2話 アルカナ号 中編
魔物の襲撃から助けられた僕たちは、案内人とともにオルノスに向かっていた。ただ、この町は先ほどの平原から少し離れており、案内人も1人だけだと思って予備の馬を連れていなかった。そのため数時間も3人で歩く羽目になった。
案内人は、こんなはずじゃなかったのにとぐちぐち文句を言っていた。
「まったく、1人だと思ったのになんで2人もいるんだか。あんまり時間がないってのに、まったく・・・」
「なあ、案内人さん・・・」
「なによ?」
「い、いや、なんでも」
涼介もこのように何度か話しかけてみてみるが、おそらく機嫌が悪いのだろう。いまだに案内人と話せずにいた。いまだにコミュニケーションをとれていない状況に今後の旅に不安が生まれてきた。ただ、彼女がしびれを切らして僕たちを置いていかなかったことだけが救いだ。後ろに背負っているライフルもさらに威圧感を増していた。
しばらくとぐちぐちと言っていた案内人だったが、さすがにずっと話さないのは気まずいのか、向こうから話しかけてきた。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私は案内人。呼ぶときは案内人でいいわ。あなたたちは?」
「俺は田中涼介、こいつは星田巧」
涼介が僕の分まで自己紹介をしてくれた。何を話したらいいのかよくわからなかったがとりあえず挨拶をした。
「た、たくみです。よ、よろしくおねがいします」
「ふん、あなた男のくせに弱弱しいのね」
「す、すみません。」
正直コミュニケーションをとるのは昔から苦手だ。涼介がいつも仲介してくれたから話していたが、昔から知らない人と話すのは苦手だった。
「ごめんな、案内人さん!こいつ、人と話すのが苦手でな。でも悪い奴じゃないんだ。」
「ええ、それにしてもあなた異世界に来たってのにずいぶん元気なのね。」
「そうか?まあ、異世界に来て悩んだところでしょうがないだろ。やる事をやるだけだよ」
「そうね」
涼介には申し訳なかった。僕のせいで案内人が涼介にも嚙みついてしまった。だが案内人は名前を名乗らなかった。少し気になったが、これ以上怒られるのも嫌だったので黙っていた。だが涼介も気になっているようだった。
「なあ、案内人さん」
「なんだ?」
「名前は教えてくれないのか?」
「私は案内人。それ以外に必要?」
「いや、嫌なら別にいいんだ」
「そう」
涼介はまだ気になっているようだったが案内人の圧がそれ以上聞くなとばかりだったので、さすがの涼介も遠慮したようだった。
だが、気になることも多くあった。この世界についてもそうだが、魔物や彼女のさっき言っていたアルカナ号などわからないことばかりだった。少し怖かったが勇気を出して聞いてみることにした。
「あ、あの・・・あ、案内人さん」
「なによ?」
案内人はおそらく僕のような人は嫌いなのだろう。強く返された。だが、あと数時間話せないままというのも辛いので頑張ってコミュニケーションをとってみる。
「き、聞きたいことがあるんですけど、この世界、それにアルカナ号って何ですか?」
彼女はあーとため息をついた後、しょうがないとばかりに説明をしてくれた。
「そういえば話してなかったわね。この世界は・・・」
彼女は僕たちに、この世界の歴史について教えてくれた。かつてこの世界は僕たちの世界以上に発展していた。そのころから異世界人が来ることは何度かあったらしい。
しかし、千年前の世界大戦によりほぼすべての文明が滅亡してしまった。かつての文明の影はあちこちにみられるが、かつての人類が生み出した強力な魔物や核兵器・化学兵器に汚染されて住めない地域が多くある。文明も大きく後退し、現在は僕たちの世界でいうところの産業革命前ほどだ。ただ、人口は圧倒的にこの異世界の方が少なく、各地に点々と国と町があるような状況だ。
魔物は以前の人類が兵器として人工的に作った生物が野生化したもの。はじめは駆除しようとしていたが、あまりの数、そして繁殖力に人類は敗北してしまった。
『アルカナ号』についても教えてくれた。アルカナ号は国際鉄道機構が運行する列車で、現在いるこの東の果ての国オルノスから、西の果てにある魔法都市国家パールまで向かう特別特急らしい。端から端といっても僕たちの世界でいうなら南アメリカの最南端からアフリカの最南端まで向かうほどの距離とのことだ。アルカナ号は異世界人を元の世界に戻すためだけに走らせているらしい。しかし異世界人もそれほど多くいるわけではないので半年に1往復しかしないことから、かなり貴重らしい。運が悪ければそれこそ半年ほど待たされることがあるらしいが、偶然にも今日の午前0時ちょうどに発車とのことだ。
案内人はその国際鉄道機構に雇われたもので、その名の通り、異世界人あらゆるものから守り、そして元の世界まで案内する。案内人はそれなりにいるが異世界人に比べれば足りない状況で2~3人を担当するのが通常とのことだ。今日の事のように発見したものが担当となり最後まで責任をもって案内するのだ。
僕たちの案内人はすでに数週間前にもう1人保護しているとのことで、町で合流したのちに向かうとのことだった。
「あ、ありがとうございます。」
「ふん、もういい?」
僕は感謝を述べた。ただやはり僕の態度が気に入らないらしく不機嫌なままだった。僕はそのまま黙り込んでしまった。
「そういや、さっきあの魔物を燃やしたやつとか、たくみの傷を治したのって何なんだ?もしかして魔法とかだったり!?」
そういえば涼介は僕と一緒にラノベとか読んでたので、かなりファンタジー好きだった。
「そうよ。魔法よ。人にはよるけど、だいたい異世界人は膨大な魔力を持っているから、あとは魔法を使う才能があればね。ま、そのうちわかるわ。そんなことよりほら、見えてきた」
彼女が指さす先を目を凝らして見てみた。そこには大きな城壁に囲まれた都市が地平線の先に見えてきた。僕たちの出発地『オルノス』だ。
魔法が使えるかもしれない。そんな希望に胸を膨らませ、僕たちは出発の地へと向かった。