を強化することにつながったと言って喜んでいたぞ。それより……」



 オーギュスト様は涼しい顔をしてそう言いながら、ソファーに座るわたしの横に腰を降ろし、わたしの太ももに頭を乗せた。


「な、なな、何するんですか!?」


 わたしは最近このセリフを頻繁に言っている気がする……。


「婚約者に膝枕してもらって何か問題があるのか?」


 かぁっと一気に顔が熱くなる……!

 そう、このオーギュスト様、なんとわたしの婚約者になっていた!!


 あの後実家に帰ると、フェンドルトン男爵家はお祭り騒ぎだった。なぜなら、アンブローズ侯爵家から求婚状が届いていたからだ。

 父からの呼び出しも、その求婚状が届いたことが理由だったのだ。オーギュスト様はそれを知っていて、すんなりと休日を許可したのだ。




 真っ赤な顔をしているだろうわたしにオーギュスト様は光る棒を渡した。


「何ですか? これ」

「『光ルンです』だ」


 それは、オーギュスト様が開発した光る耳かきだった。

 

 これを使えと?


 わたしは恥ずかしくて両手で顔を隠した。


「フェリ」


 オーギュスト様はわたしの名を呼びながら、わたしの両手を顔から離した。


 そして、グッと顔を引き寄せられ、二人の唇が重なった。





「これは必要なかったな」

「何ですか? それ」


 その矢、見覚えがあるんですけど……。


「『止めルンです』を改良した『射止めルンです』だ」






 ——おわり——







多くの作品の中から、この作品を読んでいただき、ありがとうございました。


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