婚約破棄と新たなる婚約
魔王討伐が始まった。
いくぞおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
うおおおおおおおおおおおおおお!!!
村長の号令で最果ての村の男衆達が魔王軍へと続く道を切り開いていく。
同時に女性の村民は後衛に回り回復支援や攻撃魔法による援護攻撃を行った。
突然の攻撃は奇襲攻撃となり、魔王城近辺の魔王軍は困惑していた。
「さあ突っ切りますよ、お嬢様!」
「ええ!」
クロードがリナに合図を送る。
ユークリッドから溢れる勇気にあてられてか、戦場の恐怖を微塵も感じることなく敵陣へ突撃するリナ。
公爵令嬢とは思えない剣聖並の剣さばきで、立ち塞がる敵を切り伏せてはその足を前へと進めた。
気が付けばリナは、一緒に戦い背中を預けるクロードに不思議な一体感を覚えていた。
これが恋……って奴なのだろうか。
初めての感情と体験でリナが少し顔を赤らめる。
「大丈夫ですかお嬢様、顔が赤いですよ?」
「う、うるさい!なななんでもないわよ!」
バレない様に一生懸命取り繕うリナだった。
幸いクロードは鈍感で気付いてないらしく、それ以上つっこんでくる事は無かった。
―
そしてついに魔王城の中の最深部へとたどり着いた。
「人間の小娘に小僧か……我も舐められたも―」
「うるさい、黙れ!」
ザシュッ!!!!!!!
「ぐほぉっ!?」
魔王らしき人物がユークリッドの一太刀で両断される。
「お、お嬢様!?」
あまりの突然の出来事に狼狽えるクロード。
魔王は倒れた。
しかし物語のクライマックスはこれからである。
「さっき伝令が来たのよ!」
伝令の内容はこうだ。
“エスタリア・テスタロッサ公爵令嬢、ルーカス・ガルバディア王子と婚約決定す、結婚式近日決行”
「急げばまだ間に合うわ!馬を貸しなさい!」
リナは伝令を馬から引きずり落とすとそれに乗った。
乗馬も慣れたもので淑女のたしなみである。
「あなたも来るのよ!クロード!」
「えぇええええ!?」
クロードは引き寄せられると馬の後部に乗せられた。
本来ならクロードがエスコートすべきなのだが、完全に勢いに乗せられている。
ヒヒーン!
「はいよー、シルバー!!!」
馬は二人を乗せると、元婚約者と妹令嬢の待つお城へと向かった。
この時既にリナの恋の天秤は完全にクロードに傾いていた。
―ガルバディア城-特設結婚式場-
「そのドレスよく似合ってますよエスタ姫」
「ありがとうございます、ルーカス王子」
二人は相思相愛と言った感じで互いに頬を染め視線を逸らしている。
そして結婚式は始まり、二人が口づけしようとするその瞬間であった。
「その結婚式、ちょっとまったああああああああああああ!!!」
会場に乗り込んだのはリナ、とその後ろに申し訳なさそうに立っているクロードだった。
「リ、リナ……!」
「お姉様!」
二人はあたふたと弁明しようとするが言葉が出てこない。
「よもや妹に寝取られをかまされるとはね……完全に油断してたわ!」
「リナ、違うんだ!これは僕から誘って―」
「黙らっしゃい!そんな事はどうでもいいのよ!」
「え?」
きょとんとするエスタとルーカス。
「男から婚約破棄なんてされたら私に傷が付くでしょ!即刻破棄してあげるから再婚約しなさい!」
「ええと、私ことルーカス・ガルバディアはリーナ・テスタロッサと再婚約します……これで?」
「よし!その婚約は破棄よ!後は好きになさい!」
そしてリナはクロードの手を取り、こっそりとユークリッドを渡す。
クロードが手にした瞬間、本来の力は発揮できないただの剣になってしまったが別に問題はない。
今はただ勇者の装飾品として機能してくれればいいのだ。
私が真の持ち主であると知っているのは極一部の人間のみで、今の所バラそうとする輩はいない。
彼ら彼女らは後で口止めしておけばよいだろう。
「私ことリーナ・テスタロッサは、この魔王を倒した勇者クロードと婚約します!」
がやがやがやがや
騒めく招かれた客人達。
そして訳も分からず動揺するクロード。
そもそも魔王を倒したのはリナのはずなのに……何故自分に手柄を譲っている?
しかも平民である自分と婚約だって?
「成程、さすがお嬢様」
クロードは驚愕と同時に納得していた。
魔王を倒した勇者ならば平民の自分でも婚約対象として相応しいと世間に認められる。
狡猾なリナの事、そこまで考えての言動なのだろう。
これは今回の旅でリナが大きく変わった証拠でもあった。
「お嬢様、俺なんかで本当にいいんですか?」
「なによ、私じゃ……嫌なの?」
涙ぐんで上目遣いで見つめるリナ、そしてごくりと息を呑むクロード。
クロードは嫌ではなかった。
むしろ光栄な位である。
自分を拾ってくれた恩人でもあるし、これまでの数々の悪戯も彼には微笑ましい物だった。
元々クロードにはそういう気持ちがあった、が身分差の為に諦めていたのだろう。
更に今回の旅を通しての彼女の態度の変貌も魅力的で、一人の女性として惹かれていた。
多少ツンツンしてるが、今はもう性悪な性格ではなくなっている。
突然の事だったが既にクロードの気持ちは固まっていた。
リナが目をつぶると、クロードがキスをした。
再び湧き上がる客人達。
「わ、ワシは許さんぞ!そんな平民の小僧に大事な娘を!それに本当の勇者は娘の方―」
危うくバレそうになったのでリナが慌てて父の言葉を遮る。
「その大事な娘を魔王討伐に送り込んだのはどこの誰だったかしらぁ?」
父親の公爵を睨みつけるリナ。
しかたなくぐぬぬぬと引き下がる父親の公爵。
「お姉様おめでとうございます!」
「おめでとう、リナ!」
祝福するエスタとルーカスの拍手が会場に響き渡る。
そしてそれに続いてか客人達も拍手を次々とあげていく。
こうして公爵令嬢は無事婚約しましたとさ。
めでたし、めでたし
「めでたくなああああいいいい!!!」
ただ一人、拍手に埋もれず豪声を上げる父親の公爵であった
-完-
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