天才君の護衛ちゃん
第四回なろうラジオ大賞参加作品第十弾!
「今日から貴方の護衛を担当する事になりました、桃生天音一等空尉と申します! 宜しくお願いします!」
「護衛って。ようは僕の見張りでしょ」
世界中から戦争が無くなり、それに伴い今まで戦争につぎ込まれていた分の金を国連は宇宙開発へつぎ込み、人類が月や火星に生活圏を創り出してから百数年。
余所の惑星に半分近くの地球人が移住し、地球にはそれなりにスペースが出来たものの……僕はそんな世界を回れずにいた。
それは、僕の頭が良過ぎるせい。
十三歳の時に飛び級で、大宇宙時代たる今も残るMITに所属し、そして学内で行った実験を通じ身の毛もよだつ数多くの兵器開発理論を考え付き……その頭脳が犯罪組織に悪用されないよう、国連の決定で軟禁状態にあるのだ。
ちなみに軟禁場所は、どこかの雪山。
そう簡単に脱出できないように目隠しされ連れてこられたから、さすがに場所は分からない。けど窓からの景色で雪山だとは分かる。
そしてその上で、国連は、念には念を入れ、なんらかの手段で脱出されないよう……護衛ならぬ監視役を送り込んでくるのだ。
ちなみに、今回の護衛は僕と同じくらいの身長の……少女だ。
まさか国連軍はそんなに人手不足なのか。それともこの娘も天才なのか。戦闘機操縦の。でもなんだろう。失礼だが雰囲気的に、天然に見える。
「それにしても、狭い場所に住んでますね」
そして、その予想は間違ってなかった。
天音一等空尉は僕がいる施設に入りいきなりそう言った。
「こんな場所にずっといて、息が詰まりません?」
「まぁ、詰まらないと言えば嘘になる」
「じゃあ今日は、私の自己紹介も兼ねて一緒に飛びません?」
「……は?」
※
そして僕は、地獄を味わった。
彼女がここまで乗ってきた愛機である、宇宙航行も可能な最新の戦闘機に乗り、なんと音速以上の速さで付近を飛び回ったのだ。おかげで吐きかけた。
「おまっ、僕はこういうの乗った事ないんだぞ? 最高速度で飛ぶ奴があるか!」
おかげでここがヒマラヤだと分かったがそれはそれとして苦しい。
「ごめんごめん。でも、良い息抜きになりましたよね?」
息どころか昼食まで抜きそうになった……と言いかけ、僕は思い直した。
まさか国連は、僕の理論を理解できない、悪用できない天然な監視役を、しかも同年代の娘を派遣する事で、僕がより脱走しないよう、息抜きができるようにしたんじゃないかと。
「いや、そこまで考えるか?」
だったら嬉しいけど、実際はどうだかな。
天音「それじゃあもう一回乗りますか!」
主人公「勘弁してッ!?」