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前編

 晴れて相思相愛になったベアトリスはダニエルと結婚式を挙げることになった。ダニエルはグラン家の持つ爵位の一つ、メディルス伯爵を継いでいるのでベアトリスはクレメール嬢ではなく、メディルス伯爵夫人となった彼女は親類縁者はもとより、有力貴族が集うパーティで大勢の人から祝福を受けた。


「おめでとうベアトリス。ところで、あの凛々しい女性は誰なんだ? あんなに素敵な人を俺は見たことがない!」

 そう言ってきたのはベアトリスの従兄弟、ケヴィンである。

 バルギル侯爵の嫡男にしてギールグット伯爵位を持つ。目鼻立ちがはっきりとした容姿端麗な男だが、見た目に反して朗らかな男である。

 

 彼が視線を向けるのはドレス姿のアンである。

 騎士の服ではないものの、鍛えられた人間特有の引き締まった体躯は美しく、凛々しい顔は近寄りがたい雰囲気を持っている。


 ベアトリスはケヴィンの発言にあきれ返った。

『クールビューティーが男性の理想だなんてとんだ嘘だわ。ケヴィンだけの趣味じゃないの!』


 呆れ切ったベアトリスは投げやりに答えた。

「わたくしのお友達のアン・ユーベルですわ。彼女は素晴らしい女性には違いありませんけど、バルギル侯爵家を継ぐあなたとは身分的に難しくてよ」

 アンがケヴィンに惚れていたのなら全力で協力するつもりだが、ケヴィンの片思いなら特に何もする気はない。身分のある男性に言い寄られるのはアンの立場から見てあまりよろしくないからだ。


 さらに言えば、ケヴィンの言葉のせいで10年無駄にしたという怒りもある。

 一度、ケヴィンに「あのときすべての男性はクールビューティーが好きって言っていたじゃない!」と詰め寄ったことがあるのだが、ケヴィンは「メディルス卿が変なだけ! 男はクールビューティーに夢とロマンと愛を持っているんだ!」とあくまで持論を曲げず、その夜は心行くまで喧嘩したのである。

 

『思い出したらまた腹が立ってきましたわ……』

 ムカムカするベアトリスに対し、ケヴィンはアンと結ばれないかもしれない現実に項垂れた。しかし、すぐに立ち直った。

「友達になれないかちょっと聞いてくる!」


「相変わらず立ち直りが早い人だこと。あの性格だけは称賛に値するわ……」

 ベアトリスはケヴィンの長所を改めて感じていた。

 そして彼はクールなアンに怯むこと泣くアプローチを開始した。しかし、アンの視線は冷ややかである。

「ギールグット卿ですね。お目にかかれて光栄です」

「そんな堅苦しい。ケヴィンって名前で呼んでよ」

「ご希望に沿えず申し訳ありません。伯爵閣下と私とではご身分が違います」

「そこをなんとか!!」

 あっさりとしたアンの対応がますますケヴィンの心を掴み、どんなにつれない態度を取られてもケヴィンは諦めなかった。軽薄そうではあるが、ベアトリスの血筋を感じさせる真面目なところがアンの心を惹き付け、その日を境に二人は友人として親交を深めた。

 だが、恋人になかなか昇格できず、辛い片思いに涙を流す日々を送った。

 恋の苦しみを理解したケヴィンはついに「ベアトリス。君はこんな苦しい思いを10年間していたんだな。ごめんよ」と神妙にベアトリスに謝ってきた。ベアトリスは素直すぎるケヴィンに恐れおののくものの、メディルス伯爵夫人となったベアトリスは幸せの絶頂にいるので許してやることにした。



 しかし、幸せは続かない。

 ベアトリスの大好きなダニエルが王太子の外遊の警護として指名され、しばらく国を離れることになったのである。

 ベアトリスは寂しいながらも、ダニエルの誉を心から祝福して見送った。

 ダニエルが出国してベアトリスは寂しい日々を過ごしたが、アンとケヴィンが元気づけるために色々な所へ連れ出してくれたため、それほど落ち込まずに済んだ。

 そして、ベアトリスのためにアンとケヴィンが一緒に行動するうちに、徐々にアンはケヴィンを意識し始め、その半年後、二人は友人関係から恋人関係へとようやく移行した。


「私、ケヴィン様とお付き合いをすることになりました」

 少し顔を赤らめながら交際を告白したアンにベアトリスは目を丸くする。

「だ、大丈夫ですの? アレは端麗な見た目ですけれど、中身はちょっと抜けているというか……頼りない男ですわよ?」

 さんざんな言いようだが、ベアトリスはケヴィンに趣味を押し付けられて10年を無駄にしたのでこれでも言い足りないくらいである。一時は許したが、ダニエル不在の今、ベアトリスに寛容さがなかった。


 アンはベアトリスの言葉に怒りもせず、優しくほほえむだけだった。

「やるときはやるお方です。それに真面目で……なにごとにも無邪気に楽しむ方です。そういうところをお慕いしております」

 顔を少し赤らめて言うアンにベアトリスは急に恥ずかしくなって赤くなった。

「そ、そうですのね。わかりましたわ。アンがいいのでしたら止めはしません」

 一度覚悟を決めたベアトリスは行動が早い。

 どこかの有力貴族をアンの後見人にして結婚を実現させようと動き回った。


 しかし、そんなベアトリスの邪魔をする者が突然現れたのである。

 それがケヴィンに思いを寄せるシャーロット・マクダウェル伯爵令嬢だった。


 ケヴィンに相手にされない嫉妬からアンに様々な嫌がらせを行いはじめたのだ。

 気づいたベアトリスが阻止しようとしても、

「メディルス伯爵夫人がご実家の身分を笠に着てわたくしをいじめてきますの!!」

 とパーティのまっ最中に泣きわめくのである。

 また、偽ダニエル……もといイメリオが広めた噂を掘り起こし、

「メディルス伯爵夫人は噂通りの悪女ですわ。アンという女もベアトリス様の片腕として様々な悪事を働いてきましたの!! 身分の低い令嬢を転ばせ、挙句の果てに手の甲を足で踏みつけて砕いてしまったのですわ」

 とイメリオの話以上に盛りに盛って色々な場所で吹聴する。


 マクダウェル伯爵に何度もグラン侯爵家、クレメール侯爵家の名で抗議をしたが、伯爵夫人が「私は隣国デルシアナ王国の公爵家の娘ですのよ。たかが侯爵ふぜいにとやかく言われたくありませんわ!」とまともに取り合わない。実際、伯爵夫人は諸事情でマクダウェルに嫁いできた隣国の公爵家の娘なので強硬に出られないのである。


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