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異世界鉄道の旅  作者: ゴリラタイプK
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1話 アルカナ号 前編


 ある日の夜。星空のきれいな山道を、2人の少年が車を走らせる。


 僕は友人の涼介と車を走らせていた。別にどこに行こうって気では無かった。旅行をするなら僕は車より電車の方が好きだった。高校を卒業し、車の免許を持っていたので何となく車を親から借りて、何となく旅に出かけた。


 涼介とは小学校からの親友だった。僕は体もそんなに大きくなく、細身で弱く意気地なしだったが涼介は体が大きく強く頭もいいのでいつも助けてくれた。なおかつイケメンだ。そして僕はそんな涼介に追いつきたくて勉強も運動もして、同じ高校に入ることもできた。同じ部活で涼介みたいにレギュラーには入れなかったが3年間やりきる事ができた。でも今年の春から違う道に進む。涼介は東京の有名な大学。僕は地元の企業に就職する。


 おそらくもう会えなくなる。だからこれが2人での最後の旅だった。人気のなくなった山の奥の頂上で涼介と将来について語り合った。2人で笑いそして再会を誓った。


 時計を確認するともう0時を回っていた。さすがに夜も遅くなってきたので帰る事にした。来るときは涼介が運転だったので帰りは僕が運転した。


 しばらく運転し、山を抜け間もなく街に入ろうとしていた。隣で涼介はぐっすりと寝ていた。再会を誓ったが今度会えるのはいつになるのだろうか、そんなことを考えていると、突然少女が飛び出してきた。完全に油断しており、なおかつ夜だったこともあり反応が遅れ少女と接触してしまった。またその反動で林の木に突っ込んだ。


 ぶつかってからはスローモーションのようだった。バンと言ったらいいのかドンと言ったらいいのかわからないが大きい音の後、強い衝撃が全身を襲う。エアバックが開き体を椅子に押さえつける。あまりの痛さに悲鳴を上げた。そして僕は涼介の安否を確認する間もなく意識が途絶えた。









 目が覚めた。見たことのない白い空間を漂っている。そう、僕は死んだのか。経験したことのない空間に自己完結した。だが、突然聞き覚えのある声が聞こえてきた。そう、さっきまで隣にいた涼介の声だ。


『おい、たくみ!たくみ!』


 たくみとは俺の名前だ。返事をしようとしたが、しゃべることができない。というか声の出し方を忘れてしまったような感覚だった。


『俺はこの世界で・・る。あ・・・・に生きる。だからお前は、・・・まで・・・・・』


 僕は涼介が何を言っているのか分からなかった。内容もそうだがノイズが走り、肝心なところが聞き取れない。最初は走馬灯かと思ったが、涼介にこんな言葉を言われた記憶がない。しかも、いつも頼もしいはずの涼介だが弱弱しく涙をこらえているような話し方だった。


『・・な、たくみ』


 そんな涼介の声を聴いて、話し方を忘れていたはずの口が勝手に動いた。人生でこんな大声は出したことがないほどに。


「りょうすけええええええええええええええええええええええええええええ!」






 

 そこで僕は目を覚ます。なぜかほほを覚えのない涙が流れていた。


 暖かく心地よい風を感じた。そこには見渡す限りの草原と青空が広がっていた。


 ここがどこか全く見当がつかずあたりを見回すと、涼介と目を合わせる。涼介も不思議そうな顔をしている。それもそうだ涼介は僕の隣で寝ていたのだから事故が起きたことなんか知る余地もないだろう。そもそも、夜だったはずなのになぜ日が出ているのか。車はどこへ行ったのか。謎ばかりだった。


「おい、たくみ。俺たちさっきまで車に乗ってたよな?」


「うん、そのはずだけど」


 2人でこの状況に戸惑って再度ぼんやりとあたりを見回していた。すると突然正面から大きな影が迫ってきた。


 僕と涼介は目を凝らして確認してみた。影の正体は大きな恐竜のような生物だった。全長は5メートルほどあり、よだれを垂らしながら大きな口を開けてこちらに迫ってくる。


ドス・・・ドス・・ドス・ドス。あの怪獣が動くたびに地面が揺れる。そしてその速度はだんだんと早まってくる。


 僕は涼介と顔を見合わせた後、全力で走り出した。こんな訳の分からないところに来た上に、よくわからない状況で訳の分からんやつに殺されるなんてまっぴらごめんだが、正直勝てそうな気がしない。それはもちろん涼介も同じであろう。いつもは頼もしい涼介だがさすがに一緒に全力疾走で逃げている。あんな必死な顔は久しぶりに見たかもしれない。


 2人で全力疾走で逃げるが僕はあまり運動神経のいい方ではなく、途中の小さな穴につまずいて転んでしまった。


「おい、何やってる!早く来い!」


 涼介が僕の身を案じて叫ぶが、すでに追いつかれてしまい大きな口が目の前にあった。よだれがぽたぽたと顔に垂れてきて、もうだめだそう思った。


 いや、死にたくない。そう思いとっさにかみつく瞬間に転がり避けた。だが、よけきれず肩にかみつかれた。


最初痛みは感じなかった。血しぶきが舞い、怪獣の歯が骨に到達したのかゴリッという鈍い音が体に響いた。その瞬間耐えられないほどの痛みが襲った。


「うわああああああああああああああああああ」


 あまりの痛みに声を出したが意識がもうろうとした。少しちびったかもしれない。この大きな顎では腕なんかすぐもぎ取られるだろう。


 涼介が遠くから意識を引こうと石を投げ、逃げろと叫んでいるが、怪獣は目の前の僕という獲物に集中しているのか全く見ようともしなかった。


 もうだめだ。この世界で生きることをあきらめたその時、銃声のようなものが遠くから聞こえた。


 怪獣は悲鳴のような声を上げて口を肩から離した。恐る恐る怪獣の方を見てみると、怪獣の片目がつぶれ血が流れている。そして馬の駆け足とともに女性の声が聞こえてきた。


「Enkavma!(燃えろ)」


 次の瞬間火の玉が飛んできて、目の前で怪獣が燃え上がった。何が起こったのか分からず唖然としていると、涼介が駆け寄ってきて、少し離れたところまで引きずられた。


 燃える怪獣を2人で見ていると、先ほどの女性が目の前に来ていた。年齢は20歳ほどだろうか、身長は150センチぐらいで胸はあまりない。馬にまたがっており背中には先ほどの怪獣を打ったであろう大きなライフルがあり煙を吹いていた。


「あんたたち大丈夫?」


突然怪獣が燃えた驚きで忘れていたが、先ほど怪獣にかまれた痛みが再度襲ってきて、あまりの痛さに喘ぎ転がった。その姿を見て心配そうに涼介が寄り添う。


「大丈夫じゃねえ!こいつがさっきの怪獣にかまれて・・・!」


「噛まれたのね。どれ、見せて」


 涼介が僕の体を押さえつけ女性が片手で体を押さえながら傷口を見る。


「結構深いわね。でもこのぐらいなら大丈夫」


 そう言って彼女は手のひらを傷口に乗せ目を閉じた。


「Therapevo(癒せ)」


 そう言うと彼女の手のひらから光があふれ、傷口をふさいでいく。少し経つと光が収まり、少し痛むものの傷口はほぼ完全にふさがっていた。


「な、なんだそれは!」


「危なかったわね。もう少し遅かったらあんたの片腕なくなるとこだったわよ」


 今起きたことが理解できず涼介は彼女に問いかけるが、こんなの当り前かのように淡々と続ける。


 彼女曰くここは東の果ての国『オルノス』。理由はわからないが、異世界人は必ずこの国に来る。今日は異世界人が来た反応があり、たまたま手の空いていた彼女が確認に向かったところ僕たちがいたらしい。


 この平野はさっきのような怪獣、正式には魔物というらしいが、人間や大人しい動物が襲われるらしい。先ほどの魔物は比較して弱い方であるが、武器がなければ太刀打ちできるようなものではなく、中には助けが間に合わず食べられてしまう人も多いらしい。


 彼女の助けがなかったらと考えると僕はゾッとした。もしかしたら涼介と2人で死んでいたかもしれない。涼介と僕は顔を合わせて息をのんだ。彼女には感謝してもしきれないほどだった。


「あ、ありがとうございます。」


「感謝なんていいのよ。当たり前のことだし。そんなことより、あんたたちは帰るのよ。アルカナ号に乗って」


僕は感謝を伝えるが、彼女はそっけない態度で返してきた。ただ、気になる単語を言ったのでつい口に出してしまった。それは涼介も同じようだった。


『アルカナ号?』


「そう、アルカナ号。この世界とあなたたちの世界をつなぐ唯一の列車。そして私は案内人。あなた達を元の世界まで案内する案内人よ。」


 彼女が何を言っているのかよく分からなかった。ただ、元の世界に返れる。そして彼女は僕たちを元の世界に返してくれる。僕たちはその言葉に心の底から喜んだ。ただ、同時に本当に違う世界に来てしまったという現実を突きつけられ、何とも言えない不安を覚えた。



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